中国経済への不安が世界的な株安を生じた。世界の株式市場は一旦、反発しているが、まだ「中国からまだまだ悪材料が出てくるのでないか」という不安は残っている。中国で今、何が起こっているのか、電力消費量の変化から読み解く。

中国のGDPは信用できない

中国政府が発表したGDP統計では、1-3月も4-6月も前年比7%増だった。中国政府の目標としている7%成長にぴったり一致している。ところが、この数字を信じる人は、ほとんどいない。中国景気の現状を知るには、GDP統計ではなく、「電力消費量」「銀行融資」「鉄道輸送量」の変化を見た方がいい(※注)と考えられている。

(※注)李克強首相が、首相になる以前に「景気の実態を見るには電力消費量・銀行融資・鉄道輸送量を見た方がいい」と発言した記録が残っていることからこの3指標が有名になった。

電力消費量の変化から、中国経済の実態が見える

中国のGDP成長率と、電力消費量(前年比)の比較:2009年7月~2015年7月

(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

中国のGDP成長率を見ると、2009年から2015年の間は、7~10%成長で比較的安定しているように見える。ところが、「計画経済はうまくいっている」と、中国政府がアピールするために操作されているとの声は多い。

(1)4兆元の公共投資で景気が過熱していた2009-2010年

電力消費量の変化を見ると、GDPの変化率とは全く異なる中国経済の姿が見えてくる。リーマンショックの直後、4兆元の公共投資で景気を拡大させた2009~2010年は、GDP統計に表れているより、景気は過熱していた可能性がある。

ところが、この4兆元の公共投資が、鉄鋼生産や不動産開発の過剰投資に回り、中国経済の効率性を大いに損なうことになった。地方には、誰も住まない文字通りのゴーストタウンが林立している。

(2)景気にブレーキがかかった2012年

過剰投資にブレーキをかけた結果、2012年には、中国の景気実態は、GDP成長率にあらわれているよりも悪化していたと考えられる。この時、李克強首相は、不退転の覚悟で非効率な投資を一掃し、経済の構造改革を進める覚悟をしていたと考えられている。

(3)再び投資を拡大させた2013年

ところが、中国は景気が悪化すると、共産党独裁への批判が高まるリスクを抱えている。2013年には再び公共投資を増やして、景気を支えたと考えられる。

(4)公共投資で高成長を維持することが限界になってきた2014-2015年

ただし、非効率な投資を拡大させると、後からそのしっぺ返しが来る。2014-2015年には、過剰投資の問題が、自動車生産などさまざまな分野で広がってきたことから、投資によって無理に高成長を維持することができなくなってきた。

中国政府は、そこで上海株を上昇させ、株高効果で消費を刺激して高成長を維持しようと図った。2014年10月から、中国政府の市場介入が奏功して、上海株は急騰した。ところが、中国景気の実態悪化が続き、人為的に吊り上げられた上海株は、2015年6月から急落した。中国経済への不安は、簡単には払拭できない。

上海総合株価指数の動き:2013年1月~2015年8月27日

(出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。