5月18日に放送されたサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:25~)は、東京大学のサッカー部から、データ分析のスペシャリスト「UTokyo Football Lab.(ユー・トウキョウ・フットボールラボ)」のメンバーがゲスト出演。MCの勝村政信や解説の槙野智章らと、サッカーにおけるデータ分析の最前線について、トークを展開した。

1918年に創立した東京大学の「ア式蹴球部」は、日本で一番古い大学サッカー部として知られており、近年はデータ分析能力を武器に世界でも活躍。2023年にはベルギー1部のシント=トロイデンとパートナーシップを締結し、スカウトのサポートを行なっている。部内のテクニカルユニットのメンバーが、日本とベルギー以外の各国リーグを対象に、選手をランク付け。推薦選手のレポートをトロイデンに提出している。

そんな東大ア式蹴球部から、研究開発やデータ分析に特化したユニットとして独立する形で、2023年1月にラボが誕生。スタジオにはラボのメンバーとして、王方成、染谷大河、福島隆人、松尾勇吾が登場した。

ラボを結成したのは、大学生特有の“ノウハウ”の継承に課題があったからだという。代表を務める王は「データ分析は学部の3年、4年生になってようやくできる。でも、技術がついてきても、部活でやっていると、その人たちは卒業してしまうので。それがすごくもったいないと思って。修士や博士の学生がサッカーに関われるようにと思って、この組織を立ち上げました」と明かした。

現在、ラボには他大学の学生や大学院生も含め、総勢28名の精鋭が在籍し、データ分析のシステム作りに取り組んでいる。成果の一つでもある「スマートゴール」は、これまで、定点でしか見られなかったゴールキーパーの動きを3DCG化することによって、あらゆる角度から捉えることを可能にしたデータ分析システム。今年3月にアメリカテキサス州で開催された最先端技術の集まる世界最大級のイベントでは、オランダの名門アヤックスや、メジャーリーグサッカー(MLS)の関係者も関心を寄せていた。

番組では、実際にどのようにキーパーを分析するのか見せてもらうことに。まずは、クロスバーに取り付けられた2台の小型カメラで練習中のキーパーを撮影し、映像をサーバーにアップすると、すぐにAIが映像をマッチングし、人物を測定。出来上がった3DCGをプロ選手の動きと比較することによって、課題を鮮明にするという試みが行われていた。練習後にキーパーに直接フィードバックすることで、正解に近い動きを学ぶことができるという。

プロも指導する東大の三浦和真コーチは「今まで見ていた目線よりも多角的に違う角度から見ることができ、こういうふうに動いたからこう取れたんだなとか、動きが早いように見えたけど、ここでステップを踏めているんだなとか、より分析できるようになるのが一番の魅力だと思います」と、システムの可能性を指摘。

また、システムの開発に協力しているMLSのバンクーバー・ホワイトキャップスに所属する高丘陽平は「自分はゴールキーパーとしてのサイズがそんなにない分、体の使い方とか動かし方というのはけっこう意識しているので。筋肉の動く順番みたいなものが見えたら、すごく嬉しいですね」と、さらなる技術革新を熱望していた。

槙野は「実際にプロ選手と一緒にトレーニングをする機会がない中で、自分の足の運び方とか動き方っていうのを照らし合わせながらやるっていうのは、選手にとっては非常にいいですよね」と感心。選手時代はデータ反対派だったこともあったと言う。「僕が(データ分析を)ポジティブに捉え出したのは、自分が課題とするプレーが良くなったり、そのデータを参考にするとプレーの幅が広がったりしたというのがあったので。自分の動きを知るという意味ではデータってかなり必要」と続けた。

さらに、ラボでは新たな取り組みとして、筋肉や骨格の動き分析して体にかかるデータを割り出すシステムや、常に同じ軌道・強さでボール供給できるAIボールランチャーなども開発中。プロダクトの開発には工学系の学生も参加するなど、様々な頭脳を活かせるが大学のラボならではの強みもある。

システムとプロダクトの両面でサッカー界に新風を吹き込んでいる彼らは、どんなビジョンを掲げているのか。王は「世界一のサッカー研究機関を作るというのを目標にしています」と宣言。「日本サッカーはW杯優勝を目標にしていますけど、ゆくゆくはそこに貢献していきたい。それができる人材というのは、日本にはけっこう揃っていると思っていて。そういった力を集結して、世界に通じるようなデータ解析やプロダクトをどんどん出していけたらなと思っています」と意気込んだ。

一方で勝村は「情報に対してお金を出すっていうところは、まだまだ日本って弱いから、なかなか日本で開発して続けていくのって難しいよね」と問題提起。海外で認めてもらい、逆輸入する形もあると説く。

槙野は「僕らのやるべきことっていうのはあるんですけども、やっぱそれだけでは勝てないですし、それだけでは上に押し上がっていけない」と主張。日本サッカー発展のためにはこうしたラボやデータの力が必要になるとし、「ご一緒に仕事をしたいなっていうふうに思いました」と期待を寄せた。