阪急電鉄は2日、宝塚本線の雲雀丘花屋敷~山本間にある平井車庫が今年で竣工50周年となることを受け、報道関係者向けに同車庫内を公開した。検査風景や車輪転削場の様子を見学し、車体洗浄も体験。めったに見られない施設や検査に釘付けとなった。

  • 阪急電鉄が平井車庫を報道公開。デビュー50周年のヘッドマークを掲げた5100系も公開された

平井車庫は1971(昭和46)年11月8日に竣工。阪急電鉄で唯一の全面高架式車庫である。敷地面積は6万627平方メートル、最大収容能力は372両にもなり、宝塚本線・箕面線の車両だけでなく、能勢電鉄の車両検査も引き受けている。宝塚本線では、かつて池田駅に隣接して池田車庫があったが、車両の大型化と列車の長編成化で手狭になったことから平井車庫が建設されることになり、池田車庫は1970年に廃止された。

平井車庫での報道公開は、日常的な検査を行う検査場からスタート。パンタグラフや運転台、扉の開閉などの日常的検査が行われる。阪急電鉄は外観検査を10日ごと、パンタグラフの直接検査や扉開閉、空調などの検査を20日ごとに実施。検査の際、作業員がパンタグラフに直接触れ、動作を確認するとともに、通電部のすり板の摩耗具合をチェックしていた。すり板が摩耗している場合はそのつど、取り換えるしくみになっている。

  • 平井車庫では能勢電鉄の車両も見られる

  • 検査場で検査を受ける9000系

阪急電鉄では、車両の状態および機能を検査する状態機能検査を3カ月を超えない期間ごとに実施。重要部検査については、VVVF制御以外の車両は正雀工場で検査するという。

台車関連の検査では、ブレーキシューの交換を見学できた。阪急電鉄の車両はブレーキシューと呼ばれる板を車輪に押し付け、車両を止めるしくみになっている。ブレーキシューも摩耗品となり、厚みが半分以下になると交換する。阪急電鉄のブレーキシューは合成樹脂でつくられ、モーター車や付随車、形式によって使用するブレーキシューは異なる。

  • パンタグラフの検査を行う。すり板は消耗品のため、摩耗したら交換する

  • 左が摩耗したブレーキシュー、右が新しいブレーキシュー

  • 摩耗したブレーキシューを交換する

平井車庫には、阪急電鉄の車庫で唯一、カント付きの線路がある。鉄道においては、車両がカーブをスムーズに曲がれるように、2つの線路に高低差をつける。この高低差は「カント」と呼ばれ、阪急電鉄に限らず他の鉄道事業者でも採用されている。

カント付き線路の使用目的は検査ではなく、事故対応の訓練だ。阪急電鉄では、作成された数々の事故シナリオにもとづき、車庫内で実際に車両を脱線させた上で、ジャッキを用いて車両を持ち上げるなどの訓練を実施している。カント付き線路はカーブ上で脱線した際の訓練に使用され、一連の訓練で培われた技術により、スムーズな事故復旧を可能にしている。

  • 平井車庫には阪急電鉄の車庫で唯一となるカント付きの線路がある。車両が少し右に傾いている

  • スムーズな乗り心地を実現する車輪転削機

  • 車輪転削機で出た切り粉

心地よい乗り心地に欠かせない機械である車輪転削盤は、車輪の頭面を削り、凹凸を平面に整える。車輪の直径が基準値以下になれば取り換えるしくみになっている。車輪の転削は1年に1回が基本だが、乗務員からの要望に応じて車輪の検査が行われることもあるという。

最後は阪急独特のマルーン色の車体を保つ洗車の様子が公開された。平井車庫では、珍しく車体清浄機が2つ設置されている。車体清浄は週1回を基本としつつ、降雨後に車体の汚れが目立った場合も実施する。実際に乗車し、車体清浄を体験することもできた。時速5キロで車体清浄機に入ると、大きなブラシが車体を包み、視界は薬品入りの水によって真っ白になった。前面や車内清掃は手作業になり、作業員が吊り革をていねいに拭いていた。

  • 薬品の入った水で車体が清浄される

  • 作業員がていねいに前面を磨く

  • 吊り革もひとつひとつていねいに拭く

  • ピカピカの状態で出場した5100系

  • 平井車庫では冬季対策として融雪器を設置している

  • 竣工50周年を迎えた平井車庫の全景

阪急電鉄は車両のメンテナンスに定評がある。平井車庫での報道公開を通じて、人の手によるきめ細かい検査やメンテナンスにより、高品質な車両が維持されていることを一利用者として実感できた。