Web 2.0 Expoのキーノートセッションは、一部を除いてほとんどが公開インタビューまたはパネル討論形式で進められた。キーノートを通じて新製品や新サービスの発表が行われなかったという点では盛り上がりに欠けたのだが、インタビューにはインタビューの面白さがあった。インタビューワとのやり取りから推測すると、事前に質問の詳細まではスピーカーに伝えていなかったのだろう。時に大胆な質問に会話が止まったり、スピーカーの歯切れが悪くなるなど、緊張感のあるインタビューだった。中でもGoogle CEOのEric Schmidt氏への公開インタビューは、DoubleClick買収合意の発表直後というタイミングもあって、大きな注目を集めた。
インタビューワは、Federated Media PublishingのチェアマンでWeb 2.0 Expoの共同チェアでもあるJohn Battelle氏。同氏は過去にGoogleの創設者の1人Sergey Brin氏にインタビューした際に、Brin氏が「DoubleClickのような押しつけがましく派手な広告はGoogleのスタイルではない」と述べていたことを紹介。そのDoubleClickをGoogleは31億ドルで買収する。これについてSchmidt氏は「2004年以来、DoubleClickは事業スタイルを変化させてきた」と指摘。またGoogleも近年、ラジオやテレビの広告に進出するなど広告提供の場の拡大を図っている。その変化の中で両社の接点が生まれた。また「広告の核心は関連性である」という点で両社の意見が一致しており、GoogleとDoubleClickのテクノロジの結びつきはネットユーザーと広告主の双方に大きなメリットをもたらすと強調した。さらに「広告はアートであり、そしてサイエンスだ」とSchmidt氏。「われわれはアーティストにサイエンスをもたらす」と述べていた。
MicrosoftやAT&Tが反トラストの観点からGoogleのDoubleClick買収を批判していることにBattelle氏が触れると、すかさず「えっ、MicrosoftとAT&Tって言った?」とSchmidt氏。しかし、Googleの独占を懸念しているのはライバル企業だけではない。一部の米国の公益団体もGoogleに個人や企業の情報が集中するリスクを不安視している。これに対してSchmidt氏は、成長著しいオンライン広告は注目分野だが、巨大な広告市場全体から見れば、まだまだ小さなカテゴリに過ぎないと指摘。Googleもまた、広告メディアに足を踏み入れたばかりであり、オンライン広告のパイを広げるための方法を試行錯誤している存在に過ぎないと説明した。またGoogleの事業は"信頼"の上に成り立っているとも付け加えた。ユーザーや広告主からのサポートを失えば、すぐに失速してしまう事業であり、Googleが事業拡大のために戦略的に世界中の情報を手中に収めようとしているという指摘は「全く現実的ではない」と反論した。
現時点でGoogle批判のもう一つの的となっているのが、YouTubeにおけるユーザーの著作権侵害行為の問題だ。これについては「Googleは(著作権)法に従っている」とSchmidt氏。Viacomに訴訟を起こされたが、「YouTubeはViacomの要請に応じてすぐに10万のビデオを削除し、その後に提訴された」。
同氏によると、Viacomから要請されたビデオを削除した後でもYouTubeのトラフィックは増加した。つまり「YouTube人気を支えているのは、ユーザーオリジナルのビデオコンテンツ」であり、これらを総合すると「Viacomの提訴は交渉戦略の1つだ」という考えを示した。