神木隆之介主演の連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~※土曜は1週間の振り返りほか)。制作統括の松川博敬氏は「視聴者の皆さんの盛り上がりという点でも、本当に予想を超える反響をいただき幸せです」と喜びを口にしている。松川氏が前半の総括や今後の見どころ、朝から癒やされると話題の神木演じる槙野万太郎と浜辺美波演じる寿恵子夫妻の名シーンなどについて制作秘話を語ってくれた。

  • 長女を抱く槙野万太郎役の神木隆之介(左)と妻・寿恵子役の浜辺美波

高知県出身の植物学者・牧野富太郎をモデルにした本作は、幕末から明治、大正、昭和と激動の時代に、植物を愛し、その研究に情熱を注いでいく主人公の万太郎とその妻・寿恵子の波乱万丈な生涯を描く物語。脚本を担当しているのは、NHKのドラマ『群青領域』(21)や『旅屋おかえり』(22)などを手掛けた長田育恵氏だ。視聴率は右肩上がりで、ますます盛り上がりを見せている。

前半最後の第65回が放送されたのは6月30日で、松坂慶子演じる万太郎の祖母・タキが天に召され、7月から後半がスタートした。オープニング映像も新バージョンとなり、そこから万太郎夫妻の新婚生活が描かれてきた。

松川氏は「前半と後半のラインはそんなに意識はしてなかったのですが、なんとなくタキさんの死を真ん中くらいでやりましょうとなって、たまたまそこがいい区切りになりました。タキさんが『らんまん』というタイトルを回収したことで、とても良い(前半の)締めになったと思います」と語る。

前半のハイライトの1つが、白いドレスをまとった“ユウガオのお姫様”の寿恵子が万太郎のいる長屋に駆けつけ、胸キュンのハグをしたシーンだ。第55回でハグをしたあと、続く第56回でようやく2人が自分の思いを打ち明け合い、胸熱のシーンとなった。

「56回は長屋だけで展開しますが、すごく見ごたえのあるシーンになったかと思います。週頭の月曜日に盛り上がりのピークが来るというのは特殊なケースですね。万太郎、寿恵子さんはもちろん、竹雄(志尊淳)や丈之助(山脇辰哉)などとやりとりするタイミングも面白くて、俳優の皆さんが素晴らしかったですし、演出も適確でした。僕も一視聴者として楽しませてもらいました」

そんな万太郎と寿恵子のラブストーリーパートをドラマティックに盛り上げた功労者の1人が、ミュージカル俳優で朝ドラ初登場となった伊礼彼方だ。演じたのは寿恵子にガンガン猛アプローチをしていく元薩摩藩士の実業家・高藤雅修役で、その“圧”の強さから、浜辺美波や視聴者から“ヤバ藤”などと呼ばれ、熱い視線を浴びた。

「キャスティングは私1人でやっているわけではなく、他のプロデューサーやディレクター、長田さんも含めてスタッフでいろんな案を出し、伊礼彼方さんの名前は舞台好きのディレクターから上がりました。『らんまん』は1人1人の人物造形がしっかりしているとか、キャスティングがハマっているとか、全体的にうれしい反響ばかりいただいていますが、自分の意図しないところで、他のスタッフが頑張ってやっているところが認められることも非常にうれしいです」

高藤はいきなり寿恵子の手にキスをしたり、お姫様だっこをしたりと、かなりアグレッシブなキャラクターだったが、松川氏は「あの時代のハイソサエティーの男性ならば、当然の振る舞いだったのかもしれないなと僕は思ったのですが、意外な盛り上がり方でした。高藤さんは薩摩弁が強烈で、伊礼さんはすごくキャラを立たせてくれました。でも、あそこまで、濃い薩摩弁になるとは! それは偶然の産物かもしれないです」と語る。

結婚してからは万太郎と寿恵子夫婦の慎ましくも微笑ましい日常のやりとりにはほっこりさせられる。なかでも第78回で、万太郎が寿恵子の頬にキスをするシーンは朝から胸がキュンキュンしたが、松川氏も「私もあのシーンはすごく好きです」とうなずく。

「ト書き上にも『口づけをする』とありましたが、演出の津田(温子)が、とてもいい2人の雰囲気を切り取ってくれました。自画自賛ですが、あのシーンは本当に素晴らしいです。『らんまん』はすごく展開が早く、それは脚本の長田さんの持ち味でもあり、視聴者の皆さんも評価してくれています。でも、あの夫婦のシーンで画かれているのはゆったりとし空気の幸せな日常であり、なんでもないシーンだからこそ、夫婦の関係性がすごく表れていると思います。個人的には、神木さんて白い衣装がとてもお似合いだなと思っていて、そこに風が吹いているという文学的な情景の中、最後にチュッとするのがいいですね。浜辺さんのハニカんだ表情も可愛いと思いました」

松川氏は、万太郎夫妻の変化も感じているようで「結婚するまでの可愛らしい2人がいて、その後に新婚時代が描かれていきましたが、そこと今を比べるとだんだん大人の夫婦になってきています。そこは神木さんや浜辺さん2人のすごい力だと思います。だんだん円熟味が出てくるというか、2人がすごくそこを上手く表現されていて、さすがだなと。ちゃんと年を重ねている点がとても素敵だなと思っています」と語る。

第80回では、寿恵子の出産が描かれた。同シーンについて松川氏は「ちょうど植物採集のために留守にしていた万太郎が、ギリギリ寿恵子の出産に間に合うように帰ってきます。万太郎がいない間、寿恵子さんは1人で大きいお腹を抱えて、内職もしながら、標本の整理もしていました。出産シーンは浜辺さんが頑張っていて、 実際に映像で観ても本当にリアルだったと思いました。『らんまん』では、そういう寿恵子さんのたくましさが描かれつつ、いざ、陣痛が始まると、長屋の人間たちがみんなで協力していくという、人の温かさも表現できていると思います」と述べる。

また、今後の見どころについては「14週から17週までがひと塊となっていて、万太郎の業績ラッシュというか、ある種のゾーンに入っていきます。万太郎は世界的な発見をして、どんどん業績を上げていきますし、子どもが生まれてハッピーになっていきます。それと対比して、要潤さん演じる田邊教授との溝がますます深まり、格差がどんどん開いていくし、田邊さんの敵対心も増していくという流れです」とのこと。

さらに松川氏は「後半はまた前半とは違った感じの見応えのあるドラマになっていくと思います」と手応えを語り「私自身も、毎週の試写を『こう来たか!』とワクワクしながら観ておりますので、たぶん期待を裏切らない、目が離せないドラマになるのではないかと。今後もぜひ応援のほど、よろしくお願いします」と締めくくった。

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