明治19（1886）年創立の共立女子職業学校を母体とし、140年の長きにわたり女性の自立と社会的地位向上、専門的知識・技能の習得に資する総合教育機関として発展してきた共立女子学園。現在は学校法人として大学院・大学・短期大学・高校・中学、そして幼稚園までを運営しており、一人ひとりが他者と協働して自分らしいリーダーシップを発揮する、全員発揮型のリーダーシップ教育を学園全体で展開している。同学園は近年、DX推進にも力を入れており、学校教育・研究や事務においてGoogle Workspaceを導入するなどデジタル活用を進めている。その共立女子学園が2024年度、生成AIの本格活用に向けたファーストステップとして「サテライトAI」を導入し、学校法人及び各学校の教職員が業務効率化に役立て始めている。

共立女子学園では2010年代前半からメールシステムとしてGmailを契約し、以降、教育・研究活動や情報発信、業務などさまざまな場面でGoogleのアプリケーションを利用してきた。2022年度にサテライトオフィスを介してGoogle Workspace for Education Plusを導入。また、Chrome Sign Builderによるデジタルサイネージを活用した情報発信にも着手するなど、デジタル技術を活かす新たな取り組みにも積極的だ。さらに2024年度からは、教職員・学生向けにChromeOS端末も採用している。 すでに教職員には広く使われているGoogle Workspaceだが、その特徴と運用について、法人事務部 情報システム課 情報システムグループでDX推進とGoogle関連の運用管理全般を担う小國氏、大澤氏が次のように語る。

  • 学校法人共立女子学園 法人事務部 情報システム課 情報システムグループ 小國氏

    学校法人共立女子学園 法人事務部 情報システム課 情報システムグループ 小國氏

「Google Workspaceはとにかく進化が早いということを日々強く感じています。半年前にできなかったことがどんどんできるようになり、しかもそれを私たち管理者側より早くユーザー側がキャッチし、いい使い方を見つけてくれて、DX推進の観点からも心強いツールです」（小國氏）

「管理者としては管理コンソールが使いやすく、何かトラブルがあった際もログを見て対処しやすいですし、ユーザー側から見ても業務効率化につながるアプリケーションが多く、実際に効率化や負担軽減が進んでいます」（大澤氏）

DX推進、そして業務効率化という観点から、同学園では2024年、切り札となり得る新たなソリューションとして、生成AIの導入を検討し始めた。

初めての生成AIとして、導入ハードルの低いソリューションを選定

ChatGPTが世の中でセンセーショナルな話題を呼び、生成AIブームを巻き起こし始めたのが2022年末から2023年にかけてのこと。当時から同学園では、効率化の手段として生成AIを教職員の業務に導入するべきではないか、という声が上がっていたと小國氏は振り返る。

「個人もしくは部署単位で生成AIを試す動きが出始めていました。その動きを見て情報システム課でも、部署単位での個別導入では管理が難しく、シャドーIT化する危険性があるという懸念を抱いていました。だからこそ、学園として公式に環境を用意すべきだと考え始めていました。ちょうどそのタイミングでサテライトAIを知る機会があったのです」（小國氏）

2024年8月に開催されたGoogle Cloud Next Tokyoのセッションで、ChatGPTやGoogle Gemini、Google Vertex AI、Microsoft Azure OpenAI、Claudeといった主要AIプラットフォームの機能を内包するサテライトオフィス独自の法人向けAIソリューション、サテライトAIと出会った。

「できることの多さと、価格面での優位性、設定をGoogleアカウントから行える導入のしやすさから、生成AIを初めて使う我々には、サテライトAIはハードルが低くていいのではないかと直感しました。すぐ課内に持ち帰って話をしたところ、Google Workspaceのライセンスをサテライトオフィスから購入していることもあり、詳しく話を聞くことになりました」（小國氏）

実際に検討を開始したのは2024年10月のこと。サテライトAIの採用を決定し、その後は12月いっぱいまでトライアルを実施した。トライアルではまず情報システム課員が試用した後、総合情報センター運営委員会の委員、各校のDX専門委員会の教職員に展開し、それぞれの業務にフィットする活用方法を検討してもらったという。同学園では生成AIに関して、事務局向けの展開は情報システム課の小國氏などDX推進担当者で検討していた。一方、各校での使い方については、大学・短大・中高・第二中高・幼稚園といった学校単位で「DX専門委員会」という組織を設置し、各委員会の担当教職員主導で情報システム課職員と話し合いながら、導入・活用方法を検討していくスタイルをとっている。

「学園として生成AIサービス導入は初めてのことであるため、学内への周知方法や教職員にどのように活用してもらうかは大きな検討課題でしたし、入力したデータが生成AIの学習に活用されないかなど不安な点もあったので、導入は慎重に進めています。そのうえで、それぞれの学校で学生・生徒の教育に直接携わっている各校の委員会の教職員が主体となり、展開や活用方法を検討してもらう形にしています」（小國氏）

  • ハンズオン体験会

    ハンズオン体験会

好評のフィードバックが集まり浸透度が深まる

トライアルに対する各DX専門委員会からのフィードバックとして、「プロンプトをどう入力すれば適切な答えを得られるのか」「テスト問題作成に使ってみたいが、その仕事に生成AIがマッチするか不安」「サテライトAIの何の機能を何の業務に使えばいいかわからない」といった声が上がったという。そのため情報システム課では、サテライトオフィス担当者による教職員向け生成AI説明会・ハンズオン体験会を開催。「これで理解が深まりました」と小國氏は振り返る。そして年が明け、2025年1月からの本格始動を迎えた。 そういった流れを経てサテライトAI活用がスタートしたわけだが、GoogleのGeminiとNotebookLMについても無償版および一部有償版を試験的に導入し、どのツールがどの部署の業務に合うかを検証しながら、活用を深めていっている段階とのことだ。

そもそもサテライトAIを選定した理由について、小國氏は「サテライトAIはチャットボット形式だけでなく、たとえば、サイドパネルなど多様なインターフェースで利用できるところが魅力的でした。本学のユーザーは生成AIを使ったことのない人がほとんどなので、プロンプトのテンプレートが数多く用意されているなど、簡単に使えるところも高く評価しています」と説明する。

小國氏のそうした読みがあたり、トライアル期間や体験会を経て、試用した教職員からは数々の好評の声が届いたという。

「機能のなかでは『議事録作成AI』がとりわけ好評で、もともとは議事録を手で作成していたところ、文字起こしから自動でできるようになったのがうれしいという声をよく聞きました。そのほか、メールの返信を瞬時に作成できるのが便利という声も聞きます。私としては、各種ドキュメントファイルをRAG学習させて質問できる『AIドキュメント』を見積書の比較などでよく使っています。それまで2時間かかっていた業務が30分程度で終わるようになりました。私自身、業務効率化の効果を感じていますし、同様に感じている教職員も多いのではないかと思います」（大澤氏）

  • 学校法人共立女子学園 法人事務部 情報システム課 情報システムグループ 大澤氏

    学校法人共立女子学園 法人事務部 情報システム課 情報システムグループ 大澤氏

年初の本格導入から半年ほどが経ち、浸透は着実に進んでいる様子。何と言っても業務効率化にもっとも寄与しているのは議事録作成AIで、会議はもちろん部署内で行うちょっとした打ち合わせの文字起こし・記録にも頻繁に利用されているとのこと。また、画像やPDFファイルのスキャンから文字を抽出する用途や、アンケート結果の分析、翻訳、アイデア出しなどで活用しているケースが見られるようだ。

「学生向けに作成した文章について、その文章を学生がどう受け止めるか回答してほしいと質問を投げ、文章確認の壁打ちのように使っている部署もあると聞きました。これこそまさに生成AIの強みを活かせる使い方だと感じています」（小國氏）

迅速・丁寧なサポートにも高い評価

運用管理の立場から情報システム課で気をつけているのは、とにかく安定的に稼働させることだという。 「トラブルの話が入ったときはすぐさまサテライトオフィスに連絡を入れ、対処をお願いして、とにかく教職員に少しでも多く活用する気になってもらうよう気を配っています。サテライトオフィスの担当者は本当にすぐ対応してくれますし、ユーザーの意見を反映した改良も迅速に行ってくれてありがたいですね」（大澤氏）

実は大澤氏は現在の部署に着任してからITを学びながら運用管理に取り組んできたようで、サテライトオフィスのスピーディーかつ丁寧なサポートは力になると高く評価する。 一方の小國氏は学生時代AからITに関心があり、情報システム課の業務にも興味があったとのこと。同課の前にいた部署でも図書館システムの運用を担当しており、「IT自体、好きですね」と話す。その小國氏が前部署時代に自主的に立ち上げた教職員向けコミュニティに、サテライトAIに関する意見や要望、使い方のTips、トラブル報告などを書き込める場を設置。研修会や勉強会に加えてこのコミュニティも、学園内でのサテライトAI活用の浸透には役立っているという。

今後については、生成AIを使う教職員向けにガイドラインを作成しようという動きがスタートしていると小國氏。また、現時点で生成AI利用は教職員のみで、学生には開放していないが、各校のDX専門委員会では学生・生徒の活用に向けた検討も始めているとのことで、ルール作りも含めこれから慎重に進めていくという。

試験的に並行導入し比較検証しているGeminiおよびNotebookLMとの併用・使い分けについても、今後検討していく予定。とりわけGeminiは、より高度な機能で複雑な業務への適用を期待できるGemini for Google Workspaceの導入検討をサテライトオフィス担当者も交えて進めている。それぞれのソリューションをどういった形で選択・導入するのが最適か、コスト面も含めて見極めていくのがこれからの課題になるようだ。

最後に、サテライトAIの導入を考える学校・教育機関向けに大澤氏が「サテライトAIは、生成AIを使ったことのない人でも取り組みやすいので、最初の生成AIサービスとしては最適だと思います。まずはスモールスタートで導入し、徐々に広げていって、サテライトAIをDX推進に役立ててほしいですね」と、貴重なアドバイスをくれた。

  • 左から、学校法人共立女子学園 法人事務部 情報システム課 情報システムグループ 大澤氏、小國氏

    左から、学校法人共立女子学園 法人事務部 情報システム課 情報システムグループ 大澤氏、小國氏

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