「日銀ウオッチャー」として著名なエコノミスト、東短リサーチ社長の加藤出氏が日本記者クラブにて『2015年の経済見通し』に関する見解を述べました。

「日銀ウオッチャー」として著名な、東短リサーチ社長の加藤出氏

「日銀による出口戦略はさらに厳しいものになってしまう」

加藤氏は米国、欧米、日本など主要各国の金融政策について、

「FRB(米連邦準備制度理事会)や欧米の中央銀行は、QE(量的金融緩和)など大規模な非伝統的な金融政策を実施すれば、そのうち経済は過熱するため、その際に債券を売却すれば良いという想定でいたが、残念ながら想定と異なり、経済は過熱するほどの成長を見せていない。問題はマネタリーベースにあったわけではなく、もっと構造的な部分にあったのだろう。そうしたなか、債券を売却してしまえば、準備預金を吸収し、景気回復の腰折れが懸念される」

「米国がQE政策の出口に円滑に近づけるかどうかについても注意が必要だ。米国の出口戦略のなかで、日銀は国債を買い続けざるを得ないため、日銀による出口戦略はさらに厳しいものになってしまうだろう」

「日銀は異次元の金融緩和以降、毎年、長期国債の保有高を50兆円以上増やしている。このままだと長期国債の保有高は2015年末には約282兆円、2016年末には約360兆円と、資産も急速に膨らんでしまう。FRBや英イングランド銀行の資産は、対GDP(国内総生産)比で25%程度だが、2014年末の日銀の資産は対GDP比では約60%となっている。日銀はインフレ率が安定的に2%になるまで、このQE政策を続けると言っているが、仮に2015年末まで続けると、GDP比は70%以上になってしまう」

「リスク資産が焦げつけば税金で埋め合わせる必要が出てくるかもしれない」

「最近ではETF(上場投資信託)、J-REIT(上場不動産投資信託)などリスク資産を買い入れているが、将来、この資産が焦げついてしまえば国民の税金によって埋め合わせる必要が出てくるかもしれない」

「このように、財政による追加刺激策が限界に来ているため、欧米の技術論だけを取り入れても解決策は見出せない。実際、欧州メディアはQE政策について冷静に評価している。仏『ル・モンド紙』は『米国と英国ではQEは景気回復に効果があった。しかし、日本ではその効果は非常に不確かだ。日本では2013年からQEが始められたが、2014年にリセッションになってしまった』、独『フランクフルター・アルゲマイネ・ツアイトゥング紙』は『日本ではQEの下であっても、経済に回復が見られない』と、冷静な分析結果を記載している」

と、解説しました。

「今のままでは優秀な若い人が海外に逃げてしまう」

その上で、日本が景気回復に向かうための打開策として加藤氏は、

「高齢化が進み長期停滞が懸念されるなかで、若い人が日本に魅力を感じるような戦略が必要だ。今のままでは優秀な若い人が海外に逃げてしまうし、海外の優秀な人材も確保できない」

「米・シリコンバレーを視察した時に感じたのは、移民が牽引する底力だ。全米での科学技術関連の雇用における外国出身者(移民一世)の比率は26%だが、シリコンバレーでは64%となっており、外国出身者が創業して成功した企業は、グーグル=ロシア人、インテル=ハンガリー人、サンマイクロシステムズ=ドイツ人とインド人、eBay=フランス人、ヤフー=台湾人、YouTube=台湾人とドイツ人と、多様な外国出身者の活躍が目立つ」

「カルフォルニア大学バークレー校のエンリコ・モレッティ教授は『米国が世界の国々から最高レベルのソフトウェアエンジニアを引き寄せたのとは異なり、日本では法的・文化的・言語的障壁により、外国からの人的資本の流入が妨げられてきた。専門的職種の労働市場の厚みは、その土地のイノベーション産業の運命を決定づける』と分析している」

「米国は移民政策があるため、日本よりも金融政策が効きやすかったが、日本では技術的な金融政策だけでは効果が出にくいため、構造的な問題を解決していく必要があるだろう」

との見解を示しました。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。