フジヤエービックが主催する「春のヘッドフォン祭 2021 ONLINE」が4月24日、YouTubeでライブ配信された。ここではアユートが取り扱うAstell&Kern、Acoustuneの新製品を取り上げる。
国内外からヘッドホンやイヤホンをはじめとする多数のポータブルオーディオのブランドが集結し、新製品発表や試聴体験会も行われる一大イベント「ヘッドフォン祭」。残念ながらコロナ禍のため、2021年春のリアルイベント開催も昨年に引き続き中止となったが、代わりに「春のヘッドフォン祭2021 ONLINE」が開催されることになった。
トップバッターのアユートの回には、同社の斎藤氏(S氏)が登場。Astell&Kernから4月23日に発表されたばかりの最新ハイレゾプレーヤー「A&futura SE180」が紹介された。また、Acoustune(アコースチューン)からは、現在開発中の新たなフラッグシップイヤホン「HS2000MX」のプロトタイプと、イヤホンジャックを付け替えられるモバイルユースDACアダプター「AS2000」が披露された。いずれもユーザーが好きな音を探して楽しめる、“パーツ交換可能”という共通点があるのが特徴だ。
Astell&Kern「SE180」(209,980円)は既報の通り、異なるオーディオ特性を持つ交換可能なDACモジュール(SEM1、SEM2)をユーザーが選んで付け替え、サウンドをカスタマイズできるようにしているのが大きな特徴。Astell&Kernでは、ESSと旭化成エレクトロニクス(AKM)のマルチDACを搭載したハイレゾプレーヤー「A&futura SE200」を2020年に発売しているが、新製品の「SE180」ではそのコンセプトを継承しつつ、DACモジュールの交換を可能にした。
着脱式というと万一の抜け落ちや接続不良が気になるところだが、SE180ではダブルロック機構を採用し、プレーヤー本体とDACモジュールの確実な装着を実現するという。SE180とSE200を並べてみると、縦の長さはSE180のほうがやや長く、DAC交換できる機構を備えるぶん、分厚くなっている。
SE180のデフォルトモジュール「SEM1」には、8ch DACのESS「ES9038PRO」をシングル構成で搭載。最大384kHz/32bitのPCM再生や、DSD 11.2MHzのネイティブ再生が可能だ。交換用モジュールとして用意される「SEM2」(49,980円)は、AKM「AK4497EQ」を左右独立のデュアル構成で搭載し、最大768kHz/32bitのPCM再生と、DSD 22.4MHzのネイティブ再生に対応する。両モジュールはヘッドホン出力として、3.5mm 3極アンバランスに加え、2.5mm 4極と4.4mm 5極のバランス接続端子を備える。
各モジュールには主要回路を一体化した独自の「TERATON ALPHA(テラトン・アルファ)」を組み込み、原音に近い再生を追求。次世代のアンプテクノロジーも採用し、出力を上げつつSN比は最高129dBを実現した(SEM1の場合。SEM2は最高で127dB)。いずれもノーマルゲインとハイゲインの切り替えが可能だ。再生時間は約10.5時間(FLAC 44.1kHz/16bit、ボリューム50、アンバランス出力、ノーマルゲインの場合)。
特別ゲストとして、多くの アニメソングなどを手掛けた音楽プロデューサーの佐藤純之介氏が登場。SE180を既に試用しており、サウンドのインプレッションについて「(標準の)SEM1はパワー感があり、すべての帯域でしっかり鳴らし切れていて、次々と音楽を聴きたくなる面白い音をしている」、「SEM2は(最近マスタリング現場などで増えてきている)AKMのDACを採用していて馴染みがある音、SNや立ち上がりの良さ、高い解像度のサウンドが楽しめる」とコメント。また、佐藤氏が現在手がけている、ソニーの立体音響体験「360 Reality Audio」のサウンドがSE180で楽しめるようになることにも期待を寄せた。
DACモジュールの差し替えについては、佐藤氏は「びっくりするくらいピッタリはまる」と安心した様子。このモジュールを同氏は「コアファイター」、一方のS氏は「パイルダーオン」と言い表すなど、早くもこの仕組みを気に入ったようだった。
デフォルトのSEM1、別売のSEM2だけでなく、次のモジュールの企画開発も進行中で「早ければ今冬、もしくは来春には、と考えている」(S氏)とのこと。また、今後より強力なDAC構成にするのか、よりハイゲインな出力にするのかなど、ユーザーの声も聞きながらさまざまな可能性を模索していく姿勢を示した。佐藤氏は「AKMデュアルDAC搭載でハイパワー出力なモジュール」、イベントのMCを務める野村ケンジ氏は「ラダーDAC・真空管を搭載したモジュール(長さや厚みが倍になっても良い)」を要望し、S氏を笑わせていた。
画面がフルHD対応になったことについては、佐藤氏は「(楽曲のアートワークが)HD解像度でとてもキレイに表示できる」と喜びを語った。「音楽は視覚情報とも常にリンクしている。(ジャケットが)キレイに表示できることで視覚的にも楽しめ、エンターテインメント性が高まったと思う」とのこと。
アユートS氏は他にも便利な機能として、SE180を“Bluetoothレシーバー”として使う新機能「BT Sink」を紹介。スマートフォンのサブスクアプリなどの楽曲を、SBC/AAC/LDACのいずれかのコーデックでSE180にワイヤレス伝送し、SE180側の高音質なDAC・アンプを通して聴けるというものだ。スマホの利便性を認めつつ、スマホにはないポータブルプレーヤーならではの魅力を活かして共存共栄を図りたい……といった日本サイドの姿勢がAKにも反映され、こういった新機能に結実したということだろう。
SE180では操作キーを、ボリュームノブ下に配置したマルチファンクションボタンに集約しているのも大きなポイント。完全ワイヤレスイヤホンでよくある操作体系で、押す回数によって再生/曲送り・戻しなどの操作が割り当てられており、“片手で手探りのときに操作しやすいほうがいい”というユーザーの声を反映したもののようだ。
AKの従来の製品にはなかった設計思想が採り入れられている点についてもS氏は言及。Astell&Kernはこれまでハイレゾプレーヤーを牽引するメーカーとしてスマホとは異なる進化、ブランドの特色を追求してきたが、近年は市場やユーザーの意見を反映し、4.4mmバランス端子をAKプレーヤーにも採用するといった柔軟性が生まれてきており、「より良いものを市場に出していくスタンス」に切り替わってきているそうだ。
Acoustune新イヤホン続報、8月中に発売へ
Acoustuneからは、同ブランドの新たなフラッグシップとなる、「HS2000MX」という仮称がつけられた有線イヤホンのワーキングサンプル(開発中モデル)第2弾が披露された。2020年の「秋のヘッドフォン祭ONLINE」で、S氏が飛び入り参加した際に初披露されたものが進化し、最初のプロトタイプで赤く色づけされていたフェイスプレートは少し青みがかった褐色に変わっていた(このカラーも確定ではない)。
HS2000MXの最大の特徴は、イヤホンのドライバーユニットを内蔵した音響チャンバーをユーザーが好きなものに交換できる点。Acoustuneカプセルテクノロジー「ACT規格」を採用しており、ネジを手回しで外すとフェイスプレートが開いて、内部に格納されたチャンバーを抜き取って交換できるようになっている。実際にネジを開け、チャンバーを取り出す様子を見ることができた。
2年半の開発期間をかけて開発したという、新たな「ミリンクス・コンポジットドライバー」をシングルで搭載。Acoustuneイヤホンの特徴である「最初の出音で掴む、インパクトのある音」から、「じっくり聞き込いて良さが分かる音」へと、サウンドチューニングの方向性を変えたそうだ。HS2000MX標準チャンバーの材質はジュラルミンだが、今後、別売で用意する交換用のチャンバーには真鍮やチタンといった別の材質のものが登場するようで、違うドライバーも積む模様。
ケーブルは着脱可能で、イヤホン側端子にはPentaconn Earを採用。付属のイヤーピースも新シリーズのものになるとのこと。
価格は税込20万を切るくらいで、8月中の発売を目指す。担当者によるとHS2000MXの完成度は既に7割まで達しているということで、野村ケンジ氏は「基礎体力、実力の高さが垣間見えるので完成が楽しみ。チャンバー交換もできて色々面白い、興味深い。明日でもいいから早く聴きたい」と興奮を抑えられない様子だった。今後の続報にも注目だ。