真夏のピークが去って風に涼しさを感じるようになると、ヘッドホンが恋しい季節の到来である。そんなタイミングで登場する、ソニーの新しいワイヤレスヘッドホン「WH-XB910N」のレビューをお届けする。

  • WH-XB910N(ブルー)

ニュース記事でもすでにお伝えしているように、WH-XB910N(以下、XB910N)は重低音再生にこだわった「EXTRA BASS」シリーズに連なる製品だ。同シリーズには、2020年発売の完全ワイヤレスイヤホン「WF-XB700」のほかに、2019年発売のワイヤレスヘッドホン「WH-XB900N」や「WH-XB700」があり、ヘッドホンとしてはこの2機種以来、実に2年ぶりの新製品となる。

  • WH-XB910N(ブルー)の装着イメージ

XB910Nの発売日は10月8日で、価格はオープンプライス。店頭価格は26,400円前後を見込む。従来のXB900Nは2年前の機種なので、実売価格が2万円代前半まで下がっている店もある。とはいえ、XBシリーズのワイヤレスヘッドホンの購入を検討しているのであれば、値下がった旧製品に手を伸ばす前に新機種を試してみてからでも遅くはない。

XB900Nの後継機種ということで型番に大きな変化はなく、「新しくなったといっても、細かいブラッシュアップに留まるのでは?」と感じられるかもしれない。だが、実際に両機種を試してみると、「XB910N、これもう別モノじゃん!」と思ってしまうくらい、色々なところが進化している。

今回はXB910Nと、比較対象としてXB900Nの2台をお借りしている。重低音XBヘッドホンの新機種はどこが進化したのか、さっそく見ていこう。

  • WH-XB900N(左)とWH-XB910N(右)のブルー。後述するように、同じブルーでもXB910Nは色が明るくなってカジュアルな佇まいになった

大幅に強化されたノイキャン性能

XB910Nの進化ポイントのひとつが、大幅に強化されたノイズキャンセリング(NC)性能だ。「WH-1000XM4」など最上位1000Xシリーズで採用されている「デュアルノイズセンサーテクノロジー」を投入しており、フィードフォワードマイク×2、フィードバックマイク×2でノイズを集音して抑え込む“デュアルNC”になっている。

試しに自宅でエアコンをフルパワー稼働させ、1〜2mほど離れた距離に座ってみたが、NCオンにすると空調ノイズはまったく聞こえなくなった。先代XB900Nはフィードフォワードマイク2基の“シングルNC”でそこまで強くなく、同じ状況ではまだ空調ノイズが聞こえてしまうため、NCに関してはXB910Nのほうに軍配が上がる。1000Xシリーズにも見劣りしないNC性能を備えていると言っても過言ではない。

XB910Nではヘッドホンをつけたまま外の音を聞ける外音取り込み機能も強化しており、こちらも“マイクで取り込んだ音を聴いている”感じが抑えられてより自然になった印象だ。ソニーならではのクイックアテンション機能は先代から継承しており、右ハウジングを手のひらでおおい続けると再生音量が自動で下がり、外の音を取り込んでくれる。ヘッドホンをつけたままでも駅構内や電車などのアナウンスを聴けて便利だ。

  • クイックアテンション機能の利用イメージ

さらに、「Sony|Headphones Connect」アプリとの連携による「アダプティブサウンドコントロール」機能を活用すれば、今いる場所や歩行中、乗り物で移動中といったユーザーの行動にあわせてNC/外音取り込みのレベルを自動で細かく調整してくれる。ユーザーの行動判断はスマホの内蔵センサーに依存するところが大きいが、ソニーのヘッドホンならではの便利機能なのでぜひ活用したい。

  • Sony|Headphones Connectアプリと連携すると「アダプティブサウンドコントロール」が利用できる。歩いているときは外の音をほどほどに取り込み、クルマや自転車などが近くに走ってきてもエンジン音などがちゃんと聞こえる

  • 乗り物に乗っているときはNCの強さを最大にしてくれる。ただしバスなど一時停止が多い交通機関だと自動切り替えがあまり上手くいかないので、アダプティブサウンドコントロール任せではなく手動でNC最大にしてしまった方が早い

  • アダプティブサウンドコントロールの設定画面。スマホ側の位置情報を活用し、自宅や職場などよく行く場所ごとにNC/外音取り込みのレベルを自動で切り替えるように設定することもできる

迫力の重低音が楽しめるEXTRA BASSサウンドはもちろん健在。密閉型ハウジングに40mm径ダイナミック型ドライバーを搭載する点は変わらず、「流石のXBサウンド」のひと言に尽きるが、サウンドの傾向は先代からやや変わっている。

ハイレゾ相当のワイヤレス再生が楽しめるBluetoothコーデック「LDAC」対応や、音楽ストリーミングサービスなどの圧縮音源をCD音質相当まで補完する「DSEE」機能も引き続き搭載。試聴したインプレッションは後述する。

このほか、今回は試せていないが、独自の立体音響技術を活用した音楽体験「360 Reality Audio」認定モデルになっている点は両機種に共通する。

テレワークやオンライン学習などで使われる通話機能も強化されている。XB910Nのフィードフォワードマイクと、口元に搭載した通話専用マイクを使って高精度なボイスピックアップを追求しており、実際にオンライン会議で使ってみたが、問題なく音声をクリアに届けられていたようだ。

PCやスマートフォンなど、2台の機器と同時に接続するマルチポイント接続には先代から引き続き対応するが、XB910Nでは2台の機器のどちらでも通話に出たり、音楽を流したりできるように強化されている(XB900NではPCが音楽再生専用、スマホは着信専用といったかたちで役割分担していた)。なお、マルチポイント接続時はコーデックがSBC/AACに制限され、LDACは使えない。

  • マルチポイント接続でXperiaとノートPCに同時接続したところ。Headphones Connectアプリにデバイス名が表示される

  • 2台に同時接続するときには画像のような確認画面が表示される

スマート&シンプルなデザイン。バッテリーライフが大幅UP

外観も見ていこう。最上位1000Xシリーズの大人っぽいスマートなデザインを引き継いだ先代XB900Nと基本的に大きな変化はないが、目につくのがヘッドバンドとハウジングをつなぐアームの接続部のあしらいだ。ハウジングを平らにしてコンパクトにできるスイーベル機構をどちらも備えているが、XB910Nは折りたたんだときに継ぎ目が目立たないよう、シンプルな丸っこいデザインに変わった。

  • ヘッドホンを折りたたんだときに継ぎ目が目立たないよう、シンプルな丸っこいデザインをアームの接続部に採用した

  • WH-XB910N(上)と従来のWH-XB900N(下)を並べてみると、ヘッドバンドのあしらいの違いがよく分かる

カラーはブラックとブルーの2色で、ブルーの色味は先代より明るくなった。今回は先代/新機種共にブルーをお借りしているのだが、並べてみるとその違いは一目瞭然。梨地仕上げのような手触りだが、XB910Nは先代とは異なって光沢感というかツヤっぽさも加わり、カジュアルな雰囲気になっているのが分かるだろうか。また、隠れたポイントではあるが、ハウジング側面のスリットもシンプルな形状に変更されている。スマートな雰囲気の中にもXBシリーズらしいやんちゃさを秘めていたXB900Nが、XB910Nではより大人しい雰囲気に変わった感じがする。

  • ハウジング側面のスリット。WH-XB910N(右)では、従来のWH-XB900N(左)よりもシンプルな形状になった

完全ワイヤレスWF-XB700ユーザーとしては、先代のマットな雰囲気のほうが愛用しているXB700と似ていて好ましく、この変化をどう受け止めれば良いか正直悩ましい。もっとも、爆音上等と言わんばかりの“タイヤヘッドホン”(MDR-XB1000)など、かつてのゴツいXBシリーズからはずいぶんデザインの仕方が変わっており、この程度はささいな悩みではあるが……。

  • WH-XB910N(右)のイヤーパッドは継ぎ目のないなめらかな仕上がりになり、各部の色味も変更されている

  • ヘッドバンドの伸縮部のデザインも変わった。従来のWH-XB900N(左)は金属のバンドが見えるが、WH-XB910N(右)ではプラスチックパーツに覆われているようでむき出しにはなっていない

右ハウジングに触れて音楽再生などの操作が行えるタッチセンサーは引き続き搭載。左ハウジングには電源ボタンと「NC/AMB(ノイズキャンセリング/外音取り込み)」ボタンの2つを備え、指で探り当てて押しやすい大きさになった。

先代は外音コントロールや音声アシスタント(GoogleアシスタントもしくはAmazon Alexa)を呼び出すためのカスタムボタンがあったのだが、XB910NではここがNC/AMBボタンに置き換わっている。なお、XB910NもGoogleアシスタントもしくはAmazon Alexaが利用できるが、声(ウェイクワード)で呼び出せるのはAlexaだけとなる。

  • 左ハウジングを見ると、WH-XB910N(上)のほうがボタンが大きく、指で押しやすい。下は従来のWH-XB900N

  • WH-XB910NはAmazon Alexaを声(ウェイクワード)で呼び出せる

バッテリー性能はNCオン時が最大30時間で先代と変わらないが、NCオフ時の連続再生時間が50時間と大幅に伸びた(XB900Nは35時間)。急速充電機能も強化され、10分の充電で4.5時間再生できるようになっている(XB900Nは10分充電で60分再生可能)。

XB910Nで朝から晩まで1日以上音楽を聴いてみても、バッテリー残量は半分以上残っており、ヘッドホンの電源が切れたのはひと晩鳴らし続けて翌朝になってからだった。なお、万が一バッテリーが尽きてもオーディオケーブル(長さ約1.2m)による有線接続にも対応するので、付属のケースにケーブル(と、スマホ側にヘッドホンジャックがない場合は別売の変換アダプター)を入れておけば、外で音楽が聴けない心配はなくなる。

  • 充電用のUSB-C端子や有線接続用の3.5mmミニジャックなども左ハウジングに備える

パッケージも見ていこう。XB910Nではプラスチックを全廃して紙素材のものを採用し、サステナビリティに配慮している。プラ製トレーがなくなったことで、パッケージ全体の厚みも減って薄くなった。付属品については、WH-1000XM4のようにカッチリしたキャリングケースが付いてくるのがうれしい。先代は巾着袋のようなポーチだったが、プラ製の梱包トレーを廃止する代わりに硬質なケースに収めることにしたようで、荷物でいっぱいのカバンでも安心して入れられる。メーカー・購入者どちらにもメリットがあって好印象だ。

  • 紙素材のみのパッケージを採用。右下は付属のキャリングケース

  • 従来のWH-XB900N(左)は巾着袋のようなポーチだった。WH-XB910N(右)はケースが硬く丈夫で安心感がある

  • WH-XB910Nの外箱。WH-XB900N(下)にはあったプラマークがなくなり、紙マークだけになっている(赤枠の場所)

パワフルな重低音サウンドがイイ。LDACで真価を発揮

実機のサウンドをiPhone 12 miniと組み合わせて確かめてみた。いずれも基本的には音量を半分程度とし、NC/外音取り込みオフ、DSEEオン、イコライザーなしに設定。音楽ストリーミングサービス「mora qualitas」で配信されている楽曲や手持ちのFLAC音源を聴いた。

  • WH-XB910NとiPhone 12 miniとを組み合わせて実機のサウンドを確かめた

実際に聴くと、同じEXTRA BASSシリーズのワイヤレスヘッドホンながらも、サウンドの味付けが先代XB900Nとはやや異なる。先代が低域を強化しつつも中高域では開放感を感じられたのに対し、XB910Nは徹底して“ブ厚い低音の迫力”に重きを置いたサウンドになっている。

  • Headphones Connectアプリ(iOS版)のメイン画面。ヘッドホンのカラーリングにあわせてアプリの背景色が変化する。右上にはヘッドホンの電源をオフにするボタンもある

  • WH-XB900Nは旧機種のためか、Headphones Connectアプリのカラーリングに変化がなかった

アヴィーチー「Wake Me Up」やブルーノ・マーズ「24K Magic」といった躍動感ある楽曲とXBサウンドの相性はバツグンで、XB910Nの音の深みをたっぷりと味わえる。といっても、決して中高域がパワフルな低域に埋もれてしまうわけではなく、クリアなボーカルも楽しめるのがイマドキのXBシリーズならでは。ジャズやロック、アニメソングなど幅広く聴いてみても、低音楽器のパワフルな表現が先代よりも好ましく、自然とテンションが上がる。

一方で、Official髭男dismのライブ音源「イエスタデイ(ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -)」や、ピアノと幾田りらのボーカルで始まる「Answer」のように、音が空間に広がっていく感じも楽しみたい楽曲の表現力などはXB900Nに譲る部分がある。このへんは好みにもよるが、Headphones Connectアプリでイコライザーを「Bright」にすると、XB910Nでも開放感ある明るめのサウンドに変えられた。

ここまではAACコーデックで聴いたインプレッションだが、LDACコーデック対応のXB910Nが真価を発揮するのは、やはりLDAC対応のAndroidスマートフォンと組み合わせたときだろう。

ということで、続いてXperia 5とペアリングしたXB910Nのサウンドも確かめた。SBCやAACで聴いたときよりも、細かい音のニュアンスが分かりやすくなり、ロックや打ち込み系楽曲を聴いてみても低音のキレが向上。全体的に素直で明るいサウンドになる。

  • Xperia 5とWH-XB910Nを組み合わせたところ

筆者がXB910Nで色々聴いてみた中では、女性ボーカルのスピード感ある楽曲が特にマッチするように感じられた。Perfume「edge(⊿-mix)」では3人の歌声を下支えするように低域がうねり、XB910Nだとそのリズムが“やりすぎ”なくらいズンズン出てくるが、それもまたXBヘッドホンならではの魅力といえる。

また、ClariSのアリスが在籍していた頃の楽曲「コネクト」、「reunion」や、新メンバー・カレンが加入して以降の最新楽曲となる「ケアレス」、「Bye-bye Butterfly」もXB910Nのサウンドの傾向によく合う。ソニーのヘッドホンはグループ会社であるアニプレックスのアニメ作品とコラボすることが多く、個人的にはXB910Nのブルーを「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」の七海やちよコラボモデルとして出して欲しいくらいだ(過去にはh.earシリーズのヘッドホンが同作のメインヒロイン・環いろはコラボモデルとして販売されていた)。

  • WH-XB910N(ブルー)の“マギレコ 七海やちよコラボモデル”が欲しい……(左はかつて販売されていた、h.earシリーズの環いろはコラボヘッドホン。ついでに見た目はアクリルキーホルダーだが、楽天Edyで支払えるソニー製「推し払いキーホルダー」のまどか&ほむらにもご参集いただいた)

XB910Nの再生周波数帯域は7Hz〜25kHzなので、ハイレゾ対応ヘッドホンではない。あくまでも「LDAC対応機器と組み合わせたときに、ハイレゾ相当のサウンドが楽しめる」という仕様だ。ハイレゾに関しては色々考え方もあろうかと思われるが、LDACに関して言えばスマホなどの再生機器からヘッドホンに伝送される情報量が増える分、SBCなどのコーデックよりもダイナミックレンジや解像感が向上するといったメリットがあるので、積極的に使っていきたい。

音質面に関連してあえて残念なポイントに触れるならば、先代でサポートしていたaptX/aptX HDコーデックが、XB910Nでは省かれて非対応となったところだろうか。WH-1000XM4が登場したときにも「なぜaptX系のコーデックを省くのか」と一部で指摘されていたように、ワイヤレスヘッドホンをaptX対応のスマートフォンやPCと組み合わせて使いたい向きにとっては製品選びの際のマイナスポイントとなるだろう。

筆者はLDAC対応スマホを持っているので、上記の仕様変更はそこまで気にならない。それよりも、XB910NのNCをオンにすると、低域がより前面に出てきてサウンドのバランスが若干変わってしまうほうがちょっと気になる。騒がしい電車など、外出先で聴く分にはそれでもいいのだが、静かな自宅では流石に低音が出すぎる感じがするので、アンビエントモードにして使ったほうがしっくりくる。

  • Headphones Connectアプリ Ver.8.2.0から新たに加わった新機能「アクティビティ」。ヘッドホンをどのくらい使っているかログを残して、使った頻度や機能に応じてバッジをコレクションできる

  • 「アクティビティ」機能でバッジを獲得したところ。今のところアプリ内の“お遊び”程度の機能だが、もらえるとちょっとうれしい

「XBサウンド」&「1000X系の使い勝手」の合わせ技、ヒットの予感

久々のXB新ヘッドホンを試すと、使い勝手がずいぶんWH-1000XM4と似てきたことを改めて実感する。1000XM4は大ヒットモデルではあるが、実売でほぼ4万円という高価格帯の製品でもあり、おいそれとは手が出ない……という人も少なくないだろう。その点、WH-XB910Nは2.6万円という比較的手の届きやすい値付けで、1000XM4とXB900Nのいいとこ取りをした仕様なので満足度が高く、WH-1000XM3の後釜的な存在としてヒットの予感がする。

見た目がスッキリとカジュアルになったので、普段使いにもちょうど良さそうだ。XB910Nはロゴや出っぱりがほとんどないので、シールなどを貼って自分好みにカスタマイズして楽しんでも良いかもしれない。これは筆者のたんなる思いつきではなく、h.earシリーズのヘッドホンで過去に行われていたことでもある(もっとも、XB910Nにシールを貼るのはソニーが推奨している行為でないことは念のため申し添えておく)。

XBシリーズは重低音サウンドに特化しているため、最初から苦手な楽曲のタイプやジャンルが存在するわけで、その点も踏まえたうえで選びたい。といっても、Headphones Connectアプリのイコライザーでサウンドを自在にカスタマイズできるので、低域をズンドコ鳴らすのはあまり好きではないという人にも、一度はXB910Nを聴いてみてほしい。