11年前、"M"の称号を与えられたプロセッサPentium Mは、Intelのチップセットとワイヤレスモジュールの組み合わせを満たせば、Centrinoを名乗ることができた。これが当時の新しい当たり前で、ワイヤレスモバイルの世界に大きく貢献したことは記憶に新しい。今、どこの国でもWi-Fiとあれば、自分のパソコンを自在にインターネットに接続できるのは、Centrinoのおかげといってもいいだろう。

そして今回のCOMPUTEX台北で発表されたCore MプロセッサとXMM-7260コミュニケーションモジュールの組み合わせは、11年前のデジャブに近い印象を受ける。

全部入りのLTE-Advanced対応プラットフォームを提供

「今のところ、Centrino2のようなブランディングをする予定は特にありません」。Julie Coppernoll氏(Vice President of Mobile and Communications Group and Director of Marketing for Mobile and Intel Security Platforms, Intel Corporation)は、COMPUTEX近隣のホテルにおけるラウンドテーブルでの質問に対してきっぱりと応えた。

IntelのJulie Coppernoll氏。COMPUTEX TAIPEI 2014の記者向けラウンドテーブルにて

今回のCOMPUTEXで、Intelは、カテゴリー 6 に対応したIntel XMM 7260 LTE-Advanced 向け通信プラットフォームを相互運用性試験向けとして顧客に出荷開始していることを明らかにした。

このコミュニケーションチップは、まだ製品レベルのものではないが、第2四半期の終わりには出荷が開始されるという。いっしょに出荷されるRFモジュールは、北米およびヨーロッパのほとんどのバンドに対応したものとされている。

Intelは今年のCOMPUTEXでLTE-Advanced製品を発表した

実際、そのサポートは、FD-LTE、TD-LTE、WCDMA、TD-SCDMAなど、現状で考えられるすべての形式を含み、IntelはひとつのSKUで、スマートフォンからタブレット、パソコンまでをカバーすることになっている。まさに究極の全部入りだ。

このモジュールがパソコンに搭載されれば、少なくとも技術的にはかつてのCentrinoを彷彿とさせる状況が再来する。CentrinoはオプションとしてWiMAXのサポートがあったが、今回はない。Coppernoll氏は、かつてのWiMAX事業の担当者でもあった。

「かつての担当だったので、本当にいいにくいのだけど、WiMAXのサポートはありません」と口を濁す。

だが、安心していい。WiMAXはなくてもTD-LTEがある。つまり、WiMAX2+での通信がサポートされるのと同義だと考えていいわけだ。

世界中どこでもLTEが使えるパソコンの誕生

このモジュールを搭載したパソコンは、基本的に世界中のほとんどの場所でWANによるデータ通信ができるようになると考えてよさそうだ。SIMスロットに現地のSIMを装着すれば、それだけで通信ができるようになる。RFモジュールは順次対応周波数を拡げていくというし、懸念があるとすればアンテナだが、スマートフォンやタブレットでは無理でも、比較的面積の大きなパソコンなら実現できるかもしれない。つまり、世界中どこでもLTEが使えるパソコンの誕生が期待できるのだ。まさに、Centrino2ではないか。

ぼくはSIMロックフリーのデバイスが流通することには大賛成ではあるが、実のところそれで夢のような世界が実現するとは思っていない。というのも、国ごと、キャリアごとに使っているバンドが異なるために、日本で購入したSIMフリーデバイスを海外に持ち出して、現地のSIMを入れて使おうとしても通信ができない可能性が少なくないからだ。

たとえばここ台北では、現地キャリア各社がLTEのサービスをCOMPUTEX開催に合わせるかのようにスタートさせている。残念ながらプリペイドは対象外とショップで確認することになってしまったが、かすかな期待をしつつ、グローバル版のXperia Z1を持って来た。この端末は台湾のキャリアがLTEサービスを提供するBAND3とBAND8に対応していることがわかっているからだ。

これからこういうことは多くなるだろう。中国本土では、各社がTD-LTEによるサービスを開始しているが、それに対応しているのは、手元の端末の中ではNexus 5だけだ。このように、行く国ごとに対応周波数を考えながら使う端末を決めなければならない。これらとは別にドコモで購入した端末のSIMロックを解除してもらってはいるが、海外でそれに現地SIMを装着することはほとんどない。もし、パソコンのコミュニケーションモジュールが、フルバンドに対応するようなことがあれば、ほとんどの国で、現地のSIMを装着して広帯域のWANを確保できるようになる。まさに、Centrinoが夢見た環境だ。

SIMロックフリーでフルバンド対応のPCを夢見る

ただし、当時と異なり、今回の技術革新では、移動体通信事業者というやっかいな存在が介在する。Coppernoll氏も、こうしたパソコンの登場を望みながら、やはりキャリアとの協業が重要な要素だとする。やはり、大人の事情があるために、Centrino2のようなブランディングができなくなっているのではないだろうか。

ここはひとつ、パソコンベンダー各社の英断を望みたいところだ。Intelのモジュールを搭載し、SIMロックフリーでフルバンド対応の製品を世に出してほしいと思う。

それが実現するためには、RFモジュールの追加も必要となり、たとえ製品が出てくるとしても来年のCOMPUTEXの頃になるかもしれない。そのころには、日本においても、現在のWiMAXエリアがWiMAX2エリアと同等になっている可能性がある。そうなっていれば、このモジュールがWiMAXに対応していないことを気にする必要がなくなるわけだ。

キャリアがベンダーに頼んで、特別に自社ネットワークに互換性のあるデバイスを作ってもらうのはたいへんだ。だからこそ、全国津々浦々のキャリアショップのネットワークで、デバイスを売る努力をし、ベンダーの売り上げに貢献する。ベンダーはベンダーで、その無視できない数の威力に、スペシャルな端末を用意するわけだ。

でも、最初から全部入りのデバイスしかないとすればどうか。IntelのXMM 7260は、そんなモバイルパソコンを登場させる原動力となる。かつてのCentrinoのときのように、Intelの力でそれをより新しい当たり前にしてほしいものだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)