男性の育児休業取得促進に創意工夫を行い、実績をあげた企業や個人を表彰する「イクメン企業アワード2020」「イクボスアワード2020」。その表彰式が、「イクメン推進シンポジウム」にて行われた。同イベントではこの表彰式のほか、受賞企業(者)の取組の紹介や、コロナ禍での働き方についてのパネルディスカッションを開催。なお、新型コロナウイルス感染症対策として受賞企業(者)のみの来場とし、イベントの様子はYouTube Liveで生中継された。

これが日本のイクメン最前線だ!

「子育ては女性がするもの」「育児休業など取られては困る」そんな前時代的な固定観念を払拭すべく、厚生労働省主導のもと立ち上がった「イクメンプロジェクト」。そのロールモデルとなる企業やイクボスの取組紹介、今後の議論や提言を目的としたイベントが「イクメン推進シンポジウム」だ。

厚生労働省の開会挨拶では、「男性が積極的に育児を行うことは、子育て環境の充実や女性の継続就業の観点からも非常に重要である」とし、さらに「男性の育児休業取得率は近年上昇傾向にあるものの、未だ7.48%(「令和元年度 雇用均等基本調査」より)にとどまっている」と紹介された。

  • 厚生労働省開会挨拶 雇用環境・均等局長 坂口 卓氏

また、「労働政策審議会において、男性が育児休業を取得しやすい職場環境の実現について議論している」ことに触れ、「受賞企業、受賞者の皆様のこれまでの取り組みはこうした動きを先取りするものであり、他の模範となる素晴らしいもの」と結んだ。

続いて表彰式、そして各受賞企業および受賞者の取組紹介が行われた。本稿ではイクメンプロジェクト推進委員会座長、駒崎弘樹氏による受賞のポイント解説とともに、受賞企業および受賞者をご紹介する。なお受賞企業(者)の取組紹介では、その前向きな姿勢やアイデアに、会場内の男性(関係者および報道陣)も皆大きくうなずいていたことを付記しておきたい。

  • 受賞企業(者)には賞状と盾が贈られた。新型コロナ感染症対策として、賞状を読み上げた後、一度に卓に置き、それを受賞企業(者)が受け取る形式に

  • イクメンプロジェクト推進委員会座長(認定NPO法人フローレンス代表理事)駒崎弘樹氏

 

イクメン企業アワード2020 受賞企業

 

今年で8回目を迎える「イクメン企業アワード」は、男性の仕事と育児の両立を積極的に推進する企業を表彰するもの。今年は応募企業全36社のなかからグランプリ2社を含む6社が受賞、表彰された。

  • イクメン企業アワード2020 受賞企業代表の皆さんと厚生労働省坂口局長、イクメンプロジェクト推進委員 駒崎氏

グランプリ
積水ハウス株式会社(大阪府)

  • 代表:執行役員ダイバーシティ推進担当 伊藤みどり氏

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
イクメンフォーラム等のイベントの実施や、イクメン白書の作成などの啓発活動に力を入れるとともに、「イクメン休業」100%を目指している点や、育休取得計画書の作成など独自の取り組みも評価されました。育休が昇給・昇格・賞与・退職金の算定に影響しないなど、キャリアへの配慮が伴っている点も素晴らしい。また、コロナ禍で社員のリモートワークの経験を一戸建てのデザインなどの商品戦略に生かした点も評価されました。

グランプリ
株式会社技研製作所(高知県)

  • 代表:専務取締役 前田みか氏

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
男性社員の育児休業の平均取得日数が年間110日以上(令和元年)という、非常に高い水準が評価されました。また仕事と子育ての両立支援策が、“女性のためのもの”という形ではなく、“夫婦による育児”を前提とした設計になっており、共感度が高かったです。 こういった活動を採用活動にも生かしていて、「地方においてこういう取り組みをすることが採用力に直結するんだ」、ということを示されているのも素晴らしいと思います。

奨励賞
双日株式会社(東京都)

  • 代表:人事、総務・IT業務担当本部長 河西敏章氏

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
2018年度から2019年度で育休取得率が20%以上もジャンプアップされたのが素晴らしい。育児支援、働き方支援も充実しており、社員のキャリアを止めないための多方面からの取り組みが目を引きました。他にも、お子様の休園や休校で休まざるを得ない社員に有給を補填する特別措置など、痒いところに手が届く制度設計をされていらっしゃいます。

理解促進賞
江崎グリコ株式会社(大阪府)

  • 代表:執行役員グループ人事部長 南和気氏

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
夫婦が協力して子育ての課題に向き合う「Co育てPROJECT」に企業として取り組まれており、Co育てコミュニケーションアプリ「こぺ」を一般にも提供されるなど、素晴らしい活動をされています。また、神戸市と連携した「パパ座談会」ではオンラインのミルク調乳指導をされるなど、食品メーカーならではの技術、楽しいアイデアでイクメンの存在を発信していることも高く評価されました。

特別賞(コロナ対応)
日本航空株式会社(東京都)

  • 代表:執行役員人財本部長 小田卓也氏

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
男性育休取得100%宣言をはじめ、子育て中の社員や子育てへの備えを希望する男性社員を対象とした座談会「パパカフェ」の実施、ワーケーションの推進「温泉Biz」など、育児とWithコロナの時代に向けた“ニューノーマル”な働き方の検証に取り組まれる姿勢が高く評価されました。コロナ禍で航空会社が厳しい状況のなか、こうした取り組みを実直になされているスピリットには本当に敬意を表したいと思います。

特別賞(地方特別)
株式会社プロトソリューション(沖縄県)

  • 代表:執行役員 上間瑠美子氏

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
在宅勤務化が非常に難しいコールセンター業務において、その実現のための環境整備を行ったという点、これは凄いことだと思います。沖縄の企業なので、育児協力やコロナ対策はもちろん台風対策としても効果が見込める、まさに一石三鳥の改革だと思いました。そして残業時間のない働き方を目指して地方勤務における社員の定着を進めていらっしゃる点、ペーパーレス化やAIなど自社の技術を生かした独自の業務効率化を進めている点を高く評価しました。

 

イクボスアワード2020 受賞者

 

部下の仕事と育児の両立を支援する管理職を称える「イクボスアワード」は、今回が7回目。企業からの推薦による募集で、全48人の応募からグランプリ2人、奨励賞1人が選出、表彰された。

  • イクボスアワード2020 受賞者の皆さんと厚生労働省坂口局長、イクメンプロジェクト推進委員 駒崎氏

グランプリ
西谷達彦氏 株式会社スープストックトーキョー

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
チーム全員で情報を共有、ルーティン業務をマニュアル化することで、業務が属人的にならないようにする。それは働き方改革に不可欠といわれますが、実際に徹底するのはなかなか難しい。それを実現できているのは、本当に素晴らしいなと思いました。

グランプリ
大久保友紀子氏 社会福祉法人スプリング

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
ワーク・ライフ・バランスの導入が難しい福祉業界において、積極果敢に業務環境の改善に取り組んでいかれているのが素晴らしいと思いました。 介護機器を積極的に導入してノーリフティングケアを取り入れた点、時間外労働を月平均2時間まで短縮した点、コロナ禍においても感染予防対策をしっかり行い、普通の日常生活を継続している点が、評価できました。

奨励賞
松浦修治氏 株式会社ビースタイルホールディングス

受賞ポイント(駒崎氏コメントより抜粋):
抱えている仕事を個人でなくチーム全体のことと考え、生産性を上げる業務の仕組みを考えていらっしゃいます。タスクに優先ランクを付けて仕事を可視化するとか、仕事単位の時間を計測して定量的なデータ分析を行うといった点も見習いたいと思いました。

 

コロナ禍をどう捉えるかで、その企業が見える

 

続いてパネルディスカッションが行われた。日経×woman総編集長の羽生祥子氏をコーディネーターに迎え、パネリストとして中央大学大学院戦略経営研究科准教授の高村静氏、今回のイクメン企業アワードでグランプリを受賞した積水ハウス株式会社の伊藤みどり氏が登壇。また、静岡県立大学経営情報学部准教授の国保祥子氏と、同じくグランプリを受賞した技研製作所の溝渕千賀氏の2人はリモートでの出演となった。

  • 日経×woman総編集長、日経ARIA編集長、日経DUAL創刊編集長 羽生祥子氏

  • 中央大学大学院戦略経営研究科准教授 高村静氏

  • 積水ハウス株式会社 伊藤みどり氏

  • 株式会社技研製作所 溝渕千賀氏

  • 静岡県立大学経営情報学部准教授、株式会社ワークシフト研究所所長、育休プチMBA代表 国保祥子氏

テーマは、「新型コロナウイルスは働き方にどのような影響を与えたか」

技研製作所の溝渕氏は「テレワーク開始当初は、コミュニケーションが取りにくい、他の社員の様子が見えないというマイナス要素もありました。しかし、テレワークを利用している子育て中の社員からは『朝夕の通勤時間がなくなったおかげで、その時間を家事や育児に充てることができ、生活の質が向上した』、と聞きました。コロナ禍はワーク・ライフ・バランスを見直すきっかけにもなったと感じています」とコメント。

積水ハウスの伊藤氏も「イクメン休業の対象者が多い職場では、誰かに業務を引き継ぐ作業が日常的になされている、という風土ができあがっていました。その引継ぎの工夫が、期せずして出勤制限時の練習になったんですね。おかげで、コロナ禍でも業務を回すことができました。」と述べ、両社ともグランプリ受賞企業の”余裕”を感じさせた。

  • パネルディスカッションでは、イクメン企業アワード2020 グランプリ受賞2社の取組紹介も行われた

社員が同一の場所で働かない、個々人の活動が見えにくいテレワーク社会は、今後も継続あるいは加速するとも思われる。そんなテレワーク時代の企業活動について、羽生氏が「組織的なマネージメントが難しい局面に入ってきているのではないか」と問いかけると、国保氏も同意し、
「このコロナ禍で、企業がどれだけ社員のことを考えているかがよくわかった」とコメント。さらに「社員の学びや成長をケアしてくれる企業は、テレワークで離れてしまった情緒的なコミットメントを保つにふさわしい会社だと、社員は判断するのではないか」と分析した。

  • コロナ禍の働き方、企業のあり方について意見が交わされた

高村氏も「会社が『応援しているよ』、あるいは上司が『信頼しているよ、あなたのキャリアを尊重しているよ』といった、”個を見る”マネージメントが問われるようになるのでは」と分析。確かに、それは今回の受賞企業の姿勢や活動に照らし合わせても辻褄が合う。

最後に羽生氏は「本日は男性の育休取得促進についてから始まって、このコロナ禍において企業はどういった形で組織運営をしていくのか、というところまで踏み込んでお話を聞いていきました。私が一番感じたのは、男性の育児休業取得者だけではなく、すべての社員に対して細やかな配慮やコミュニケーションを取ることが、企業の多面的な取組の推進力になるということです 」と締めくくった。

なお、当日YouTubeで配信された内容はアーカイブされており、現在もこちらで閲覧できる。各受賞企業(者)の取り組みも詳しく紹介されているので、企業活性化の鍵を模索する経営者、企業内で男性育休の取得率アップを目指すご担当者、コロナ禍での新しい戦略に挑戦したい方々など、ぜひご参考にしていただきたい。

[PR]提供:厚生労働省