投資や副業の情報が溢れる昨今、「得意なことや夢中になれることもない。だいたいこっちは毎日の仕事と生活を回すのもままならないんだよ!」と、漏らしたくなる人も少なくないだろう。投資にしろ、副業にしろ、原資となる時間やお金のゆとりが必要だ。

しかし、貯蓄なら学歴や職歴、人脈や小難しい金融リテラシーなどなくても、誰でもちょっとした意識や工夫で今日からできる可能性が高い。人生挽回するにはまず貯蓄である。今回は脱力系ミニマリストとして、シンプルな暮らしの楽しさを発信している森秋子氏に貯蓄のメソッドをうかがった。

  • ミニマリストの家計管理術とは?(イラスト 須山奈津希)

ミニマリストらしいシンプルなお金との付き合い方

「就職氷河期世代なので安定年収、年功序列、退職金、終身雇用の類は元からないものと思い、いまも暮らしています。入社3年で転職して29歳で専門学校に入ったり、夫も仕事をしながら大学に通ったり、けっこう収入のアップダウンもありますね」

森氏の3冊目となる著書『ミニマリスト、41歳で4000万円貯める―そのきっかけはシンプルに暮らすことでした。』では、そんなお金との付き合い方を紹介している。森氏がミニマリストになったのは10年ほど前。仕事や家事・育児に追われ、やってもやっても家が片付かない状況に絶望したことがきっかけだ。

「当時は子どもがまだ小さく怒ってばかりいて、夫ともうまくいかず、メンタル病み気味だったんです。そんな時に子どもから「ママ、大事」と言われたことがあって、私にとって本当に大事なものは何か、それ以外の無駄なモノは全て捨てようと思い、自分のモノをいろいろ手放していったんですね。家がスッキリと片付くことでストレスも減り、手元にお金も残るようになりました」

"暮らしのダウンサイジング"で、モノに振り回されないゆとりができ、日々の消費活動も変化。小さくシンプルな暮らしを基本とするミニマリスト生活は、想像以上に心と家計の安定につながったようだ。

「買うことは衝動でできますが、捨てることは面倒で意志が必要です。リサイクルに出したり、分解して分別したりしないと捨てられない。一回それを経験すると買い物も捨てる時のことを考えるようになって、無駄な衝動買いが減りました。なるべく余計な情報がない空間で、リストを作ってから買い物をするのがルールです。そこで思い浮かばなかったものは買わない。臨時収入など小さい暮らし以上のお金は全て先取り貯金し、冷静になるまで定期預金で休ませています」

  • ミニマリスト生活が心と家計の安定につながった(イラスト 須山奈津希)

世間で勧められていることの逆をやると、お金が貯まる

森氏の「ポイ活をしない」「夜に買い物をしない」といったルールにも、同様の考え方が色濃く反映されている。

「ポイントで得する金額が大きいのは確かですが、無駄なついつい買いをやめるほうが手っ取り早くお金が残ります。ミニマリストの生活は、高いところから自分を観察することがけっこう大切です。不安やストレスの吐き口で無駄な買い物が増えるとか、夜にネットで買いすぎちゃうとか、自分の傾向やポイントがわかれば、それを避けるだけで落ち着いて満足のいく買い物ができる。そうすると自分の幸せも安上がりで済みますよ」

断捨離が仏教の考え方に由来している話は有名だが、この何かと誘惑の多い現代社会で森氏は最近、「世間で勧められることの逆をやるとお金が貯まる」という境地に辿り着いたという。

「収入や貯蓄の状況、家庭環境など含めて、自分の消費行動が近頃はあらゆる場面で分析されていると思っていて。Webやスマホなど、あらゆるところで自分好みの商品の広告が張り巡らされています。でも逆に自分が全く興味のない情報に触れると、広告のない世界に行けるんです」

「例えば私は『家庭画報』という雑誌をよく読みます。なぜなら、そこに載っている商品はあまりにも高価で、自分の買えそうなものがなく、頭がリセットされるから。一度『家庭画報』で83万円のワンピースを見てしまったら、5万円のワンピースと3000円のワンピースを比較したところで、もう誤差の範囲っていう気がしてきますよね(笑)。その誤差の範囲の中で、より家計へのダメージが大きいものを選ぶのって、なんだかバカらしくなるというか……。50万円以下は全て一緒みたいな感じで、自分の家計に優しい方を選択しやすくなります」

では、逆に節約しないほうがいいアイテムはあるだろうか?

「私の場合は『歯磨き粉』ですね。40代になると周りで「歯が割れた」「インプラントにした」って、話が増えるんですけど、歯の治療費は普通の医療費より高いので、普段から良い歯磨き粉を使って健康を保ったほうが結果的に安上がりですよね」

「あと、もしハメを外して散財してしまったときはお風呂に入り、飽きるまで寝ること。結局、肉体的な回復で冷静な判断が戻ってくるし、体が疲れた状態で外に出ると、また散財をして家計を痛めてしまう。野生動物と一緒で、ダメージを受けたときは巣穴に戻りましょう」

そして、デジタル断捨離へ

森氏は家族に強制することなくミニマリスト生活を実践している。

「自分のモノを減らして、掃除に追われず快適に過ごしていると、家族も自然と真似したくなるみたいです。人間も群れで生活していますし、貯金の説得力もあり、夫や子どもにも伝染していきました」

生活費の負担だけではなく、家事の負担が減ったことで仕事への取り組み方が変わった点も、ミニマリスト生活でお金が貯まる要因としては大きいという。

「いまはモノが少ない"家事ラク"な家なので、仕事が忙しく多少家が散らかっても回復が早い。仕事に集中できる空間や時間が増え、新しい仕事などにもフットワーク軽く挑戦しやすくなったと感じます。大きな暮らしは維持するための労力が大きく、困ったときや新しいことに挑戦するときの足枷になるんですね」

そんな森氏だが、現在はブログの捨て活、デジタル断捨離に励んでいるとか。

「5年で1000記事くらい溜まっていたので、ステイホームのときに読み返しながら、3年分くらい消しました。気持ちが軽くなれて、モノを捨てるより気分がいいです。アクセス数が落ちるのかなと思い、なかなか踏み切れなかったんですけど、アクセス数もそれほど変わらず、今のところあまり体感できるようなデメリットはないです。写真を捨てることも躊躇う人が多いと思いますが、ベストショット以外は全て消しています」

モノを処分するときはもったいない気持ちが先立つものの、リサイクルショップやフリマアプリを活用するのも手間が掛かる。自社商品を回収する企業も増えているが、処分法の工夫はいろいろあるそうだ。

「服系は自治体の古布回収を活用するのがおすすめです。家電系はレンタルで済ませたり、親しい人で次の貰い手を探してから買うこともあります。私のブログ読者は95%くらいが女性で。男性読者も開拓したいんですが、男性は家の中が整っていなくても仕事ができればハッピーなところもあり、あまり家事で悩んでいない印象ですね。女性からすると、そこでなぜ自分が家事担当なのかって話もありますが、男女関係なくモノを減らせば、自分の仕事と趣味に割ける時間が生まれやすくなると思います」

耳の痛い話だが、パートナーから捨てられないよう、男性も森氏の著作を手に取ってみては。

森秋子/プロフィール

1979年生まれ。東京都在住。共働き主婦。夫、子どもの家族3人と猫2匹で50平米のマンション暮らし(ベランダに亀1匹)。子育てをきっかけに、時間と家事に追われる暮らしをやめたいと、ものを手放す生活を実践。無理せず貯金がどんどん貯まる生活にシフトする。その知恵と生活のヒントを『ミニマリストになりたい秋子のブログ』で発信、人気ブログに。2019年に国立国会図書館のインターネット資料収集保存事業(WARP)に保存されるブログのひとつとして選ばれる。著書に『使い果たす習慣』など(KADOKAWA)

『ミニマリスト、41歳で4000万円貯めるーそのきっかけはシンプルに暮らすことでした。』(森秋子著/KADOKAWA)
節約しない、我慢しない、シンプルに、ミニマルに暮らす。それだけで、自然とお金が貯まっていく! 著者は、都内で家族と暮らす、共働き主婦。お金も時間もなく、試行錯誤した経験から、ミニマルに暮らす心地よさに気づきました。「本当に好きなものだけ」に囲まれて暮らす幸せに気づけると、物はどんどん減り、暮らしは豊かになります。物を減らすコツ、シンプル簡単な日々の家計管理の工夫、避けては通れない、老後や子育て費用について……などミニマルに豊かに暮らすヒントをたっぷり紹介します。書籍の購入はこちらから