最後は春秋航空日本についてである。春秋航空日本は2015年度、LCC唯一50億円の赤字を計上し、黒字化のめどは立っていないようだ。機材数も3機と少なく、当面はスケールの拡大=赤字の拡大という構図を避けられない。

春秋航空日本の狙いは、他の3社とは大きく異なる

春秋航空本体の戦略の一手

そのため、同社単独での黒字化よりも別の意味、すなわち、本国である中国側の権益で制約を受ける春秋航空本体の路線拡大を日本側の権益(春秋航空日本の中国線開設)で補完する構造を築くことが目的であるように思われる。2016年2月13日に成田=武漢線、翌日の2月14日には成田=重慶線を相次いで開設したのは、まさにその典型と言えよう。春秋航空日本は航空会社としては大きな赤字を抱えるが、それを旅行事業などの周辺事業で補うことで相殺すれば良しというのは、エアラインの経営が何なのか改めて考えさせられる。

また、長年世界の航空業界に存在する「カボタージュの禁止」(相手国での国内区間の運航と営業)が、エアアジアやジェットスターの現地エアライン化で実質解禁されていることへの日本側の対応も求められよう。日本での春秋航空日本、エアアジア・ジャパンへの3分の1未満の外資出資規制も、もはや有名無実化しているという状況もある。中国などオープンスカイに至らない国との間のこのような子会社による相手国権益取得のあり方は、今一度慎重に議論されていいと思われる。

羽田にLCC国内線という議論

最後に、第1回の冒頭で述べた「LCCのシェア拡大を阻むもの」について触れておきたい。結論を一言で言うと、日本でLCCが欧米並みの輸送シェアを取れないのは「LCCが羽田に参入できないこと」に尽きる。国内線需要の7割を占める羽田において、LCC対既存キャリアの直接競争が行われないことで、最大の潜在顧客を有する首都圏のLCC需要を埋もれさせてしまっていることは否定できない。

2020年に向けての年間3.9万回の増枠の振り分け方に課題はないのか

羽田枠の制約は今後も続くが、2020年に向けての年間3.9万回の増枠は、その大半が国際線に振り向けられる可能性が高い。しかし、近年増えた羽田枠国際線を見ると大半が成田からの路線移行となっており、デルタ航空やルフトハンザ・ドイツの幹部も、「羽田の利便性がビジネス路線の収益性を上げてくれる効果がある」と述べている。

言い換えれば、欧米長距離路線の羽田シフトにどれほどの新規需要開拓などの社会的意義があるのかが見えにくくなっている。旅客利便の向上と言っても、今や東京駅から1時間の格安バスで成田に行くか、鉄路を30分かけて羽田に行くかの違いしかなく、これは中長距離国際線旅客にとっての劇的な利便向上になっているとは考えにくい。

今後の羽田空港の増枠を考えると、成田国際線が羽田国際線にシフトすることでもたらされる便益と、国内線に本格的にLCC低価格が導入されることで新しい需要が喚起され、既存路線での運賃競争が再燃する効果と、どちらの意義が大きいのか今改めてその実証実験がなされることにも少なからぬ意味があるのではないだろうか。航空業界、そして社会の考えはどうなのか、今一度議論が必要なところのように思われる。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。