こんにちは、産業医の武神と申します。私は主に外資系企業で毎年年間1,000人を超える働く人と、心と身体の健康相談をしています。

コロナ禍で2回目の新年度が始まりました。最近の産業医面談を通じて感じるのは、新常態に慣れた人、慣れることができない人、どちらもなぜだか気持ちがすっきりしない、ある程度の不安やストレスを感じていることこそが、普通になってきたということです。

多くの場合、新常態にしなやかに対処対応できている人も、ときに、上手に対処できないこともあります。きっとあなたの周りの人も、同じかと思います。

そこで今日は、自分の周囲の人にメンタル不調っぽさを感じたとき、とってほしい初期対応について3つお話させていただきます。

声のかけ方は「ちょっといいですか、いつもと違うけどどうしたの?」

もしあなたが、身の回りの人が調子悪そうにしていても、決して「大丈夫?」とは声をかけないでください。

多くの人は、反射的に「大丈夫、大丈夫! 最近、疲れているだけだから」と答えてしまうでしょう。それでは、不安やストレスに悩み、メンタルヘルス不調なのかどうか、判断はできません。仮に本当に疲れているだけなのであれば、メンタルヘルス不調と決めてかかるのは失礼になってしまいます。

あなたが、身の回りの人の調子が悪そうな様子に気がついたときは、「ちょっといいですか。いつもと違うけれど、どうしたの?」と、声をかけてみてください。

大切なことはあなたが、気づいていることを伝えること、何か助けになることができないかと思っていることを伝えることです。そのためにできることは、まずは、変化に気がついていることを伝え、相手の話を聞いてあげることです。

ときによっては、「大丈夫です」や、「放っておいてください」と言われてしまうこともあります。そのようなとき、相手はまだ他人に気づかれるなどと考えたこともなく、とっさに隠したい気持ちになっていることもあります。また、何を相談すればいいのかまとめられず、何かを言う準備ができていない可能性があります。

ですから、そのようなときは、ぜひ、一度引いてください。

そして、その人を1〜2週間また観察し、やはりおかしい、普段のその人ではないと感じたら、再度声をかけてあげてください。「先週も声をかけたことだけど、いつもと違うように感じるけど、どうしたの?」と。

押し付けがましくならないために「Iメッセージ」

メンタル不調かな? と思った人に声をかけるとき、大切なのが「Iメッセージ」です。

笑顔がなくなった、ぼーっとしている、遅刻が多くなった等々、たとえあなたが気づいている相手の変化があったとしても、それを最初にいうのはNGです。そんなことない! と否定されてしまうことがオチです。

それよりも、相手をみていて元気がなさそうで「私(I)が心配になっちゃって……」と、自分の気持を全面に出してまずは相手に伝えてください。きっと、どうして? と聞かれますから、そうしたら、あなたが気づいている相手の変化を何点か具体的に伝えてみてはいかがでしょうか。聞かれてから答えるほうが、相手にとっても嫌な感じは少ないものです。

大切なのは、こういった症状があるということを伝えるのではなく、「私」は心配ですということを伝えることです。あなたが気がついている変化はあくまでちょっと伝える程度で十分なのです。相手はきっと自分ではいやというほどわかっていますから。

特に職場の場合、決して「メンタルかもしれないから、お医者さんに行けば?」などとは言わないでください。上司や人事部だけでなく、同僚から「医者に行け」と言われるのは、多くの場合、本人にとっては非常にイヤなことだからです。

自分が躊躇しないためにも「治す」のではなく「つなぐ」

実際にいざ声をかけるとなると、なかなか難しいものです。何をどう話せばいいのか、より悪化させてしまったらどうしよう……という不安がよぎるのも無理はありません。

やさしくて面倒見のいい人ほど、その人のストレスの原因を自分が解決しないといけない、その人のメンタルヘルス不調を治す方法はないだろうか等々考え込んでしまい、声がかけられないでいる傾向があります。しかし、それはNGであることが多々あります。

状況が深刻ではないケースであれば、相手は「話を聞いてほしい」「自分の辛さをわかってほしい」と思っているケースがほとんどです。しっかりと話を聞いてくれる人がいるだけで、約9割の人は気持ちが楽になりますから、あなたは聞くだけでいいのです。

私もたくさんの産業医面談をしていますが、実際、相談に来られる人はすでにストレスの原因を9割方わかっています。ただつらさをわかってほしい、または、どう対処したらいいのか自分一人ではその方法を見出せなくて困っているから、相談に来るのです。

注意していただきたいのは、もっとがんばることを推奨することもNGだということです。

声をかけた人が本当にメンタル不調の場合、すでに自分なりに頑張ってそうなってしまっているのです。そんな状況で「もっと頑張って!」と呼びかけられても、応えられず、つらく感じてしまいます。

話を聞いてあげること、必要に応じて医師やカウンセラー等の専門家につなぐこと、産業医やカウンセラーのいる会社であれば、「ちょっと相談に行ってみたら?」と声をかけるのもよいかもしれません。

組織や集団の大小問わず、メンタルヘルスの負の連鎖を断ち切るためには、周囲をケアすることが必要です。このとき、より小さな集団ほど、周囲をケアすることが大切です。墨汁を1滴プールに垂らすのと、コップに垂らすのとの違いを想像していただければわかりやすいかもしれません。たとえ1滴であっても、小さなコップの水はたちまち黒く染まってしまいます。

まずは身近なところから、不調者に気がついたら声をかけ、ケアしていただけると幸いです。