Microsoftは「Windows 10 Cloud」という新エディションの追加を計画している。このWindows 10 Cloudはクラウド技術と直接関係はない。Googleの「Chromebook」やAppleの「iPad」と競い合うため、Microsoftが用意したプランの一つだ。
Google Chrome OSは、Web閲覧や軽いアプリケーションを実行するためのプラットフォームである。Chromebookでは、GoogleドライブなどのオンラインストレージやGoogle Play経由でアプリケーションを利用したり、コンテンツを閲覧する。そのため、ローカルストレージはあまり必要としない。
同様のコンセプトをWindows 10に照らし合わせると、オンラインストレージはOneDrive、コンテンツ配信サービスはWindowsストアがある。Microsoftはこれらを活用し、教育市場などChromebookの得意分野に攻め込む手段として、Windows 10 Cloudを用意したのだろう。蛇足だが、Microsoft前CEOであるSteven Ballmer氏は、Google Chrome OSが発表された2009年7月の時点で、同OSを危険視する発言を行っている。
ここで一度整理しよう。Windows 10 Cloudの特徴を箇条書きでまとめると以下のようになる。
- クラウド技術は直接関係ない
- UWPアプリケーションのみ実行可能
前述のとおり「Cloud」はブランドキーワードに過ぎないが、気になるのはUWP (ユニバーサルWindowsプラットフォーム) の件だろう。筆者が確認した限りでは下図のように、Windows 10 CloudではWin32アプリケーションなどのデスクトップアプリを実行できない。他方でエクスプローラーなどMicrosoft製デスクトップアプリの動作に支障はない。
ここで思い出すのが「Surface RT」の存在だ。ARMアーキテクチャ上で動作するWindows 8ベースの「Windows RT」をOSとして搭載し、エクスプローラーなどはARM向けにリコンパイルし、当時の「Office 2013」も移植されたが、動作するのはWindowsストアアプリ (後のUWPアプリケーション) のみだった。Windows RT (Runtime) ベースのバイナリしか動作しないため、Windowsシリーズの財産とも言える豊富なアプリケーションを活かせなかった。筆者も日本で発売された際に購入したものの、常用できないという判断に至っている。その後、Surface 2、Surface 3と後継機種も出たが、商業的には成功せず終息している。
Windows 10 Cloudを不安視するのは、Windows RTと同じアプリケーションの物足りなさだ。今でこそUWPアプリケーションは増えているものの、既存のPC環境をすべてUWPアプリケーションで実現するのはいまだ難しい。Microsoftが環境を整えても「笛吹けども踊らず」となりかねない。
他方でMicrosoftは、2016年12月に開催した「WinHEC 2016」でARM版Windows 10を発表している。ARMアーキテクチャ上でWindows 10を実行し、何らかのロジックを用いてIntelベースのアプリケーションを実行できるという。このARM版Windows 10とWindows 10 Cloudがイコールなのか、まったくの別物なのか現時点で知ることはできないが、Windows 10の現状を大きく変える存在になるだろう。
阿久津良和(Cactus)