【レポート】

エアアジア・ジャパン就航への課題とは - CEO交代の裏で起きていたこと

1 日本では「航空運送事業許可=就航」にならないわけ

 
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2015年末、エアアジア・ジャパンは突然のCEO交代を発表した。航空業界には、「2016年春の就航を目指しているのに、オペレーションのプロである小田切義憲氏がいなくなって大丈夫なのか」と思った人も多いはずだ。果たしてエアアジアグループCEOのトニー・フェルナンデス氏の決断は吉と出るのか、"離陸"への課題を整理してみた。

エアアジア・ジャパンは2015年10月16日に初号機を受領し、就航までにもう1機を加えて2機体制での就航を予定している

日本ならではの"仮免許"を理解できず

今回のCEO交代は、日本での開業準備が遅れ就航開始のめどが立たないことに業を煮やしたマレーシアのエアアジア本社が、「なぜAOC(航空運送事業許可)が出ているのに就航開始にこんなに手間取るのか」と航空局交渉を取り仕切っている小田切氏に激怒し、今回のトップ交代につながったと言われている。しかし、エアアジア本社は今の日本ではAOCが"仮免許"でしかないことをきちんと理解していなかったようだ。

2014年7月に新生エアアジア・ジャパン設立当初、就航は2015年6月を予定していたが、AOCを取得できたのは2015年10月になってからである。アジア各国では「AOC=就航開始」という図式が出来上がっており、日本でもスカイマークのような新興航空会社が立ち上がった頃は同様の位置付けで、AOCが下りれば程なく就航を迎えられた。しかしその後、日本もLCC(低コスト航空会社)時代に入り、当局による事業審査の基準やプロセスに強度の変化が出てきた。

CEO交代には、日本とマレーシアの違いに対するエアアジアグループCEOのトニー・フェルナンデス氏の苛立ちもあったようだ

日本でも新興航空会社が立ち上がった時代、つまり、「AOC=就航開始」となっていた時代は、LCCに対して行われたような「リスク管理のための安全弁や補強措置を要求しつつも経営が重たくなることには一定程度配慮する」というような比較的シンプルな審査承認ではなかった。つまり、機体メーカーのマニュアルを踏襲するだけでなく、"JCAB(航空局)コスト"とも言われた審査現場前線での非常に厳しい詰問をクリアしなくてはならなかった。

LCC時代に入ってからはいったん、審査プロセスに緩和の変化が見られた。対象LCCであるピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパンには全て、ANAまたはJALが生産体制面の支援をすることを言明し、整備・運航の折衝に長けた人材を送り込みもしていた。そのため当局としても、「大手の後押しがあるなら大丈夫だろう」という認識に立って行われたという側面がある。大手エアライン側からも、「今までのような仔細・厳格な審査が続けば就航に時間がかかりすぎ、LCCの経営に支障をきたす」との当局への働きかけがあったとも聞く。

しかし、同じLCCでも春秋航空日本のように日本の大手が支援・関与しないケースについては、当局審査は以前の厳しさに立ち返ってきているように見え、AOCが"仮免許"の位置づけであることがより鮮明になってきた。大もとの事業許可(AOC)は、事業会社としての資金面・機材面の信頼性がある程度担保されれば早い段階で下りるのだが、いざ実運航に直結する規程・社内管理など細部の運用に関わる事項については、規程の様々な項目の折衝で厳しい審査の目が向けられるのだ。

4社ある国内LCCのうち、春秋航空日本だけがANAやJALからの支援を受けずに運航している

実務審査に厳然と残る大きな壁

以前から特に手ごわい審査とされているのは、「整備管理規程」と「運航管理規程」の審査だ。例えば、「運航整備士を本来必要ない地方基地の出発前点検にも配置する(させられる)のか」「整備会社への重整備外注にあたってどのような管理体制を敷くのか、それを実行できるスタッフはいるのか」「技術部長は大手の経験何年以上のものであることを条件にする(させられる)のか」「乗員の機種移行訓練では実機での飛行を最低何回行うのか」などといった、整備や運航の業務実施の細目に関する規程である。

当局が「これならちゃんと安全に運航を行える」と認めてくれるまで交渉を詰めていかなければならず、航空会社にとっては大変な労力・スキル・交渉力を要するものだ。つまり、航空会社はできるだけコストをかけない方式にしたいと考え、当局は何かあった時に審査不備を指摘されないよう(何かが起こらないよう、と当局は言う)できるだけ確実・安全な方式を要求する。このせめぎ合いが少なくとも1年は続く。

これを乗り切るためには、技術やオペレーションのエキスパートが必須なだけでなく、品質保証や安全審査というニッチだが航空会社の安全管理に必須の分野の熟練要員も必要なのだ。ここがそろわないと、いくらAOCがあっても就航のめどは立たない。現在のエアアジア・ジャパンが就航に必要な人材を確保できていなければ、審査は延々と続くことになる。トニー氏がここまで認識していたかといえば疑わしい。

エアアジア・ジャパンがANAと合弁会社で日本市場に初上陸した際、会社設立から約1年後の2012年8月に就航を果たした。創業から就航までがスムーズに進んだのは、パートナーのANAが有する経験と当局への与信に助けられたものであることをトニー氏は自覚していなかったと思われる。

エアアジア・ジャパンは小田切氏に代わって、スカイマークの前経営トップである井手隆司氏と有森正和氏を招聘(しょうへい)した。「航空の専門家を入れ経営体制を強化」としたエアアジア・ジャパンではあるが、当局の技術・運航部門との今後の許認可面の折衝がスムーズに進むか、まだ課題は多いように思われる。

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目次
(1) 日本では「航空運送事業許可=就航」にならないわけ
(2) 就航までに必要な70億円の調達に親会社のエアアジアも課題あり
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