東京都交通局は11月26日、都営地下鉄新宿線に10両編成の新造車両を導入すると発表した。既存の8両編成の電車8本と置き換える。最初の編成は11月28日に運行開始しており、2022年度までに保有車両の28編成をすべて10両化する。

  • 8両編成の都営新宿線10-300形。過去には京王競馬場線の折返し運用に就いたことも(2012年撮影)

新造車両を導入する場合、おもな理由として「輸送力増強のために車両を増やす」「老朽化車両を廃車するために車両を補充する」の2つが挙げられる。都営新宿線は既存の8両編成8本を新造の10両編成8本に置き換えるため、両方を同時に実施することになった。これはなかなか贅沢な話だ。1編成あたり2両増結とするならば、計16両の中間車を作り、既存の編成に差し込めばいい。老朽化した編成を置き換えるとはいえ、最も古い車両は2004年製で、製造から17年しか経っていない。通勤電車の引退としては早いほうといえる。

ただし、17年前の編成に組み込むために、17年前の技術の車両を新造するとなると、入手困難な部品もあって高くつくほか、耐用年数にばらつきが出てしまい、よろしくない。かといって、17年前に製造した編成に最新技術の車両を組み込んだところで、17年前の性能に合わせる必要がある。旧性能車両を廃止する際、最新技術の車両を抜き出して新編成を作る方法もあるが、旧性能車両と連結している間は最新技術を封じるわけで、もったいない。ならばいっそのこと、将来の運用も考慮して、最新技術の10両編成を作り、17年前の8両編成を引退させたほうがいい。東京都交通局の判断は間違っていないと思う。

  • 同じ10-300形でも、3次車以降はデザイン等が大きく異なる(2017年撮影)

ここまではよくある話。珍しい現象はここからだ。今回の都営新宿線は、「新型車両ではなく、同じ形式の新造車両に置き換える」ことを選んだ。新規に投入される車両の形式は10-300形。引退する車両も10-300形である。新造車両の中身はバージョンアップしているものの、同一形式同士の新旧交代は珍しい。お気づきだろうか。東京都交通局もこの記事も、「新型車両の導入」とは書いていない。「新造車両の導入」と表記している。

■同形式で置換えという珍事、新幹線にもあった

通例では、老朽化した車両を置き換えるため、編成まるごと新造する場合は新形式とする。車両を純増する場合も、前形式の投入から時間が経っていれば新形式とする。技術の進歩で性能も上がるし、先頭車のデザインも一新してイメージアップを図れる。だから同形式の新旧入替えは珍しい。

ただし、過去にも同様の事例はあった。東海道新幹線の初代車両0系、横浜市営地下鉄の3000形、JR西日本の103系などが挙げられる。

東海道新幹線の0系は、耐用年数を20年と見込んで設計・製造された。ところが、実際に運用してみると、世界初の高速営業運転、高頻度走行などの影響で、予想よりも早く金属疲労が進行していった。そこで当時の国鉄は12年で引退させることにした。しかし、もともと20年で引退させる計画だったから、新型車両の設計に着手していなかった。そこで、経年劣化で引退する0系を補充するために、0系の新造が行われた。

新幹線の利用者増加や山陽新幹線延伸などの影響で増結する必要もあり、0系は長期にわたって製造された。100系の新製投入と並行して、0系の増結用車両の製造も行われた。ただし、0系の後期形は窓のサイズ変更、モーター等の機器の性能向上も行われており、同形式と言っても古いままの性能ではない。

横浜市営地下鉄の3000形はブルーライン用の車両で、1992年から製造された1次車、1999年に製造された2次車、2004年に製造された3次車、2005年に製造された4次車、2017年から製造されている5次車のグループがある。1次車は新横浜~あざみ野間延伸開業に向けた増備用車両、2次車は戸塚~湘南台間延伸開業に向けた増備用車両、3次車は老朽化した1000形の置換え用、4次車は2000形を更新改造したグループで、3000形の車体や制御系、モーターに交換したため、3000形となった。

  • 横浜市営地下鉄ブルーラインの3000形1次車。「3000A形」とも呼ばれる

  • 3000形1次車の更新にともない製造された3000形5次車。「3000V形」とも呼ばれる

3000形はブルーラインの主力車両として実力を発揮しつつ、主要な構造設計を生かしてマイナーチェンジを重ねている。3次車からは先頭車前面デザインも少し変わった。3000形1次車を置き換える車両として、新形式ではなく3000形5次車を製造・導入したが、内装・性能ともに1次車と比べてもはや新型車両も同然。「11年ぶりの新型車両」と記した文献もある。3000形5次車の導入は2023年度まで決定している。今後、6次車が導入されるか、それとも「4000形」が誕生するのか、動向が注目される。2030年のあざみ野~新百合ヶ丘間延伸時には、イメージアップを狙った新型になると筆者は予想する。

103系は国鉄時代に製造された通勤形電車。国鉄分割民営化にあたり、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州へ継承された。このうちJR東日本とJR東海は新型車両に置き換えられて全廃。JR九州の103系も一部車両が305系に置き換えられた。JR西日本の103系も新型車両への置換えが進んでいるが、その過程で103系を103系で置き換える線区があった。

JR西日本は車両増備について、国鉄時代の車両は延命工事を実施して使いきるという方針だった。そのため、外板の整備、内壁の張替、窓サッシの交換などが行われた。とくに製造から40年まで使うという前提で行われた更新は「N40延命工事」と呼ばれ、新型車両との性能落差を改善するための「40N体質改善工事」などもあった。その結果、廃車となる103系の運用を更新工事実施後の103系で置き換える事例があった。

■旧10-300形と新10-300形も「ほぼ別物」

都営新宿線の10-300形も、ここまで紹介してきた同形式置換えと同様の経過となった。1次車は8両編成で、旧型の10-000形を置き換えるために製造された。このとき、10-000形のうち製造から年数の少ない中間車をまとめ、先頭車のみ10-300形に準じた車両を製造しており、これは10-300R形と呼ばれた。2010年以降、都営新宿線は相互直通運転を行う京王線と同じ10両編成とするため、新たに中間車を製造し、1次車の一部編成に組み込んだ。この新造中間車を組み込んだ編成が2次車となった。

  • 10-300R形は10-000形の中間車と10-300形に準じた先頭車を組み合わせた車両だった(2015年撮影)

3次車は2013年に登場。10両編成3本が作られ、8両編成の10-000形3本を置き換えた。10-300形の1・2次車はJR東日本のE231系の技術をベースに作られたが、この3次車からはE233系をベースに作られている。車体強度が向上し、バリアフリー設備も充実。ドア上に旅客案内用液晶画面が設置され、先頭車の前面デザインも変更された。したがって、3次車からは新形式も同然という考え方もできる。ただし、東京都交通局はマイナーチェンジと判断したようだ。

4次車は2015~2016年度に導入された。目立つ変化として、車内ドア上の案内画面が2面化されている。5次車は2016~2017年度に導入された。目立つ特徴として、座席の背もたれのデザインが変わり、ヘッドライトがLED化されている。

  • 10-300形の新造車両では、長編成化による輸送力増強に加え、全車両にフリースペースや防犯カメラなどを設置している

2021~2022年度に導入される8編成は10-300形の6次車となる。全車両に防犯カメラを設置し、吊り手の高さを変更。全車両にフリースペースを設置するなど、他社の新型車両に匹敵するサービス改善が行われるという。

全8編成が導入されると、10-300形の1次車はすべて引退となる。同じ形式に見えて細部が違う。その変化を探すことも、電車に乗るときの楽しみのひとつといえる。