JR東日本東京支社は、6月27日のオンライン工場見学会を皮切りに、7月3日の田端運転所での電気機関車撮影会・所内見学会など、車両基地を舞台にしたイベントを約1カ月間にわたり開催してきた。その締めくくりとして、東京総合車両センターに在籍する事業用電車クモヤ143形の撮影会が7月31日に開催された。

  • 東京総合車両センターの下収容線でクモヤ143形を撮影

この日のイベントでは、車両センター内の会議室で注意事項や撮影可能範囲などの説明を行った後、参加者ら全員が安全ベストとヘルメットを着用し、スタッフに案内されて下収容線へ向かった。山手線の車両基地である東京総合車両センターの東エリアは2階建て構造で、普段、外から見えているのは2階部分。今回案内された下収容線は1階部分として扱われている。1階部分は地下のように見えることを思うと、上野駅の構造に似ているようにも感じられる。

用地内の階段を下りていき、薄暗い線路を歩いた先にある下収容線の1番線で、今回の主役であるクモヤ143形と対面。「クモヤ143-8」「クモヤ143-9」の2両を連結させた状態で展示されていた。スタッフが乗務員室に入り、機器の操作を行うと、向かって右側の前照灯が点灯し、パンタグラフが上昇。続いて室内が明るくなり、向かって左側の前照灯にも光が灯った。起動の瞬間、国鉄形の車両に乗っていれば聞き覚えのある音も反響し始めた。参加者たちもカメラを構え、車両に光が灯る瞬間を写真に収めていた。

  • 向かって右側から前照灯が点灯し、パンタグラフが上昇

その後、「クモヤ143-9」の車体前面を短距離・中距離・長距離の順に各位置で撮影し、車体側面にまわって各部を観察・撮影できるフリータイムがそれぞれ12分ずつ設けられた。ひと言に「前面を撮る」と言っても、立ち位置が違えば写真の雰囲気も異なる。参加者たちがそれぞれ場所を譲り合いながら、真正面や斜めなどさまざまな位置から撮影していた。

事業用電車クモヤ143形は、山手線・京浜東北線のATC化にともない、1977(昭和52)年から1980(昭和55)年にかけて21両が製造された。東京総合車両センターには「クモヤ143-8」「クモヤ143-9」の2両が現存している。ATS-P、ATS-Sn、ATCを搭載しており、構内の入換作業をはじめ、検査のための入出場、車両廃車時などの牽引で使用される。最近はこの車両の走る姿を見られる機会も少なくなったが、それでも今回のイベントで見た限り、いつ首都圏の路線に姿を現してもおかしくない雰囲気がある。

  • 「クモヤ143-9」の前面

  • 真正面から見たクモヤ143形。前面下部にタイフォン、床下にスカート(排障器)が備わる

  • 「試運転」「8944M」と表示されている

  • 車体前面の検査表記と、床下のATS車上子

フリータイムでは、「クモヤ143-9」から「クモヤ143-8」の先頭部分へ移動しながら、車体側面や床下機器など撮影できた。車体前面の窓下に黄色(黄色5号)の太帯があしらわれている以外、車体は全体的に濃い青色(青15号)を基調としている。日常的に利用する通勤形電車や特急形電車とは異なる外観、窓配置、ドアの幅なども印象的だ。

  • 「クモヤ143-9」の乗務員扉とドア回りの様子

  • 「クモヤ143-8」の側面

  • 近づいたり遠ざかったり、さまざまな位置から撮影。奥ではE235系の整備作業も

ちなみに、センター内では通常の作業も行われており、山手線のE235系が入換作業を行う様子や、作業員が車内を整備する様子も遠目から確認できた。クモヤ143形の撮影の合間に、作業中・入換中のE235系に目を向ける参加者もいたようだ。

最後は参加者ら全員、「クモヤ143-8」の後部側へ移動。パンタグラフが下がり、室内灯と前照灯・尾灯が消灯するところまで見届け、撮影は終了となった。

  • 「クモヤ143-8」の後部に移動し、ライトの消灯まで見届けた

撮影を終えた参加者たちは、最初に事前説明を受けた会議室に戻り、アンケートを記入して解散となった。解散前には、東京総合車両センターの社員がこの日のために制作した、クモヤ143形の「鉄印」が全員にプレゼントされた。

JR東日本東京支社の広報担当者によると、これまでのイベントで「鉄印」をプレゼントした際、E235系をかたどった「鉄印」を捺していたが、今回は「鉄印」もクモヤ143形デザインで統一したとのこと。

  • 当日の参加者全員にプレゼントされた、クモヤ143形の「鉄印」

「鉄印」だけではない。これまで約1カ月にわたり開催されてきた各イベントも、東京総合車両センターの社員が発案し、他部門の社員らも巻き込んだ上で開催に至ったという。東京総合車両センターでは、2019年夏に一般開放のイベントを行ったが、その後は新型コロナウイルス感染症の影響により、以前のような形式でのイベント開催ができなくなっていた。

現場の社員たちも、コロナ禍の中、「お客さまに楽しんでもらうにはどうすればよいか」と考えていた。その結果、人数制限を設け、参加費が必要になったものの、新型コロナウイルス感染症のリスクを極力回避した上で、各イベントが企画された。

7月31日に行われたクモヤ143形撮影会は、9~11時の第1回、12~14時の第2回、15~17時の第3回に分け、各回12名の募集人数を設けていた。「東京感動線×TABICA」特設ウェブサイトにて申込みを受け付けたが、7月3日の時点ですでに満員だったという。今回のイベントを通じ、楽しむ参加者たちの姿を現場の社員も見られたことと思う。広報担当者の話と、当日にもらった「鉄印」からも、今回のイベントに対する社員らの熱意を垣間見ることができた。

なお、当日の撮影会の様子はSNSにて、ハッシュタグ「#クモヤ撮影会」を付けて投稿されている。参加者が各々の目線で撮影したクモヤ143形の写真とともに、イベントに満足したことと、スタッフへの感謝の気持ちを綴った投稿も多く見られた。