Apple「A4」プロセッサ

プロセッサ開発競争の主戦場がPCから、スマートフォンなどの組み込み市場へとシフトしつつある。PCで圧倒的シェアを持つIntelが新市場を視野に入れつつあるのに対し、ARMのライセンシーであるNVIDIAやQualcommなどが高性能プロセッサで迎え撃つ形となっている。またAppleも自社製品での利用を主眼に10億ドル規模の投資で「A4」プロセッサを開発、このバトルへと乗り込んでいる。

今回の半導体市場での新潮流についてレポートしているのは、米New York Timesの「For Chip Makers, the Next Battle Is in Smartphones」という記事だ。現在、最先端の半導体Fabの設営には30億ドル規模の投資が必要といわれる。また実際の量産稼働までに数年を要することも珍しくなく、業界にとって競争における生き残りは並大抵のことではない。

米Advanced Micro Devices(AMD)はアブダビ首長国から投資を受け入れることで製造を専門に行うGLOBALFOUNDRIESの分離に成功し、半導体設計の専業メーカーとなった。現在、プロセッサの開発から製造までを一貫して行っているのはIntelなど、ごく限られた企業だけになってしまった。

そして現在、そのIntelはスマートフォンやMID、タブレット型デバイスなどをターゲットにしたAtomプロセッサを市場に投入しており、すでにスマートフォンのカテゴリでは韓国のLGから対応製品が出ている。NYTによれば、前述GLOBALFOUNDRIESは2010年にドイツのドレスデンで最新Fabを稼働させる計画だが、ここで最初に製造されるプロセッサは従来のPC向けではなく、スマートフォンやタブレット向けのものになるという。

同社マーケティングバイスプレジデントのJim Ballingall氏は、「最初の製品は、本当の意味で市場での唯一の勝者となるゲームチェンジャーだ」と表現しており、TSMCやSamsungといった既存のライバルらにとって大きな脅威になる可能性がある。

こうした新勢力を迎え入れるのは、前述のNVIDIAやQualcommといったARMライセンシー企業たちだ。モバイル機器におけるARM系プロセッサのシェアは圧倒的であり、ここにIntelはx86プロセッサのアーキテクチャで勝負を挑むことになる。

ARMのメリットの1つはライセンシーの多さで、SamsungやTexas Instruments (TI)だけでなく、かつてはStrongARMやXScaleの名称でIntelでさえライセンスを取得していたほどだ。ゆえに過当競争で脱落するメーカーが出現しても、まだ何社かは生き残っており、ARMアーキテクチャはそのまま生き続けることになる。NVIDIAはライセンシーとしてはニューカマーの部類に入り、現在はTegraプロセッサでその勢力を拡大しつつある。またアーキテクチャの詳細は公表していないものの、Appleもまた新参者としてARMライセンシーに参加しているとみられ、ARMのエコシステムは現在でも拡大を続けている。

とはいえ、プロセッサ開発をスクラッチから行うのは難しく、コスト面からもチャレンジングな事業ではある。ファブレスで製造設備を持たないとはいえ、NVIDIAやQualcomm、Appleといった企業らはそれぞれの最新プロセッサ(SoC)開発に10億ドルを投資しており、少なくともこうした投資を回収するには一定以上の規模の市場が必要となる。

QualcommのSnapdragonはスマートフォンや今後リリースされる「スマートブック」と呼ばれる製品ですでに採用例があり、NVIDIAのTegraもいくつかの採用事例が紹介されている。Apple A4に関しては現在iPadでの採用が表明されているのみだが、今後は今年夏にも登場が噂される第4世代iPhoneや新型iPod touchにそのまま転用したり、あるいは先日のレポートにあるように、Apple TVや他のMac製品ラインナップにiPhone OSシステムとともに適用範囲を拡大することで、こうした投資の回収は比較的容易だと考えられる。

世界最大のスマートフォンメーカーが自らが必要なプロセッサを自ら用意するわけで、ある意味で理にかなっている。「自分たちが必要なものは自分たちが一番良く知っている」とはApple COOのTim Cook氏の弁だが、それを実行するだけの財力や力を現在のAppleは持っているのだろう。