例年になく発生数が多い台風や全国的なゲリラ豪雨、最近では桜島などの火山の噴火など、自然災害のニュースを多く目にするようになりました。自然災害による被害も年々、甚大化する傾向にあり、決して他人事ではなく、いつ自分に降りかかってくるかわからないという怖さがあります。特に、住宅の場合は、被害に遭うと再建するのに、膨大な費用がかかってしまいます。こうしたなか、住宅の火災保険料がこの10月に値上げされることが決まっています。どのような加入の仕方をすればいいのか、考えてみましょう。

建物構造や地域によっては値下げのところも

住宅を建てた、購入した場合、ほとんどの家庭では火災保険や地震保険に加入します。火災保険は火事による被災のほか、台風や水害、風害、雪害などの自然災害による建物の損壊も補償対象となっています。今回、火災保険料の改定にいたったのは、近年、自然災害による被害が増え、保険金の支払い額が増大したためです。

火災保険料は、保険金支払いの準備にあてる「純保険料」と保険会社の運営にあてる「付加保険料」の2つで計算されますが、今回の改定は「純保険料」の部分です。改定にあたっては、損害保険料率算出機構が参考純率を出しており、これに基づいて、損害保険各社が保険料を決定するという仕組みになっています。

今回、参考純率は平均で3.5%の引き上げになりましたが、地域や建物の構造などの条件によっては値下げのケースもあります。たとえば、東京都、保険金額が建物2000万円、家財1000万円の場合、

  • 鉄筋コンクリート造などの共同住宅 : 12.0%

  • 鉄骨造などの耐火構造などの建物 : ▲0.2%

  • 木造住宅など、上記の構造以外の建物 : ▲4.5%

となっています。

値上げの幅が大きかったのは、九州や沖縄など台風被害が増えている地域や、青森や秋田など雪による被害が増えている地域です。福岡ではマンションなら24.1%増、木造で28.7%増と大幅な増加となっています。一方、木造であっても大阪府では▲16%、香川県▲20.3%と地域差、構造による差が大きく開いた格好となりました。

契約期間の短縮化も大きな改定ポイント

火災保険料の改定が注目されますが、今回の改定のもうひとつ大きな注目点は、保険契約期間の短縮化です。

通常、住宅ローンを借りて住宅を新築、購入した場合、住宅ローンの返済期間に合わせて最長36年までで火災保険に加入し、初回に一括して保険料を支払うのが一般的です。1年更新や10年更新といった契約パターンもありますが、長期契約をすれば、当然、保険料は割安になります。

これが、今回の改定から、10年を超える長期契約ができなくなります。保険料の改定と同様に、自然災害の将来予測が不確実なものとなってきているため、火災保険についても、長期のリスク評価が難しくなってきたからです。長期契約ができなくなると、結果的に保険料が割高になり、今回の改定では、契約期間の短縮化のほうが、家計に対する影響は大きいと言えるでしょう。

ただし、今回の改定に合わせて「築浅物件割引」など、新たな割引制度をほとんどの損害保険会社で設けています。東京海上日動火災保険では、築年数が10年未満であれば、築1年以下は10%割引、築2~9年では築年数などに応じて1~10%の割引が適用されます。

ちなみに、火災保険と一緒に加入する地震保険はもともと1年か5年の短期契約で、これについては変更ありませんが、やはり保険料は段階的に値上げの方向になる見通しです。

補償の範囲をチェックして、必要十分な契約を

保険料の改定に関わらず、保険契約の基本は、本当に必要な補償が確保できているか、無駄な補償を選んでいないかに尽きます。不安だからと何から何まで保険に頼ろうとすれば、保険料は積み上がっていきます。基本の補償はどこまでなのか、何がオプション(任意)なのかを十分チェックすることが大切です。

たとえば、火災保険の補償範囲は幅広く、自然災害で言えば、風災、水災、ひょう災、雪災、落雷といったものがあります。こうした自然災害の被害による補償は任意加入となるケースがありますが、意外と保険料を押し上げる要因になっています。過去、水災が一度もなかった、今後も可能性は限りなく低い、という立地であれば、補償から外すという英断も必要でしょう。また、落雷などでテレビやパソコンなどの家財の補償も本当に必要かどうか、落雷の危険を感じたら電源を落とすことで被害をまぬかれることはないか、といった考えもでてくるでしょう。

火災保険は必須のものですが、保険料算出のベースとなる建物の保険金額は過剰ではないか、家財保険は建物の半額が上限ですが、上限いっぱいに掛ける必要があるか、といった、もっとも基本的な点にも注意を払ってほしいものです。

災害による被害は遭ってしまうと再建費用が膨大になるだけに、補償を外すという判断は難しいことです。それでも地域特性にあった補償内容かどうかは、冷静に判断するようにしたいものです。

また、すでに火災保険の契約をしている家庭で、短期の契約だった場合、長期契約できる最後のチャンスとなります。保険証書を確認し、契約の変更をすべきかどうか、残り時間は少ないですが、一度チェックしておきましょう。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

伊藤加奈子

マネーエディター&ライター。法政大学卒。1987年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。不動産・住宅系雑誌の編集を経て、マネー誌『あるじゃん』副編集長、『あるじゃんMOOK』編集長を歴任。2003年独立後、ライフスタイル誌の創刊、マネー誌の編集アドバイザーとして活動。2013年沖縄移住を機にWEBメディアを中心にマネー記事の執筆活動をメインに行う。2級FP技能士。