あなたの職場に、「話が通じない……」と感じる困った部下や上司はいませんか。そうした人と関わる際、「もしかしたらあの人は"共感障害"なのかもしれない」「少なくともあの人と自分との間には"共感障害"が起こっている」と考えると、あなたの悩みはきっと半減するに違いありません。

『共感障害~「話が通じない」の正体~』(新潮社)の著者で、感性リサーチ代表取締役の黒川伊保子さんより、今世の中に増えつつあるそんな人々との付き合い方について、脳機能の観点からアドバイスいただきましたので、2回に分けて紹介します。

  • 話が通じない部下に困っていませんか?(写真:マイナビニュース)

    話が通じない部下に困っていませんか?

共感障害の見分け方は「話聞いてる?」

あなたの周りに、こんな行動がしばしば見られる人はいませんか。

「挨拶を返さない」
「目を合わせすぎたり、合わせられなかったりする」
「人の話にうなずかない。またはうなずくタイミングがおかしい」
「一見同調しているようで、注意に対してはうなずかない」
「何かを依頼してもメモを取らない。かといって頭にも入っていない」

「日々の関わりの中で、『お前、話聞いてんの?』と何度となく言いたくなったら、その相手は共感障害を起こす人だと思った方がいいですね」と黒川さん。

黒川さん「共感障害は、絶対的にその人が起こしている場合もありますし、二人の関係性の間にだけ起こっている場合もあります。そんな人と付き合っていく際のポイントとして最も大事なのは、『こいつはダメなヤツだ』と捉えないことです」。

黒川さんによると、共感障害とは、「当たり前のことができない」「話が通じない」つまり、「人の所作が自分の所作に置き換えられない」という認識傾向を持つ人が起こす現象のこと。

視覚、聴覚などの五感で取り込んだ情報を脳内で適切に処理する際に必要な「認識フレーム」をうまく作れなかったり、作動できなかったりする問題がある人=共感障害で、今、この共感障害が、世の中に急増していると言います。

黒川さん「昨今、発達障害が増えているといわれていますよね。一説には、発達障害というものが広く認識されることで、『増えたように見えるだけ』ともいわれていますが、人を雇用する立場の人からすると、明らかに増えているという実感もあるようです。

発達障害は脳の症状を現すものですが、一方で共感障害は、症状というよりも、結果起こっている事象、現象のこと。共感障害が起こるひとつの要因に発達障害があるのは事実ですが、例えば育ちが違う者同士、あるいは性別、立場が違う人たちの間でも、共感障害は現象として起こります」。

  • 感性リサーチ代表取締役の黒川伊保子さん

    感性リサーチ代表取締役の黒川伊保子さん

共感障害が増える理由

ところで、どうして今、共感障害が増えているのでしょうか。黒川さんは次のように話します。

黒川さん「原因究明はこれからです。ただ、気になるのは、今の若い世代が隙あらばSNSに意識を向けていること。たとえば、25年前に比べて、授乳中の母親と赤ちゃんのコミュニケーションの時間が減っているということはないでしょうか。授乳時間は、忙しいお母さんにとってはつかの間の『すき間時間』。ついSNSに夢中、なんてことになる気持ちは、本当によく分かります。

でも、赤ちゃんにとっては、表情コミュニケーションの絶好の機会を逃すことに。顔と顔を向け合いながら、微笑んだり、話しかけられたりすることで、赤ちゃんは、コミュニケーションの基礎を学んでいます。

例えば人間には、『人と会ったらウェルカムの表情や態度を示して挨拶する』という世界共通の概念がありますよね。こうした所作に伴う概念は、小脳発達臨界期の8歳までに、『周囲の人の振る舞い』に共鳴しながら自然に身に付けるものなのです。8歳までに人と十分なコミュニケーションを取らないと、その発達は弱くなる。8歳を超えると、そこから先、それを培うことは難しくなるのです」。

8歳までの子どもにとっての主たるコミュニケーションの相手は親。そして特に重要なのが母親とのやりとりだそう。

子どもは、生まれる前から「母親の表情の中」で育っています。お母さんが表情筋を動かせば、お腹の筋肉も動く。そんな、お母さんの表情に一番影響を受ける子どもが、8歳までに母親の表情を十分に見ないで育ってしまうと、子どもの感性が育たないのだと黒川さんは言います。

黒川さん「SNSの普及などで、母親とのコミュニケーションが不十分な中で育ってきてしまった人が増えている。そうした人たちが今、共感障害を起こしているのではないかと私は思います。

ただ、共感障害自体を、私は心配していません。古い因習にとらわれずに、新しいことを開拓するには、いくばくかの共感障害も必要なのです。多くの伝説のビジネスパーソンたちが共感障害を呈していました。

『授乳中、確かにSNS(あるいはゲーム)に夢中だった』『うちの子は共感障害かも……』と感じた読者の方も、後悔する必要はありません。しかし、空気を読むのが当たり前の日本社会の中で生きて行くのは、本人も周囲もストレスなので、少しの工夫が要ります」。

共感障害を起こしたまま成長し、社会人として働きはじめた子ども達。彼らが会社で起こす問題の根深さ、付き合い方はどうすれば良いのかを、次回紹介します。

取材協力:黒川伊保子(くろかわ・いほこ)

感性リサーチ 代表取締役
1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部理学科卒業。メーカーで人工知能(AI)の研究開発に従事した後、コンサルタント会社勤務、民間の研究所を経て、2003年 株式会社感性リサーチを設立、代表取締役に就任。2004年、脳機能論とAIの集大成による語感分析法『サブリミナル・インプレッション導出法』を発表。サービス開始と同時に化粧品、自動車、食品業界などの新商品名分析を相次いで受注し、感性分析の第一人者となる。現在は、テレビやラジオでも幅広く活躍。近著に『共感障害~「話が通じない」の正体~』(新潮社)、『妻のトリセツ』(講談社+α新書)、『女の機嫌の直し方』(インターナショナル新書)、『定年夫婦のトリセツ』(SB新書)など。