昨今の万年筆ブームは色とりどりの万年筆用インクを抜かしては語れません。特に若い女性たちが様々な色のインクを何瓶も買い集めて楽しんでいる様子(俗に言う「インク沼」)は、今の万年筆ブームの象徴と言ってもよいでしょう。

ふだんOLとして働く私の友人も、昨年から万年筆の虜になった女性のひとり。「kakuno(カクノ)」(PILOT)の透明ボディ発売をきっかけに万年筆ユーザーとなり、色彩雫やエルバンの気に入ったカラーインクを入れて楽しんでいるそうです。

「万年筆のインクって本当に様々な色があって、選ぶだけでも楽しい。瓶もかわいいし、透明軸の万年筆ならインクを入れたときの見た目もきれい」という彼女は、まだ黒やブルーブラックのようなスタンダードな色のインクは持っていないそう。まさに今の万年筆ブーム、カラーインクブームの特徴を表しています。

今回は彼女たちが夢中になる「万年筆用インク」について、あらためて基本をまとめてみました。

万年筆用インクの種類と特徴

万年筆用インクは大きく分類すると「染料インク」「顔料インク」「古典インク(没食子(もっしょくし)インク)」の3つに分けることができ、それぞれ性質が全く異なります。

  • 万年筆用インクの種類と特徴

●染料インク

最も一般的なインク。万年筆用インクの多くはこの染料インクです。色材に染料が使われていて、水に溶ける性質を持っています。扱いやすく、万年筆内部でのトラブルも起きにくい、初心者でも安心して使えるインクです。水に弱く、濡れると文字が読めなくなってしまうことも。また、光によって退色(色あせ)する恐れもあります。

●顔料インク

色材に水に溶けない性質を持つ顔料を使用したインク。顔料はとても細かな微粒子になっていて、耐光性、耐水性に優れています。また染料インクよりもはっきりとした筆跡となり、にじみにくく、裏抜けもしにくい性質です。一度固まってしまうと溶けにくく、万年筆内部で固まると最悪の場合、分解修理などが必要となります。

●古典インク(没食子(もっしょくし)インク)

染料インクに特殊な製法で鉄分と酸を加えたインク。紙に書くと次第にインクが酸化していき、文字が黒に近づいていきます。同時に耐水性、耐光性も増していくので、長期保存に適しています。

女性に人気のPILOT「iroshizuku-色彩雫」をはじめ、普及している万年筆用カラーインクのほとんどは染料インクです。染料インクは発色が良く、様々な色が作れます。

一方、これまでは黒やブルーしかなかった顔料インクも、近年ではセーラー万年筆の「STORiA(ストーリア)」などカラフルなものが登場しています。以前は目詰まりが心配されていましたが、超微粒子タイプも発売されており、毎日万年筆を使うこと、定期的に手入れをすることなどを徹底すればトラブルになることは少ないでしょう。

また、旧来はブルーブラックしかなかった古典インクも、プラチナ万年筆の「クラシックインク」などの登場で様々な色を楽しめるようになりました。最初は色鮮やかだった筆跡がだんだんと黒に近づいていく色の変化が楽しめます。

【筆者のひとこと】
手帳に水滴が付いたときに文字がにじむのがいやで、私は顔料インク(後述のカキモリのもの)を愛用しています! 古典インクは日記や手紙など、長くとっておきたいものにおすすめ。色の変化で時の流れも感じられます。

インクを楽しむなら断然「ボトルインク+コンバーター」

万年筆でカラフルなインクを楽しみたい場合、あらかじめインクが入ったカードリッジを使用する方法と、ボトルからコンバーターでインクを吸入して使用する方法があります。

●カートリッジ

最も手軽にインクが使える方法。プラスチック製のカートリッジ内にインクが入っていて、万年筆に装着するだけで使用できます。ただし、カートリッジとして販売されているインクの色には限りがあるため、色数のバリエーションは少なめ。PILOTであればブラック、ブルーブラック、レッド、ピンク、グリーンなど8色のカートリッジが市販されています。

●ボトルインク+コンバーター

好きな色のボトルインクと万年筆に適合するコンバーターさえあれば使うことができるので、使えるインクの色は無限大。様々なインクの色を楽しみたい場合はこちらがおすすめです。

【筆者のひとこと】
手持ちの万年筆にはどのコンバーターが適合するのかを間違えないよう注意してくださいね。インクボトルは形も各メーカーによって様々で、集めるのが楽しくなります。

インクの使い方の基本はこれだけ!

基本的に万年筆とインクは同じメーカーのものを使うのがおすすめ。万年筆がPILOT製ならインクもPILOT製を使いましょう、ということです。

ですが、使い方の基本をおさえていれば別のメーカーのインクを使ってもトラブルになる可能性はかなり低くなります。以下、インク使用の際の注意点をまとめました。

●インクを混ぜない

同じメーカーのインクでも、インク同士は絶対に混ぜてはいけません。化学変化が起こり、思わぬトラブルになることもあります。ただし混色OKのインクもあります(プラチナ万年筆「ミクサブルインク」など)。

●入れ替えるときはしっかり洗う

インクを別の色に入れ替えるときは、万年筆内部をしっかりとクリーニングしましょう。ペン先を水に入れて内部のインクを完全に溶かし出し、乾燥もしっかりと。

●毎日使う

使うことが一番のお手入れだとも言われる万年筆。内部でインクが固まってしまうなどのトラブルを防ぐためにも、インクを入れた万年筆はなるべく毎日使いましょう。

オリジナルカラーのインクを楽しむ

市販されているだけでも数え切れないほどの色数がある万年筆インクですが、もっとこだわりたい、もっと自分の好みの色が使いたい、という方にはオリジナルの色のインクがおすすめです。

 セーラー万年筆ではインクブレンダーの石丸治さんがお客さんのリクエストを聞きながらインクをブレンドしてくれる「インク工房」を定期的に開催。自分のイメージ通りの、世界にひとつしかないカラーインクを作ってもらえます。

また、蔵前の文具店「カキモリ」の姉妹店「インクスタンド」ではターナー色彩と共同で開発したオリジナルの顔料インクを調合して、好きな色のインクを作れます。自分でインクを少しずつ調合していく楽しさに、ついつい夢中になってしまうかも!

  • 参考画像(「インクスタンド」HPより)

自宅でじっくりとオリジナルの色のインクを作りたい場合は「ミクサブルインク」(プラチナ万年筆)でチャレンジしてみてくださいね。

【筆者のひとこと】
オリジナルの色のインクは特別感がありますし、微妙な色の好みを反映できるのでおすすめ。私は気に入った色合いのブルーブラックをインクスタンドで作って愛用しています。

インクの性質や使い方の基本を知ると、万年筆ライフがもっともっと楽しくなるはず。また、実際に自分で書いてみないと微妙な色合いがわからない場合もありますし、使う万年筆によってもインクの表情は変わってきます。ですので、気になったインクはどんどん試して、お気に入りを見つけてみてください。

さあ、一緒にインク沼の扉を開きましょう。

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まき(福島槙子)
文房具の魅力を発信するウェブマガジン「毎日、文房具。」副編集長。文具プランナーとして文房具の情報を発信。その人その人にぴったりの文房具を見つけるお手伝いや、日々の生活に役立つ文房具、主婦目線での文房具の使い方を提案しています。各種メディア・イベントへの出演やコラムの連載も多数。著書に『まいにちねこ文具』(P ヴァイン)。福島槙子公式ブログ