悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、チームで難しい仕事に取り組むとき、どういった姿勢でのぞむべきか悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「チームで困難性の高い仕事に取り組むときの望ましい姿勢が知りたい」(60歳男性/IT関連技術職)

  • チームで困難な仕事にのぞむ時の姿勢は?(写真:マイナビニュース)

    チームで困難な仕事にのぞむ時の姿勢は?


「ロック・バンドによくあるケース」ついて考えてみましょう。

ファースト・アルバムを成功させるバンドの勝因は多くの場合、メンバー同士が意志や方向性を共有できていることにあります。全員が熱意を持ち、同じ方向を向いているからこそ、出て来る音楽に説得力が生まれるわけです。

ファースト・アルバムが売れれば、バンドは次作についてのプレッシャーを抱え込むことになりますが、それは仕方がないことでもあるでしょう。もちろんそれを乗り越えることも大変なのですが、さらなる問題はサード・アルバム以降です。

なぜなら、このあたりになると多くの場合、各メンバーの目指すものにズレが生じてくるから。「いままでどおりでいいじゃん」という考えの人がいる一方、「もっと創造性を高めなければいけない」と主張する人がいたり、そうかと思えばソロ活動に興味が向いてしまうメンバーが出てきたり。

もちろん、すべてのバンドがこうしたプロセスを経て崩壊するというわけではなく、長く続く人たちもいればファーストで分裂するタイプもいるはずです。

しかし、いずれにしてもバンドは価値観も生き方も人生経験もそれぞれ異なる人たちの集合体。いつか、どのタイミングですれ違い、解散することになってもまったく不思議なことではないわけです。

こんな話をしたのは、会社組織にしても同じだから。たとえば社員が1,000人いたとしたら1,000人分の個性があるわけですし、10人の会社であっても変わりはありません。

また、社内のもっと小さな集団である「チーム」の場合は、距離感が短いだけにより“個人対個人”の図式が明確になるでしょう。

事実、チーム内では軋轢が生まれがちですが、むしろそれは当然の話。だとしたら、「うまくいかなくて当然」だと考えて個々の人たちと接することで、不必要なトラブルを避けられるようになるのではないでしょうか?

もちろん一筋縄ではいかず、時間もかかるでしょうけれど。

集団をチームにする為に「小学校を見習え」

『人はチームで磨かれる』(齋藤孝 著、日経ビジネス人文庫)の著者はさまざまな会社や団体からセミナーの講師依頼をされるそうですが、そのたびに「どうも職場が暗い」「空気が重たい」「ギスギスしている」「会話がない」などの声を聞くのだといいます。

もう少し明るく、軽く、居心地のいい空間にならないだろうかということ。

しかし、意識と行動を少しだけ変えてみれば、職場の空気は変えることができると主張しています。その変化を端的に表すなら、「集団」を「チーム」にするということなのだそうです。

同じ部署内でいくら机を並べていても、それは「集団」でしかない。まずはお互いメンバーの顔をよく見て、目標とモチベーションと情報を共有し、お互い協力し、助け合う体制ができて初めて、一体感のある「チーム」になるのである。(「はじめに――チームで人も職場も変わる」より)

  • 『人はチームで磨かれる』(齋藤孝 著、日経ビジネス人文庫)

    『人はチームで磨かれる』(齋藤孝 著、日経ビジネス人文庫)

「集団」と「チーム」の差をこのように考える機会は少ないかもしれませんが、なるほどそう考えればチームの価値を実感できるのではないでしょうか?

そして興味深いのは、「チームは『小学校を見習え』」という著者の主張です。

およそ“最強のチーム”の原型は、小学校にあると私は考えている。誰でも班活動に懸命に取り組んだ記憶があるだろう。私の場合も、何かの発表会に向けて、連日放課後に持ち回りで誰かの家に集まった覚えがある。五、六人で話し合いながら、遅くまで模造紙にいろいろ書くのが楽しみだった。(35ページより)

班で意見を言うためには知識が必要なので、まずは自分で勉強することになります。さらには仲間を説得したり、仲間の主張を理解したりする必要がありますから、コミュニケーション能力の養成にもなります。

そしてもっと重要なのは、仲間とひとつのものをつくり上げる楽しさ。それによってやる気がどんどん引き出されることになり、集団で意思決定する方法を学ぶこともできるわけです。

そう考えたとき、かつて誰もが小学校で学んだはずの大切なことを、会社組織は見失っていると著者は指摘するのです。「タテの命令系統はもちろん組織には不可欠だが、班活動的パワーを活用しないのは惜しい」とも。

言われてみれば、これは会社内のチームにとってとても大切なことかもしれません。

ブレインストーミングを実践する

『幸せな職場の経営学』(前野隆司 著、小学館)の著者は、「幸福学」の権威。「幸福学」とは、幸せに生きるための考え方や行動を「科学的」に検証し、実践に活かすための学問なのだそうです。

そのような立場と経験に基づいて本書で焦点を当てているのは、「幸せな職場で人々はどう変わるのか」ということ。そのうえで、「職場における幸せ」や「幸せなチームのあり方」についての考え方を紹介しているわけです。

本書において著者は、「創造的なチームのためのレッスン」としてブレインストーミングに焦点を当てています。

  • 『幸せな職場の経営学』(前野隆司 著、小学館)

    『幸せな職場の経営学』(前野隆司 著、小学館)

ご存知のとおり、ブレインストーミングとは多様なアイデアを出すために基本的な手法。幸福学の文脈においては、たとえば「自分やチームの幸福度をさらに高めるためにはどんなことをしたらいいのか」というテーマでブレインストーミングをすれば、幸福度を高めるためのアイデアがどんどん出てくるというのです。

ブレインストーミングはアイデアを大量に発想する際に用いられる手法なので、突拍子だったり奇抜だったり、どんなアイデアが出てきてもOK。それらを否定せず、みんなでシェアしあうことに意味があるということです。

ブレインストーミングのルールは、対話の心得と似ています。人のアイデアを聞き、尊重し、批判的なコメントはせず、自分も何か思いついたら躊躇せずに出してみる。(中略)イノベーション創出のアイデア出しでは必要不可欠なブレインストーミングですが、これを活用したハッピーブレインストーミングをお勧めします。職場で「どうしたら毎日の業務にワクワクできるか」をテーマにアイデア出しを定期的に開催するのです。(197ページより)

ブレインストーミングを通じ、異なる視点からどんどん出し合っていく。うまくいかなければ、うまくいくような新たな手法を考えればいいだけ。たしかにそうしたトライ& エラーの循環は、イノベーション創出のレッスンとして有効であると同時に、チームとしての結束をも固めてくれそうです。

「勝手に稼ぐチーム」をつくるには

最後にご紹介したいのは、『今いる仲間で「勝手に稼ぐチーム」をつくる』(池本克之 著、日本実業出版社)。著者は生命保険会社などを経て、ドクターシーラボ、ネットプライスの社長を歴任したのち、「組織学習経営コンサルタント」として企業経営のアドバイスを行っている人物です。

なお、「勝手に稼ぐチーム」というと営業マンの話のようにも思えるかもしれませんが、そういうわけではないようです。

勝手に稼ぐチームとは、メンバー一人ひとりが自分で考えて行動できるチームのこと。さらに、「稼ぐ」というからには業績を上げるのに貢献しているチームでもあります。(「はじめに」より)

  • 『今いる仲間で「勝手に稼ぐチーム」をつくる』(池本克之 著、日本実業出版社)

    『今いる仲間で「勝手に稼ぐチーム」をつくる』(池本克之 著、日本実業出版社)

つまり著者が本書で強調しているのは、上の人間がなにも言わなくても行動できるチームの重要性。そこで過去の経験に基づいて、理想的なチームのあり方を示しているわけです。

「勝手に稼ぐチーム」をつくるのは大変そうですが、どんなチームでもそんなチームにレベルアップできると著者は確信しているのだそうです。そのために必要なのは、チームの「課題発見力」を高めること。

そのためには、以下の「5つの要素」が不可欠だといいます。

鳥の目を持つ(「全体思考」を浸透させる)
チーム全体で学ぶ力をつける
メンバー個人の自己成長力を育てる
チームメンバーがお互いを理解しあう
全員で同じ方向を向く
(95~123ページより)

詳細については本書を確認していただきたいと思いますが、こうした考え方が大きな意味を持つということです。ただしこれらには、どれから導入すればいいという順番はなく、すべての方法を実践する必要もないのだとか。

2~3の方法を実践してみるだけでも、効果が現れる可能性があるというのです。だとすれば、まずはできそうなことから試してみれば、チームメンバーには課題発見力が身につき、やがて結束が固まっていくかもしれません。


チームが「価値観も生き方も人生経験もそれぞれ異なる人たちの集合体」であるということは、「だったらうまくいかないじゃん」というように、否定的に捉えられがちです。しかし、「違って当然」と考えてみれば、それは「じゃあ、どうしたらいいか考えてみよう」という前向きな発想に変えていけるはず。

全員がそんな感じ方を共有することができれば、チームはよりよい方向に進んでいくのではないでしょうか?

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。