3歳までにむし歯菌に感染しなければ、一生むし歯にならないの?

歯がはえる前の乳児の口に、むし歯菌は感染できません。むし歯菌は歯がないと生息できないからです。注意したいのは、生後1歳半~2歳半(19~31カ月)の頃。「感染の窓」と呼ばれるこの時期は、むし歯菌に感染しやすいので気をつけなければなりません。

では、「感染の窓」を過ぎて3歳までにむし歯菌に感染しなければ、一生むし歯にならないのでしょうか。今回は、その噂の真相に迫ります。

口腔細菌フローラとは何か

口の中では、"口腔細菌フローラ"がつくられ、500種類以上の細菌が生息しています(※1)。数多くの調査で、むし歯をもつ子供は、ミュータンス菌(代表的なむし歯菌)が口腔細菌フローラの30%を超えていることがわかっています(※2)。つまり、口腔細菌フローラの中でミュータンス菌が増えると、むし歯になりやすくなるということです。

健康な大人の口腔細菌フローラでは、外から来た細菌は簡単には口の中に生息できません。ただ、なかなか予約がとれない人気のレストランでも、何らかの理由で空席ができれば入店するチャンスがありますよね。それと同じで口腔細菌フローラでも、乱れた食事や環境変化など条件がそろえば、むし歯菌にとって感染するチャンスになります。

子供のむし歯を防ぐためには、まずは生後1歳半~2歳半頃の「感染の窓」の時期に注意しましょう。そして次に注意したいのは、6~12歳頃。この時期は「第二の感染の窓」と呼ばれ、乳歯から永久歯にはえかわり、口腔細菌フローラに大きな変化が起こるので、むし歯菌に感染する可能性があります(※3)

つまり、3歳までにむし歯菌に感染しなくても、将来的にむし歯菌に感染する可能性はあり、食生活やオーラルケアが疎かになれば、むし歯にはなってしまいます。歯がはえてから3年程度は、歯が未成熟です。乳歯は2~5歳、永久歯は7~15歳が特にむし歯になりやすい時期なので注意しましょう。

母親と子供のむし歯菌は共通している

冒頭で触れたとおり、生まれたばかりの子供の口の中は無菌です。母親や育児に関わる人から細菌が感染し、口腔細菌フローラがつくられます。

DNAパターンを分析すると、母親と子供の間でむし歯菌は共通しています(※2)。これは、何も対策をしなければ、将来的に母親と子供の口の中は似てくるということ。子供が生まれてからはもちろん、生まれる前から、お母さんは口の中を清潔に保つことが大切です(※4)

そして母親だけでなく、育児に関わる人も同じように気をつけなければなりません。むし歯を放置していたり、乱れた食生活を送っていたり、オーラルケアを疎かにしていたりすると、口腔細菌フローラの中でむし歯菌が増えてしまいます。不健康な大人の口腔細菌フローラに生息するミュータンス菌は、だ液などを介して子供に感染します。育児に関わる人が口の中の管理を疎かにしている場合、大人と子供でスプーンや箸を分けたほうがいいかもしれません。

それでも愛情表現は大切

むし歯は感染症なので、口腔清掃は自分のためだけに行うものではありません。家族や、周りの小さな子供を含めたコミュニティのためにもなります(※3)。一人ひとりが気をつけていけば、将来的にむし歯で悩む人をこの世からなくせるはずです。小さな子供に接する大人は特に、むし歯菌のレベルを下げ、口腔細菌フローラを整えるようにしましょう。

最後に、母親や育児に関わる人が子供に近寄って抱き上げたり、顔を近づけたり、キスしたり、語りかけたり、ほほ笑んだりすることは成長発育にとって重要です。むし歯菌の感染を遅らせることはむし歯のリスクを下げる手段の一つですが、そのためにスキンシップや愛情表現が疎かにならないようにしたいですね。

次回は、子供にむし歯菌をうつさないために大人が実践したいオーラルケアについてご紹介します。


注釈

※1 『口腔微生物学・免疫学 第4版』(医歯薬出版 / 【編集】川端重忠、小松澤均、大原直也、寺尾豊、浜田茂幸)

※2 「Early childhood caries update: A review of causes,diagnoses,and treatments」(Hakan Colak, Coruh T. Dulgergil et al, J Nat Sci Biol Med. 2013; 4: 29-38.)

※3 「Horizontal transmission of streptococcus mutans in schoolchildren」(Pilar Baca, Ana M. Castillo, Maria J. Liébana, et al, Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2012; 17: e495–e500.)

※4 「Mother-to-child transmission of Streptococcus mutans: a systematic review and meta-analysis」(da Silva Bastos Vde, Freitas-Fernandes , Fidalgo TK, et al, J Dent. 2015; 43: 181-91.)

※画像と本文は関係ありません


著者: 古舘健(フルダテ・ケン)

健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ100レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。