若者を中心にフィルムカメラ人気が続くなか、「ハーフ」「ハーフサイズ」と呼ぶフォーマットのフィルムカメラが話題に上ることが増えました。巷では、コダック製のリーズナブルな価格のハーフサイズカメラが人気を博していますし、リコー(ペンタックス)はハーフサイズのコンパクトフィルムカメラをこの夏にリリースすると予告しています。今回は、ハーフサイズについて解説するとともに、現在中古で手に入れられる往年のハーフサイズカメラを紹介したいと思います。

  • 上がハーフサイズで撮影したネガフィルム、下が36×24mmのフォーマットを持つカメラで撮影したネガフィルム。ハーフサイズはその名のとおり、36×24mmの半分の大きさであることが分かります。経済的なうえ、フィルム写真らしい粒状感がアップするというポイントも

35mm判にはない魅力を持つハーフサイズ

一般に、35mmフィルムのフォーマットサイズは36×24mmの大きさです(今回は「フルサイズ」と記載します)。ハーフサイズも同じ35mmフィルムを使用しますが、フォーマットの大きさはその半分、18×24mmとなります。

35mmフィルムは、フルサイズで撮影したときの撮影可能枚数がパッケージやパトローネ(フィルムが入る金属製の容器)に記載されていますが、ハーフサイズで撮影した場合、その2倍の枚数が撮影できます。24枚撮りフィルムなら48枚、36枚撮りなら72枚になります。以前に比べ、フィルムの価格はビックリするほど高騰していますので、ハーフサイズでの撮影なら経済的に撮影が楽しめます。前述のコダック製のハーフサイズカメラが人気なのも、リコーが新しく出そうとするカメラがハーフサイズなのも、ひとつにはその理由もありそうです。

  • ハーフサイズカメラは35mmフィルムを利用しますが、フィルムに記載の撮影可能枚数の2倍の枚数が撮影できます。写真のフィルムは「36」の表記から分かる通り、すべて36枚撮りですが、ハーフサイズカメラだと2倍の72枚が撮影でき経済的です

  • ハーフサイズカメラのフィルムカウンターは72枚+αまで表示。写真はオリンパス「PEN EE-3」のものとなります。36枚撮りのフィルムをカメラに装填すると、いつまでたっても撮り終わらないこともありそう

基本的に、ハーフサイズのカメラをそのまま構えると、縦位置写真となります。縦位置写真の好きな人はよいのですが、横位置写真に慣れていると使いにくく感じるかもしれません。また、仕上がった写真が縦位置ばかりになることも。横位置の写真が撮りたいときは、積極的にカメラを縦位置に構えるよう心がけておくとよいでしょう。

  • オリンパス「PEN EE-3」のファインダーを覗いた様子。ほとんどのハーフサイズカメラは、横位置にカメラを構えると縦位置の写真となるため、ファインダー像ももちろん縦長になります

  • ハーフサイズの一眼レフ、オリンパス「PEN F」のミラーボックス内。ミラーが縦に長いのが特徴です。このカメラのファインダー光学系は、ペンタプリズムを持つ一般的な35mm一眼レフとは異なるものです

ちなみに、京セラが1980年代後半にリリースしていたサムライシリーズのように、フィルムを横にして装填するカメラの場合、ハーフサイズながら通常の構えで横位置の写真が撮れるものもありました。

フォーマットサイズが小さいため、総じてカメラが軽量コンパクトなのもハーフサイズの特徴であり、魅力となっています。持ち運びしやすく、カメラバッグのちょっとしたスペースに収納でき、またそのサイズ感から注目されることも少なくありません。

  • ハーフサイズのコンパクトカメラ(右:オリンパス「PEN EE-3」)と35mmのコンパクトカメラ(左:オリンパス「TRIP 35」)の比較。写真では少し分かりづらいですが、ハーフサイズのほうがレンズの出っ張りも小さく、コンパクトに仕上がっています

  • ハーフサイズのカメラ(右上)と35mmサイズのカメラ(左下)との比較。ハーフサイズのフィルム面への照射開口部の大きさが、35mmサイズの半分であることが分かります

  • ハーフサイズの一眼レフカメラ(右)と35mm一眼レフカメラ(左)の大きさ比較。ハーフサイズの一眼レフはレンズも含めボディが35mm一眼レフにくらべコンパクトです。写真では、35mm一眼レフに装着したレンズがちょっと大きいのはご愛嬌

さらに、フルサイズと比べたとき、同じ画角のレンズならば、ハーフサイズは実焦点距離が短く、深い被写界深度が得やすいのもメリットのひとつ。ピントを大きく外すことは少ないといえます。

その反面、大きなボケを得るのは難しく、ボケを生かした描写はどちらかといえば苦手です。そのため、ハーフサイズはパンフォーカスで撮ることの多いスナップ向きのフォーマットといえます。また、フォーマットがフルサイズの半分の大きさですので、フィルム特有のザラっとした粒状感が出やすいことも特徴。これについては好みの分かれるところですが、緻密な写りを求めるのであれば粒状感の出にくい低感度のフィルムを使い、粒状感を生かした写りが楽しみたければ高感度のフィルムを使用すると効果的です。

今手に入れられるハーフサイズカメラのおすすめは?

以上がハーフサイズのおもな特徴となります。ハーフサイズカメラの購入ついては、現在新品で手に入るのはコダックの「EKTAR H35N」(実売価格は10,890円前後)や、ロモグラフィの「Lomourette Half-frame Water Lilies Edition」(実売価格は10,880円前後)などがあります。プラスチック製でシンプルな構造のカメラがほとんどですが、その分価格はリーズナブルです。これからハーフサイズで撮影を楽しみたい人や、フィルム初心者の入門用として最適な1台といえます。

  • 東京・新宿の新宿 北村写真機店で販売していた、ハーフサイズのフィルムカメラ「コダックEKTAR H35N」。新品で、取材時の販売価格は10,890円でした

  • EKTAR H35Nの裏蓋を開けた状態。カメラを横に構えた際に縦位置撮影となります

中古ならば、さまざまなハーフサイズカメラが手に入れられます。おもなメーカーとしては、オリンパス、リコー、キヤノン、富士フイルム、コニカ、ミノルタ、京セラ、ペトリなどがあります。

  • ハーフサイズのカメラを代表する3モデル。手前から、オリンパス「PEN EE-3」、リコー「オートハーフSE」、オリンパス「PEN-F」となります。ハーフサイズは、一般的な36×24mmの半分の大きさのフォーマット。経済的に撮影が楽しむなら、断然ハーフサイズです

なかでも、オリンパスはハーフサイズカメラを1960年代に積極的に展開しており、現在中古カメラショップでも見かけることの多いメーカーです。バリエーションも豊富で、シンプルな「PEN EE」シリーズから、珍しいハーフサイズの一眼レフ「PEN F」シリーズなどがあります。

  • ハーフサイズカメラの代表と言えばオリンパスのPEN EEシリーズ。写真は、そのシリーズ末期のモデル「PEN EE-3」となります。こちらも露出はオート、ピントも固定で、手軽に撮影が楽しめます。被写体が暗いとシャッターが切れなくなる親切設計なのもうれしいポイント

  • 数少ないハーフサイズの一眼レフシリーズ、オリンパスPEN Fシリーズ。写真のモデルはその初号モデル「PEN F」です。シリーズには、このほかに「PEN-FT」「PEN-FV」があります。このシリーズも、中古品を扱うカメラ店が多いように思えます

  • オリンパスPEN Fシリーズ用のレンズ群(一部)。このほかに大口径の標準レンズや超望遠レンズなどもラインナップされていました。もちろん、レンズの鏡筒は35mm一眼レフ用のものにくらべ軽量コンパクトに仕上がっています

リコーは、ゼンマイによるフィルム巻き上げ機構を持つ「オートハーフ」シリーズを1960年代から1970年代まで展開しており、やはり中古カメラショップなどでよく見かけます。そのほかのメーカーのハーフサイズカメラも、お店を丹念に探せば比較的簡単に見つけられます。

  • 小さな四角いボディがカワイイ「オートハーフSE」。露出は完全オート、ピントも固定焦点なので合わせる必要はありません。フィルムの巻き上げもゼンマイによる自動。リコーオートハーフシリーズは製造期間が長く、種類が多いのも特徴です

中古のハーフサイズカメラの購入は、やはり中古カメラショップで直接購入するのがベスト。店員さんの話を聞ききながら実機を手に取って状態を確認できますし、初期のトラブルに対応してくれるところも少なくありません。もし近所に中古カメラショップがない時は、そのようなショップが運営する通信販売を利用するとよいでしょう。状態の確認や不安点は購入前に電話で質問できますし、店頭で購入したときと同様に初期トラブルに対応してくれます。カメラの状態が把握しづらく、補償が一切ないネットオークションやフリマサイトなどでの購入は、初心者に限らず控えたほうが賢明です。

繰り返しとなりますが、フィルムが経済的に使え、コンパクトで軽量なカメラの多いハーフサイズは、とても魅力的なフォーマットといえます。中古のハーフサイズカメラもまだまだ手に入れやすく、価格も比較的安価。手軽に撮影できる完全オートのカメラから、露出やピント合わせが楽しめるカメラも少なくありません。スマホやデジタルカメラのきれいすぎる写りに飽きた人や、とにかくフィルムでの撮影に挑戦してみたい人に、ハーフサイズのフォーマットは断然オススメ。フィルム写真への入り口として、気軽にトライしてみてほしいと思います。

  • 絞りやシャッター速度を合わせる必要のない自動露出、ピント合わせが不要の固定焦点、さらに小型軽量なので、ハーフサイズカメラはスナップに最適。あっと思ったら素早く記録することが可能です リコーオートハーフSE・フジカラー200・ISO200

  • ハーフサイズに限らず、一眼レフのメリットはレンズ交換ができることに加え、ファインダーで見たままのアングルで撮影が可能であること、ピントもしっかりと合わせられることがあります。ハーフサイズでも本格的な撮影を楽しみたいなら、やはり一眼レフがいいかも オリンパスPEN F・Gズイコー AUTO-W 20mmF3.5・イルフォード FP4 PLUS・ISO125

  • 使用期限が大きく過ぎたカラーフィルムで撮影すると、変色が発生するほか、粒状感も強くなります。36×24mmのフォーマットよりもハーフサイズのほうが粒状感が出やすいので、あえてハーフサイズのカメラで撮るのも楽しいかもしれません オリンパスPEN F・Dズイコー AUTO-S 38mmF2.8・コダック ゴールド100(使用期限切れ)・ISO100

  • 絞りもシャッター速度も任意で決められるので、露出のコントロールが容易なのもオリンパスPEN Fシリーズの魅力。36×24mmのフォーマットと同様、撮影者の撮影意図を汲んだ結果を得ることができます オリンパスPEN F・Gズイコー AUTO-W 20mmF3.5・コダック ゴールド100(使用期限切れ)・ISO100

  • 36枚撮りのフィルムは、ハーフサイズでは72枚の撮影が可能となります。そのため、いつフィルムが終わるか気にしなくなり、勢いフィルムを最後まで巻き上げようとしてしまい、ネガにダメージを与える結果に。でも“エモい”写真となりました オリンパスPEN F・Gズイコー AUTO-T 100mmF3.5・コダック ゴールド100(使用期限切れ)・ISO100

  • 縦位置アングルは、ある意味ハーフサイズカメラの得意とするところ。カメラも構えやすいので、手ブレを抑えることも容易です。オリンパスPEN Fはシャッターのタイムラグも少なく、シャッタータイミングを見逃すことはありません オリンパスPEN F・Gズイコー AUTO-T 100mmF3.5・イルフォード FP4 PLUS・ISO125

  • ハーフサイズは、36×24mmの半分となるフォーマットですが、低感度のフィルムを使って丁寧に仕上げると、36×24mmに迫る階調再現性や粒状性が得られます オリンパスPEN F・Dズイコー AUTO-S 38mmF2.8・イルフォード FP4 PLUS・ISO125

  • 高価なフィルムでの撮影を経済的に楽しめるハーフサイズカメラ。コンパクトなボディでいつでもどこへでも持って行けるウエアラブルなカメラと例えてよいでしょう。この記事を読んで興味を持ったなら、ぜひ挑戦してみてください リコーオートハーフSE・フジカラー200・ISO200(モデル:笑美凛)