悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、電話応対が緊張して苦手だと悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「電話が苦手です。どうしたら緊張せずに応対できますか?」(49歳女性/IT関連技術職)

  • 苦手な電話応対を克服するには(写真:マイナビニュース)

    苦手な電話応対を克服するには


以前にくらべればだいぶマシになったとはいえ、僕もいまだに電話が得意ではありません。

そもそも声が低く、滑舌がよくないのです。そのせいもあるのでしょうか、「もしもし」と言った瞬間に、たったそれだけで、電話の向こうにいる人が絶句したりするのです。

「お世話になります。○○でございます」
「もしもし」
「……」

冗談ではなく、本当にこんな感じ。「もしもし」だけで、そこまで警戒するかなぁと思わずにはいられないのですが、そんなことがあると余計に、電話で話すことが面倒になってくるわけです。

ですから、電話が苦手だという方の気持ちは痛いほどわかります。ただ、メールなどのやりとりが増えてだいぶ楽になったとはいえ、まだまだ電話が不要になったわけではありませんから、これからも苦悩は続いていきそうです。

つまり、そういう意味では、僕のご相談者さんと変わらないのです。そこで今回は、同じ悩みを抱える人間としての立場から、役に立ちそうな3冊をセレクトしてみました。

電話でのマナーとは

まずは電話応対についての基本をおさらいしてみましょう。なぜなら基本を再確認すれば、結果的に気持ちに余裕が生まれ、緊張を緩和することができる可能性があるはずだから。

参考にしたいのは、『最新ビジネスマナーと 今さら聞けない仕事の超基本』(石川和男 監修、宮本ゆみ子 著、朝日新聞出版)。文字どおり、仕事に関するさまざまな基本を再確認することができる一冊です。

電話のかけ方・受け方について著者は、顔が見えないコミュニケーションだからこそ、対面よりもマナーが重要だと主張しています。

丁寧な言葉づかいでゆっくりめに話し、落ち着いて要件を伝えましょう。手元には、必ずメモを用意しましょう。(80ページより)

  • 『最新ビジネスマナーと 今さら聞けない仕事の超基本』(石川和男 監修、宮本ゆみ子 著、朝日新聞出版)

    『最新ビジネスマナーと 今さら聞けない仕事の超基本』(石川和男 監修、宮本ゆみ子 著、朝日新聞出版)

当たり前のことだと思われるかもしれませんが、ここには重要なポイントがあると感じます。「ゆっくりめに話し、落ち着いて要件を伝える」という部分。というのも、電話が苦手な人は、余裕がないからこそつい早口で話してしまいがちだからです。

しかし、それでは伝わらなくて当然。そこを修正するだけでも、電話をかけることのストレスはだいぶ緩和できるのではないでしょうか。念のため、「かける前のチェックリスト」もご紹介しておきます。

かける前のチェックリスト
□要件をまとめる
→意図が伝わるように、電話をかける前に要件をまとめておきましょう。
□時間帯を考慮する
→早すぎる時間や遅すぎる時間、昼時は避けたほうが無難です。
□手元に置くもの
→メモと筆記用具のほか、カレンダーも用意すると便利です。
(81ページより)

なお(勇気がいるかもしれませんが)会社の電話が鳴ったら、率先して出るようにすることをお忘れなく。そしてビジネスの電話では「もしもし」ではなく、「お電話ありがとうございます」などと、会社のルールに従って明るい声でハキハキとあいさつすることを心がけるべき。

取り継ぐときや伝言を頼まれたとき、大切な言葉は復唱し、間違いのないように伝えることが大事。とくに相手の名前は、間違えないようにすることがとても重要になってくるでしょう。でも普段から、周囲の先輩がどんな相手と取引をしているか知って置くと、ミスが少なくなるそうです。

これだけでも難しいと感じられるかもしれませんが、こうしたときにも、上記の「ゆっくりめに話し、落ち着いて要件を伝える」という部分が応用できるのではないかと思います。

電話をかけるとき、受けるときの基本

ところで電話が苦手な人には、「あがり症」に悩まされている方も多いのではないでしょうか。そこで参考にしたいのが、『1分のスピーチでも、30分のプレゼンでも、人前であがらずに話せる方法』(鳥谷朝代 著、大和書房)。

著者は、日本で唯一のあがり症の方のための協会である「あがり症克服協会」の理事長であり、あがり症克服の専門家。自身にも、「超あがり症で、まったく使えない公務員」だった過去があるのだそうです。

そして当然のことながら、そのころは電話恐怖症でもあったのだとか。こちらからかけなければならないときは、誰もいないときを狙うか、別室に移動してかけていたというのですから、業務に支障が出るほどの重症だったことになります。

しかし、そんな状態を克服した結果、電話応対に関しては感じることが2つあるのだといいます。まず最初は、相当な自意識過剰だったということ。もうひとつは、電話応対の正しいマナーを知らなかったということ。つまりはそこをクリアすれば、あがり症を軽減できるということになるわけです。

著者のいう「電話をかけるときの基本のキ」は次のとおり。

1.電話をかけるということは、相手の手を止めるということです。
 要件はあらかじめ簡潔にまとめておきましょう。(後略)
2.電話も第一印象が肝心です。
 「~と申します」「~でございます」とはっきり名乗り、「お世話になります」「お忙しいところ恐れ入ります」と続けます。
3.一方的に話しはじめないこと。
 相手が出たら「いまよろしいでしょうか」「○○の件につきまして、10分ほどよろしいでしょうか」と相手の都合を聞きます。
4.電話は声が聞き取りにくく、身振り手振りも使えないので、直接話すよりゆっくり話すよう心がけましょう。
 表情がないぶん単調に聞こえやすいので、声に抑揚・変化をつけると感じがよく聞こえます。
(271~272ページより)

  • 『1分のスピーチでも、30分のプレゼンでも、人前であがらずに話せる方法』(鳥谷朝代 著、大和書房)

    『1分のスピーチでも、30分のプレゼンでも、人前であがらずに話せる方法』(鳥谷朝代 著、大和書房)

「電話を受けるときの基本のキ」もご紹介しておきましょう。

1.第一声が肝心。明るくさわやかに、名前をはっきり名乗ります。第一声で「もしもし」は使わないこと。長く待たせたときは「お待たせいたしました」と言います。
2.間違い電話にも丁寧に応対すること。(略)
3.取り次ぐときは受話器を押さえるか保留にすること。
4.取り次ぐ人が不在の場合は、相手の意向を尋ねます。
「よろしければ変わってご用件をお伺いしましょうか」
「○時には戻る予定ですが、戻り次第ご連絡させましょうか」
5.伝言を受けたらかならずメモを取り、自分の名前を名乗ります。たらい回しにはしないこと。
6.原則として相手が受話器を置いてから、静かに受話器を置きます。
7.クレームにも慌てず対応すること。
(272~273ページより)

印象を良くする5つのポイント

最後にご紹介したいのは、『「話し方」に自信がもてる 1分間声トレ』(秋竹朋子 著、ダイヤモンド社)。「声が変わるだけで、仕事の成果が上がる」というコンセプトに基づいた書籍で、電話応対についてもページが割かれています。

そのなかから、「電話応対がよい印象になる5つのポイント」をご紹介しておきましょう。

1.口角を上げたまま話す
口角を上げることで声のトーンは1音から1.5音上がり、明るい声になります。
2.単語を2~6音で区切り、息をたくさん吐きながら話す
噛んでしまうのは、長い単語を一気に話そうとするからなのだとか。
3.腹式呼吸で、小さめの声で話す
のどに負荷がかかる腹式呼吸で話していると、声が枯れ、印象の悪い声に。腹式呼吸で話すことが大切で、また、相手は電話の機能で音量調整できるので、声のボリュームは小さめがいいそうです。
4.お伺い、質問の語尾はきちんと上げる
語尾をキチンと上げるようにすると、無愛想な印象を持たれずに済むといいます。
5.謝罪の言葉は「だんだん小さく」
電話口で謝罪の言葉を使うときは、語尾にかけて弱くなるように発声。
(203~206ページより抜粋)

  • 『「話し方」に自信がもてる 1分間声トレ』(秋竹朋子 著、ダイヤモンド社)

    『「話し方」に自信がもてる 1分間声トレ』(秋竹朋子 著、ダイヤモンド社)

これらを意識して習慣化するだけでも、電話応対時には余裕を持つことができるようになれそうです。


しかし実際のところ、電話応対が苦手だという方は意外と多いものなのではないでしょうか? そう考えれば、あまり自分を追い込むようなことをする必要はないことがわかるはず。要は余裕を持ち、落ち着いて話すことを意識すべきなのでしょう。

もちろんそれは、やはり電話応対が苦手な僕自身にとっての課題でもあるのですが。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。