2014年12月28日に起きたインドネシア・エアアジアの8501便墜落事故は、格安旅行の愛好者にとって衝撃的だった。現在も捜索・調査が続けられているが、今回の事故はなぜ起こったのか、今後どのようにして安全性の高い航空会社を選べばいいのか、この機会に考察してみたい。

事故機は便名「QZ8501」、機体番号「PK-AXC」。2008年10月からの運航で比較的新しかった(写真は同型機のエアバスA320)

「時代の寵児」初の墜落

約30円からグループを起こしたトニー・フェルナンデスCEO(写真は2014年7月1日に行われた新生「エアアジア・ジャパン」記者会見のもの)

低コスト航空会社(以下、LCC)のエアアジア・グループは、2001年にトニー・フェルナンデスCEOが経営破たん状態に陥っていた旧エアアジアを1リンギット(約30円)で買い取り創業。その後、急成長を遂げたことでフェルナンデスCEOは「時代の寵児」ともてはやされてきた。人身事故は一度も起こしたことはなく、もちろん墜落したこともなかった。

1月7日現在、カリマンタン島沖でブラックボックスが格納されている事故機の尾翼も発見された。フライトレコーダーの解析がまだのため事故当時の正確な状況は分かっていないが、インドネシア気象当局は湿った空気の成分が高高度の低い外気温によって凍結し、それが機体に付着することでエンジンに不具合が生じて墜落した可能性を指摘した。

一方で、事故機が消息を絶った後に通常では考えられない勢いで上昇し、機体に負担がかかって墜落につながった、との見方もある。どうしてそれほど急上昇したのかは、いまだ不明だ。

「悪天候で墜落」では納得できない

しかし、悪天候で墜落したということでは、利用者としてはとうてい納得できない。航空機事故は複数の要因が重なって起こる場合が多い。エアアジア機が消息を絶った空域は、冬のこの時期は特に悪天候に見舞われやすく、客室乗務員が機内サービスを中止するほどの揺れは日常茶飯事だ。進路の変更も少なくない。

インドネシア~シンガポール間の航空需要は増大し、ここ数年、過密化している。事故機も消息を絶つ前、積乱雲を避けるために飛行高度を3万2,000フィート(約9,750m)から3万8,000フィート(約1万1,600m)まで上げたいと管制に許可を求めたが、上空を別の航空機が通過中で認められなかった。

また、当日の積乱雲は高度4万5,000フィートまで達し、気流もかなり乱れていた。世界中で大規模な気候変動や異常気象が指摘され超大型の低気圧も度々発生しているが、東南アジアには日米欧ほど精度の高い気象予報システムがなく、また、事故機の機長がインドネシアで義務付けられている同国の気象情報報告書を受け取らずに出発したとの報道もあった。

さらに、インドネシア当局はインドネシア・エアアジアに事故当日(日曜日)の運航許可は与えていなかったという。これを理由に、同社のスラバヤ~シンガポール間の運航を調査終了まで停止する措置をとっているが、認可されていない便の運航を許可したとなれば、それはそれで管制の責任問題が浮上する。

積乱雲が発生していても、通常であれば飛行機は安全に運航できる。事故機には何があったのか、現在も調査が進められている

EU内乗り入れ禁止の航空会社が複数

気になるのは、インドネシア国籍の複数の航空会社がEUから同域内乗り入れ禁止航空会社(いわゆる「ブラックリスト」)に指定されていることだ。このリストには、整備や過去の事故調査などが不十分であり、かつ、国際的な安全基準を満たしていないとされる国および航空会社が掲載されている。基準を満たしたと見なされた場合はリストから削除される。

エアアジアの本社はマレーシアにあるが、同社はアジア各地に合弁会社を持っており、今回事故を起こしたのはインドネシア・エアアジアの便。つまり、運航管理は国籍のあるインドネシアが行う。インドネシアでは同じエアアジア・グループの「インドネシア・エアアジアX」も設立され、2014年1月に当局から運航許可を得ているが、基準を満たしていないという判断からEUでは乗り入れ禁止航空会社に指定されている(2014年11月時点)。なお、インドネシア・エアアジアについてはブラックリストに指定されていない。