ThinkPadを愛用するビジネスリーダーを迎え、彼らにとって“どんな存在なのか”を探ることで、ThinkPadがビジネスPCの代名詞的存在になっているワケを紐解いていこうという当企画『ビジネスリーダーに聞いた「私とThinkPad」』。
第4回は、千葉工業大学 先進工学部 未来ロボティクス学科の准教授、上田 隆一 氏に、ThinkPadへの想いを語っていただいた。確率ロボティクスの研究者であり、そして「シェル芸」という言葉を生み出したシェルプログラミングの愛好家としても知られる同氏が、ThinkPadを愛用している理由とは?
確率ロボティクスを学ぶ理由はロボカップ
──上田さんが確率ロボティクスの研究をはじめられたきっかけは?
もともとプログラミングには興味がありました。でも、やはりモノが動かないと面白くないので、4年生のときにロボットの研究室を志望したんです。そこでサッカーをするロボットを見て「すごく面白い!」と感じまして、自律移動型ロボットにサッカーをさせる競技会「ロボカップ」に参加するようになりました。ThinkPadと出会ったのもその頃です。
でも、その頃はまだ「自律型ロボットってどうやってプログラムしたらまともに動くんだろう?」とみんなが模索していた時代だったんですよ。なので、動かそうと思ったら自然に「まともにロボットを動かせたアルゴリズム」を勉強することになって、そこから確率ロボティクスの研究を始めました。当時は確率ロボティクスという名前もありませんでしたけどね。
……と言うとカッコいいですけど、実際は先輩がやっていたのを「面白いな、僕にもやらせて」って(笑)。ちょうどその先輩が卒業するときに研究を引き継いだ形です。
──ロボカップ時代のご経験などもぜひお聞きしたいです!
ロボカップの大会は国内外さまざまなところで行われていました。ThinkPadもプログラミングのために当然持っていきますが、当時はスマートフォンがなかったので通信機器としても常に携行していました。大会には世界中から研究者たちが集まってきていて、確率ロボティクスや人工知能研究の第一人者がラフな格好で学生に混ざって「キックオフはロボットをどこに置けばいいの?」とか、ああでもないこうでもないと楽しそうにやっているわけですよ。
そういう人たちと混ざって意見交換をしているうちに、ロボットの動かし方もわかってきました。スタートは遊びでしたが、そういう最先端に近いところに居場所ができたことはとても有難く、運がよかったです。遊びをバリバリやっているうちに研究者としても軌道に乗った感じです。
──確率ロボティクスの本を翻訳されたのもその頃ですね。
正確にはロボカップから引退して一段落ついた後でした。それから、笑い話なんですが、翻訳中に自転車で転んでしまって大けがをしたんですよ。伊豆のオフロードの施設に研究室の合宿で行ったのですが、みんなつまらなそうにしているので「俺がジャンプしてやる!」って小さな山があったので飛んだんです。そうしたら実は全然小さい山ではなくて、頭から墜落して、肋骨と眼窩底を骨折。2週間仕事をしなくてよくなったので、病院のベッドの上で骨折と打撲で発熱する顔面と体にむち打ち、ThinkPadを広げて翻訳をしました。ここでだいたい3分の1の翻訳が終わりましたね(笑)。
シェル芸勉強会を始めたきっかけとその中身
──上田さんはシェル芸勉強会を開催されていますが、シェル芸を生み出したきっかけは?
本の翻訳を終えた後、大学の助教の仕事をやめて知人からの紹介でUSP研究所に入りました。Linuxでシステムを作る会社で、当時8人しか社員がいませんでしたが、シェルスクリプトとコマンドを駆使してデータベースの高速な処理を実現しており、大企業からの一次受けの仕事を多く手掛けていました。そのコマンドの使い方が面白いので入社したら、社外広報活動のために同僚が作った「USP友の会」の会長に据えられたのがきっかけでしたね。最初はかなり受け身です。
この「USP友の会」のイベントとしてめずらしく自分が企画して行ったのが「シェル芸人養成勉強会」で、現在の「シェル芸勉強会」に繋がります。会社の技術の一部やLinuxのコマンドの機能をどうやって面白く伝えるか、ということを念頭に考案した勉強会です。"シェル芸"はここから切り出された単語ですね。
世の中的に「仕事には業務に特化した専用のツールを使おう」という風潮があって、だんだんコマンドを使わなくなってきていた時期です。でもコマンドには無限の組み合わせでなんでもできる柔軟さがあります。コマンドに触れる機会が減っているなかで、その魅力をしっかり伝えていきたかったのです。コンピュータは決まった仕事をする専業の人だけのものではありませんし。
──シェル芸勉強会ではどんな人たちが、どのようなことをされているのですか?
具体的には、3時間の間に6問~10問、コマンドを使って解く問題を出題して、参加者がひたすら解くという形式をとっています。参加者は10代から50代までさまざまです。ロボット系、情報系、バイオ系の人など、好奇心の強い人が集まっていて、大学生も参加しています。
シェル芸勉強会に出入りしている人たちや、Twitter上の「シェル芸bot」を使っている人たちがシェル芸界隈と呼ばれていますが、人によって勉強会との付き合いの濃さはまちまちで自由です。参加が強制にならないように、当日以外にこちらから手伝いを依頼しなくて済むよう、準備の少ない会にしています。
勉強会というものは、続けていると、だんだん義務みたいなものが発生してしまったり、勉強会よりも手伝いに意義を見出してしまう人が出てしまったりしがちです。そうならないよう、勉強会のテーマに興味のある人がなんの気兼ねもなく自由に休んだり参加したりできることを、仕組みレベルで担保するようにしています。
──シェル芸勉強会を開催するにあたってのこだわりがあればぜひ!
「シェル」という古いものを扱いつつも、「昔話をして、いまを批判するような馴れ合いの会にしない」ことです。勉強会での出題は常に攻めた難しいものを出題しています。この方針を立てたときは「初心者でも好奇心旺盛な人は来るし、楽しんでもらえる。」と考えましたし、実際に若い人がふらっと現れることが多く、年配の側もなぜかまったく先輩ぶらずに受け入れる雰囲気があります。
目論見から外れて馴れ合いが激しい(笑)のですが、好奇心旺盛な人たちのコミュニティになっているので、馴れ合いのなかから常に実験的な試みが行われており、たまに界隈の人がニュースになっていることもあります。なにか縛りのある組織にならず、シェルにすらこだわらない、ふわっとした情報交換の場になっているのはうれしいです。
──シェル芸はロボット研究でどのように活かされていますか?
「シェルでコマンドを叩く」のはOS操作の基本で、とくにロボットのようにハードウェアと接続する場合には常に必要です。企業によっては業務に関係のない操作をすることは好まれませんが、ロボットの場合は関係ない箇所がないですからね。ロボットを勉強している別の大学、研究室の学生さんにも「シェル・ワンライナー160本ノック」を買って勉強していただいているので、よく学生さんに「お買い上げありがとうございます。」と頭を下げています(笑)。
──大学の教員、企業、再び大学の教員というキャリアを歩んできた上田さんが、ビジネスパーソンが働くうえで大切だと考えていることはなんでしょうか?
「組織や業界のなかのKPIと一般社会が要望することは常にずれている」といつも考えて仕事をしています。
組織における適切な指標の設定は、プレイヤーをやるべきことに集中させ、社会や会社について考えなくても貢献できるようにすることです。しかし、いずれ意義が忘れられ、ほかのちょっと重要なことが無視されるようになり、逆効果になってしまうのは宿命です。さらに、その時点でプレイヤーの多くがその指標の信者になってしまっていると、暴走は止まらなくなります。
評価が世間からあまりにもずれると、たとえそこで評価されて偉いと言われても、外に出ると実は社会的に無意味だったとか、数値目標を追いすぎて逆に社会に批判されるようなことをしていたとか、そういうことが起こります。
私自身、USP研究所に入る直前は、「論文数」、「一流カンファレンス/論文誌」、「外部獲得資金」という言葉がよく耳に入ってきて、そこそこというかかなり頑張ってはいましたが、研究をやらされている感じになってしまって、モチベーションの維持に苦労していました。大学が悪いわけでは決してなく、押し付けられたこともありませんが、外からいろいろ横やりが入ってざわついていたんだと思います。そして扱っていたロボットが生産終了になって、自身のロボカップの活動も終わりました。
それから少し考えを変えて、「小さいことでも自分が社会に対して重要だと考えること、できることをする」ことを重視して、何をするか決めるようになりました。自身でKPIのようなものを決めるようにしたということです。
上田氏のスタイルは、在宅勤務用ThinkPad一台と持ち歩き用ThinkPad一台
──ThinkPadはどれぐらい使い続けているのですか?
大学4年のときに研究室に入ってからですから、もう20年以上になりますね。研究室で出会わなくとも、ロボカップでノートPCを壊し続けるうちに、おそらくThinkPadに落ち着いたと思います。
余談ですが、はじめて自分専有のPCを研究室で買っていいことになったときは、たまたま生協に置いてあった10周年モデルのThinkPad X30を買ってもらいました。あれは本当にカッコよかったです。それからThinkPad X200まで、毎年買い替えていました。今は在宅勤務用にThinkPad P1、それと持ち歩き用にThinkPad X1 Yogaを使っています。
──上田さんはThinkPadのどんなところに魅力を感じたのでしょうか?
なんといっても壊れないことですね。ロボカップでは非常に過酷な使い方をしていました。ロボットと一緒にThinkPadを持って動き回るので、よく壁にぶつけたり落としたりしました。立食パーティーでお皿を持つようにノートPCをつまんで持つことも多かったので、割れる心配もしなくてはなりませんでした。
試合前後は興奮するわ慌てるわで、一度全体重をかけて踏んでしまったこともありました。ThinkPadで計算をまわしたまま、熱が出ている状態でバックパックにしまい、満員電車で帰宅したこともありますし、頻繁に国内外への移動がありますので、飛行機の着陸などで衝撃も加わります。大阪に遠征中、お好み焼き屋さんの鉄板の角に置いてプログラミングしたこともありました。でも一度ヒビが入った以外、ThinkPadは無事でした。
──普段はどのようにThinkPadを操作していますか?
上記のような使い方をしているので、マウスは使いません。やっぱりトラックポイント、いわゆる赤ポチです。最近はタッチパッドも使うことがありますね。昔は世界中を飛び回っており、仕事場は飛行機の中やイベント会場の狭いパイプ机でしたから、ノートPC一台でなんでもやるのが標準でした。枕元に置いておいて、寝ながら作業することもありました。論文の図も全部トラックポイントで描いていましたし、今もそうです。PCは全部、LINUXとWindowsのデュアルブートにしています。
最近は在宅勤務が多く、メインはThinkPad P1です。妻も研究者で油断するとPCだらけになるので、自宅にはデスクトップPCは置いていません(笑)。手がThinkPadのキーボードに最適化されているので、研究室にいて計算用のデスクトップPCを使うときも、キーボードはThinkPadのものです。
スタイラスペンも使っています。学生から書類に署名を求められたとき、以前は印刷してサインしてスキャンして返信などをしていたのですが、今はThinkPad X1 Yogaのペンでサインしています。研究室には40人学生がいるので、一工程減るだけで大助かりです。
また、少し前からYouTubeに講義の動画をアップするようになったのですが、ThinkPad X1 Yogaのマイクの音が良くて、別途マイクを準備する必要がないので楽です。この動画は講義の動画ではありませんが、実際にX1 Yogaのマイクで拾った音とカメラの映像を編集しています。
机でP1を使って作業するときは、キーボード・マウス共有ソフトを使い、X1 Yogaを下の写真のように立てて,Windows機や資料閲覧用モニターとしています。
──お仕事をされるなかでThinkPadのここが便利!と感じる点は?
厚い本を書くと、一冊あたり文字を百万字弱打つことになります。便利と言っていいのか分かりませんが(笑)、キーボードが壊れないのが便利です。企業に勤めているときはほかのPCに浮気した時期があったのですが、大学に戻ってくるとキーを打つ量が半端なく多く、またThinkPadに戻ってきました。
部品を取り替えられるのも便利なところです。ThinkPadはストレージを交換できるので、常に大容量のものが必要になる自分の場合は相対的にコストがかかりません。いまはロボカップ時代のように乱暴に使いはしないし、さらに堅牢になっているので、むしろ交換時期が悩みです(笑)。しばらく前からディスプレイの比率が16:9から16:10になったのも非常にうれしいですね。
──では、ThinkPadに対する要望はありますか?
仕事用に購入するのはほぼハイエンドなので、スペックは気になりません。むしろ熱設計が気になりますね。処理速度は十分でも、ファンの音が動画撮影時のノイズになるんです。
それでも、最近のXシリーズは排熱が背面に抜けるようになったのでストレスが減りました。マウスを使わないので、横にチョコレート菓子を置いたりするんですが、横から熱が出ていた時は溶けてしまったことがあります(笑)。ノートPCのストレスと言えば熱がキーボードから伝わって手が熱く感じることなのですが、なにか手がヒンヤリ感じられる仕組みが考えられればよろしくお願いします!
上田氏にとってThinkPadとは?
──最近はどのような研究をされていますか?
本当は「すごいロボットのアルゴリズムを考えている」と答えたかったのですが、忙しいことを言い訳にちゃんと考えていなくて、今は「すごく簡単だけど確実にロボットの動きを作るアルゴリズム」の研究をしています。簡単なアルゴリズムなのですが、すごく計算時間がかかります。これを自身のプログラミングで限界まで速く計算できるようにして、なんとかロボットで使えるようにしようとしています。試すとCPUがフル稼働するので、ThinkPadが毎日熱くなっています。
また、現在は確率・統計の入門書のような本を書いています。「なぜロボットをいじる人は確率・統計を勉強したほうが良いのか」について例を交えて面白く書こうとがんばっていますので、ロボットに興味のある学生さんにぜひ読んでほしいと思っています。
──それでは、ズバリ、上田さんにとってThinkPadはどういう存在ですか?
表現に悩みましたが、「武士にとっての日本刀」ではないでしょうか。旅先でも枕元でもスッと抜いて戦闘態勢に入れる、私にとっての武器です。もしくは「自分にとっての工場」。自分の中にあるものを具現化できる、前頭葉の先にある何かかなと。
──本日は興味深いお話をいただき、まことにありがとうございました。
ThinkPad Pシリーズ
上田氏が愛用するThinkPad P シリーズは、レノボ® 公式オンラインショッピング、および法人専用ストア『LenovoPRO』(要会員登録 / 無料)にてお求めいただけます。
LenovoPRO
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