発表会場には新製品の試聴コーナーが用意され、Sound Reality seriesやLSシリーズの音を実際に確認することができた。そのうち、Bluetoothワイヤレスヘッドホンに新風を吹き込む革新性を持つ「ATH-DSR9BT」に注目、サウンドインプレッションを含め紹介したい。

ATH-DSR9BT。入力はBluetoothとUSBのデジタル2系統のみで、ステレオミニプラグなどアナログ入力端子は搭載されていない

Sound Realityシリーズのうち「ATH-DSR9BT」と「ATH-DSR7BT」の2モデルは、Bluetoothワイヤレス対応を前面に打ち出した。振動板やハウジングなど従来のヘッドホン開発におけるノウハウを引き継ぐ部分もあるが、BluetoothおよびUSBの入力段から最終出力段(ボイスコイルの働きで振動板を駆動する部分)までDA変換なしで伝える新技術「ピュア・デジタル・ドライブ」の採用により、信号伝送系を一新している。

ピュア・デジタル・ドライブでは、BluetoothまたはUSBから入力したデジタル信号をボイスコイルまでフルデジタルで伝送する

ピュア・デジタル・ドライブの概念図。一度もDA変換を行わずに振動板を駆動することがポイントだ

信号を振動板に伝える部分には、デジタル音声処理技術「Dnote」が採用されている。信号の疎密を振動板に伝えることで音を出すというDSDに近い発想を持つ技術だが、ボイスコイルで振動板を駆動する最終段の部分は、アナログ変換に相当するため独自性が要求される。オーディオテクニカは、2014年発表の「ATH-DN1000USB」でDnoteを世界で初めてヘッドホンに採用していることもあり、その使いこなしに関するノウハウを持つと考えられる。

それを反映した部分が「トゥルーモーション D/Aドライバー」と呼ばれる機構だ。昨年モデルの「ATH-A2000Z」にも採用している一体型ヨークやDLCコーティングを用いるなど、Dnoteとオーディオテクニカの音響に関するノウハウを融合している。まさに技術の妙が試される部分だ。

4芯撚り線構造の高純度7N-OFCショートボイスコイルにより、Dnoteの信号を振動板に伝える「トゥルーモーション D/Aドライバー」

その音だが、解像感の高さは一聴してわかるほど。スネアドラムの音の出始めと消え際がぼやけず濁らず、鮮明に描き出される。左右のセパレーションも良好、結果として広い音場と空気感の再現にも成功している。ボーカルの定位も鮮明で見通しがいい。

設置されていた試聴用プレーヤー(手に取れなかったが国内未発売機のスマートフォンか? )は「apt-X HD」に対応、ハウジング部を見るとLEDの明滅によりそれとわかる。その48kHz/24bitという情報量もしっかり反映されている音だ。

Bluetoothのコーデックは、SBCに加えAACとapt-X、apt-X HDをサポート。aptX HD接続時は48kHz/24bitという情報量を伝送できる

apt-X HD対応プレーヤーは現在のところ希少だが、発表会後にAstell&Kernが「AK380」「AK320」「AK300」「AK70」のファームウェアアップデートを開始、apt-X HDをサポートした。今後Android端末にapt-X HD採用機が増える見通しをあわせれば、時間が解決してくれる問題ともいえる。

試聴に使ったプレーヤーには「Qualcomm apt-X HD」の表示が

右のイヤーカップ下には3基のLEDがあり、apt-X HDで接続しているときには右端が薄紫で明滅する

今回はUSB接続による試聴はかなわなかったが、接続規格は標準的なUSB Audioとのこと、スマートフォンとの有線接続も視野に入る。そうなると最大96kHz/24bitのハイレゾ再生がポータブル環境で可能になるわけで、そこに期待するオーディオファンも多いだろう。オーディオテクニカとしては、パソコン接続以外を公式サポートする計画は現在のところないとのことだが、接続の成否に関する情報はユーザレベルで整理されていくはず。その意味でも"愉しみ"が多いヘッドホンといえそうだ。