NHKは1月8日、「東京メトロ 有楽町線と南北線 延伸へ 2030年代半ば開業を想定」と報じた。国と都が令和4年の予算案に調査費を盛り込み、両方とも確定的となったからだ。

すでに国の調査費は12月24日に閣議決定され、新聞等で報じられていた。NHKの報道は1月6日に東京都予算案の財務局査定が終わり、議会提出が確定的になったことを受けてのものと思われる。2月から3月にかけて、国会または都議会に報告され、可決すれば予算が執行される。

議会に諮る前の段階として、国の予算は各省と財務省の大臣折衝が行われた。都の予算は財務局の査定で認められている。どちらの予算も、よほどのことがない限り可決するから、現在の段階で「建設着手が確定した」と言えるわけだ。

■有楽町線、豊洲駅と住吉駅は準備済み

  • 東京メトロ有楽町線の延伸ルート

東京メトロ有楽町線の延伸事業は豊洲~住吉間。豊洲駅から分岐して北東へ進み、東陽町駅を経由して北上し、住吉駅に至る。豊洲駅は将来の延伸に備え、プラットホーム2面・線路4本を設置できる構造になっている。外側が有楽町線、内側が支線用で、過去には豊洲駅止まりの折返し列車も発着した。現在、内側のプラットホーム・線路は閉鎖され、通路として使用されている。

住吉駅も豊洲駅からの支線に対応してプラットホーム2面・線路4本を設置できる構造に。2層構造のため、現在は各階のプラットホームの片側だけ使い、未使用側は留置線扱いになっている。両駅を結ぶ区間については、東陽町駅のほか、豊洲~東陽町間・東陽町~住吉間にひとつずつ駅ができる。

2019(平成31)年の検討資料「東京圏における国際競争力強化に資する鉄道ネットワークに関する調査」によると、豊洲~住吉間の所要時間は約10分。運行頻度は片道1時間あたり8~12本、うち4本は有楽町線に直通するという。事業費は約1,560億円。建設期間は約10年間となっている。

国土交通省の「令和4年度鉄道局関係予算決定概要」では、建設の意義を「国際競争力強化の拠点である臨海副都心と都区部東部を結ぶ新線を整備することにより、臨海副都心と都区部東部等とのアクセス利便性の向上や東西線の混雑緩和など都市機能の一層の充実を図る」と記している。具体的には東京都江東区・墨田区と湾岸エリア、都心方面の往来が便利になる。

■南北線、品川駅は国道15号並行案が有力

  • 東京メトロ南北線の延伸ルート

東京メトロ南北線の延伸事業は白金高輪~品川間。白金高輪駅の南側にある引き上げ線を延長し、品川駅に至る。白金高輪駅は東京メトロ南北線の他に都営地下鉄三田線も発着し、現在は2路線とも目黒方面へ合流する運用になっている。引き上げ線も共同で使っており、延伸区間は都営三田線も直通可能になる。

この延伸は東京都の発案だから、都営地下鉄として建設するほうが妥当に思える。東京メトロ南北線延伸とされた背景は、2021年7月15日に国土交通省の「交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会」が、「東京メトロに事業主体の役割を求めるのが適切」と裁定したから。本誌で2021年7月25日に掲載した記事「地下鉄『東京8号線』整備の好機、江東区の宿願は叶うか」で紹介したように、この裁定には、国の東日本大震災復興財源のため、東京メトロ株を売却する必要があり、その前に延伸の枠組みを決める必要があった。

2019(平成31)年の検討資料「東京圏における国際競争力強化に資する鉄道ネットワークに関する調査」では、「品川線」とされており、白金高輪~品川間は約2.5km、中間駅はなし。所要時間は約4分。運行頻度は片道1時間あたり12本。東京メトロ南北線・都営三田線の両方から直通する。現在、両路線で白金高輪駅止まりとなっている列車が品川へ向かうイメージだ。

品川駅は、JR線・京急線の品川駅に並行して国道15号直下に建設するAルートと、品川駅地下の東西方向に建設するBルートが検討された。調査の結果、Aルートの輸送人員は13.4万~14.3万人/日、Bルートは7.8万人/日となった。これは品川駅の利用者の多くがJR線・京急線との乗換えを志向すると考えられるため。事業費は約800億円、建設期間は約10年間とされた。

国土交通省の「令和4年度鉄道局関係予算決定概要」では、建設の意義を「六本木等都心部とリニア中央新幹線の始発駅となる品川駅を結ぶ新線を整備することにより、都市中心部の移動の円滑化や国際競争力強化の拠点である品川駅周辺地区と都心部とのアクセス利便性の向上など都市機能の一層の充実を図る」と記している。具体的には六本木・赤坂地区、永田町、市ヶ谷、日比谷、大手町などのエリアと品川駅が乗換えなしで結ばれる。

■国と都の令和4年度予算の内訳

国土交通省の「令和4年度鉄道局関係予算決定概要」によると、「都市鉄道整備事業費補助(地下高速鉄道)」として、事業費177億5,200万円が計上され、そのうち国費として44億7,300万円が計上された。差額は財政投融資など国庫補助金が充当される。この予算の内訳として、「地下高速鉄道ネットワークの充実」「列車遅延対策の推進」「鉄道駅におけるバリアフリー化の推進」「ホームドアの整備促進」「耐震対策の推進」「地下駅等の浸水対策の推進」がある。

有楽町線延伸・南北線延伸は「地下高速鉄道ネットワークの充実」に該当しており、ここには「なにわ筋線の整備」「福岡市七隈線の延伸整備」も含まれる。それぞれの内訳は記載されていないが、配分割合はかなり低いと思われる。

東京都の「令和4年度予算要求概要」によると、東京都は「都市高速鉄道建設助成等」として、「東京都交通局補助金」に15億100万円、「東京地下鉄株式会社補助金」に15億4400万円を計上した。令和4年度は新規項目として、「東京地下鉄株式会社補助金(新線建設)」10億4,600万円を新規計上した。他に「鉄道新線建設等準備基金積立金」43億3,100万円を計上している。

有楽町線延伸・南北線延伸の事業費合計は2,360億円だから、国と都の令和4年度予算は調査費程度にしかならない。具体的なルート計画、環境影響評価の準備といったところだろう。しかし、予算が計上されたことで事実上の事業スタートとなった。

鉄道路線は調査計画から環境影響評価終了までが10年程度かかる。有楽町線延伸・南北線延伸の建設期間はどちらも10年と見積もられているから、合わせて約20年。2022年を起点とすれば、営業開始は2042年前後となる。報道では2030年代の開業目標とされており、今後は環境影響評価終了までの準備期間短縮が課題となる。

もうひとつの指標として、品川駅を起点とするリニア中央新幹線の新大阪延伸が2037年の予定となっている。これに合わせて、南北線延伸も2037年開業をめざしてほしい。