ビジネスに革新をもたらすことが期待されている生成AI。そこで多くの企業が自社の業務に生成AIの導入を試みているが、必ずしもうまくいっているわけではないのが実情だ。生成AI活用に成功している企業とそうでない企業にはどのような違いがあるのか。生成AIを使いこなすことで企業にはどんなイノベーションが起きるのか。

11月28日に開催されたオンラインセミナー「企業DXの新たなカタチ“戦略的AI活用”」に、早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授 入山 章栄 氏、ラキール 取締役 正西 康英氏が登壇し、講演を行った。また、対談セッションには日清食品ホールディングス 執行役員CIO グループ情報責任者 成田 敏博 氏、ディップ 執行役員 商品開発本部 本部長 進藤 圭 氏、ラキール 取締役 松本 英晴 氏が登壇。DXへの取り組みや生成AIのビジネス活用事例について語り合った。

生成AIで両利きの経営を加速させ、イノベーションを促進

まず登壇したのは早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授の入山 章栄 氏。生成AIの革新性について入山氏は、「知識・抽象化・表現」における能力が人間をはるかに上回っていると説明する。だからこそ、それらの領域は生成AIに任せて、人間はそれ以外に注力することが必要になるのだ。

ただし、生成AIは「あくまでも道具」だと入山氏は言う。本来は企業が達成を目指すビジョンや中長期の戦略が先にあり、それを実現するための生成AI活用であるはずだ。しかし、実際にはAIの導入自体が目的になってしまっているケースが散見されるのである。そのような状況では、生成AI活用はうまくいかない。

多くの企業で生成AI活用がうまくいかない理由はもうひとつある。それは「生成AIによるDXの基盤となるCX(コーポレートトランスフォーメーション)ができていない」(入山氏)ということ。ダイバーシティ経営を実現させるなら採用や評価制度も同時に見直す必要があるのと同様、生成AI活用を成功させるには会社全体を「AIを活用することを前提にした組織」に作り変えていく必要があるのだ。

では生成AIを導入できたとして、企業にはどのようなメリットがあるのか。この点について入山氏は「イノベーションを起こすために必要な“両利きの経営”とAIはとても相性がいい」ことを挙げる。

両利きの経営とは入山氏が提唱する経営理論。既存の知を組み合わせて新たなイノベーションを起こす「知の探索」と、既存の知をより深堀りして磨き上げる「知の深化」を両立する経営のことだ。企業活動はともすれば知の深化に偏りがちだ。なぜなら成功するかわからない知の探索に投資するよりも、既存事業を磨いたほうが短期的には確実に儲かるからだ。しかし、それでは中長期的なイノベーションが枯渇すると入山氏は指摘する。

「知の深化も重要ですが、同時に知の探索もやっていかないといけません。実はここにAIが役立つのです」(入山氏)

実は知の深化こそAIが最も得意とする領域だ。たとえば伝票の整理、労務管理、在庫管理などの既存業務の効率化は人間よりもAIに任せたほうが圧倒的に効率は上がる。つまり、AIを知の深化に活用することで社内の人的リソースを確保できるのだ。このリソースを知の探索にあてることで、イノベーションを促進するのである。

知の深化に関わる仕事は長期的にはAIに代替されていくと入山氏は予想する。一方で、知の探索は人間の仕事として残り続けるだろう。さらに人間にしかできない仕事はほかにもある。ひとつは責任をとること。AIは調査したり、情報をまとめたり、意見を出したりはできるが、最終的に判断し責任をとるのは人間である。

また、接客や営業といった「感情労働」もAIには置き換わらない仕事だ。労働力が減少する日本において、AIが得意な仕事はAIに任せ、人間は人間にしかできない仕事に注力することは必定だ。そうした時代の流れに乗り遅れないためにも、企業はなるべく早くからAIを導入し、活用することが重要である。

データ基盤の整備で、誰もが生成AIを活用できる環境に

続いて登壇したのは、企業のDXを支援するプロダクトサービスやプロフェッショナルサービスを提供するラキール取締役の正西 康英 氏。正西氏は、2003年に“直近1年以内にデータ活用に携わった方500名”に対して実施されたデータ活用の実態に関する調査結果を紹介した。この調査では、企業におけるデータ活用レベルを6段階に分類。約6割の企業が、課題解決のための数値や情報を追うところまでカバーできているものの、未来予測や施策考案の仕組み化まではできていないと分析する。

この壁を超えるために必要な要素は3つ。社内にあるデータを、IT部門を介することなく誰でも把握し扱えること。分析の専門家がいなくても考察したり課題特定したりできること。分析をやりっぱなしにするのではなく、改善を実行することでデータ活用の価値を経営層が理解することである。

これらを実現するのに重要となるのがデータ基盤の導入だ。ラキールはデータ統合基盤として、データレイク、データウェアハウス、データマートの3つの構造を持つ「LaKeel Data Insight」を提供。ユーザー部門が自らデータの抽出や加工、クレンジングを行える仕組みになっている。また、対話型AIを搭載したBIツール「LaKeel BI Concierge」も提供。チャットで質問して分析の深堀りができるなど、データ活用のエキスパートから初心者まで幅広く対応している。最終的には各種ツールへ自動連携し、分析結果をもとにしたアクションまで自動化できるのだ。

「ラキールが提供するソリューションにより、社内に点在するデータをひとつのシステムに蓄積し、必要に応じてユーザー自らが簡単に利用できるようになります。専門知識がなくても、AIの力を利用して自分たちが気づいていない課題すら導き出してくれる。まずトライして次のアクションを考える。そういったサイクルを実現できるのがラキールのデータ基盤です」(正西氏)

生成AIによるDXを実現した3社が語る、導入浸透のポイント

最後に日清食品ホールディングスCIO 成田 敏博 氏、ディップ 執行役員 進藤 圭 氏、ラキール 取締役 松本 英晴 氏による対談セッションが行われた。

今でこそ生成AI活用によるDXで知られる日清食品とディップだが、当初はせっかく導入したにもかかわらず利用率が伸びず苦労したという。そこで成田氏が取り組んだのがトップダウンとボトムアップの両方から浸透を図る手法。会社として明確に方針を打ち出し、スモールサクセス事例を積み重ねて横展開するというやり方を地道に続けた結果、少しずつ利用率も向上していったとのことだ。

一方、進藤氏は「使い方がわからないときに聞ける人がいないから普及しないのでは」という仮説を立て、全組織に生成AIアンバサダーを設置。さらにSlackと生成AIを連携させることで、日常的に生成AIを使う状況を作り出し、浸透に成功したのだという。

それに対してラキールは早期から生成AIがスムーズに浸透。特に若い世代やエンジニアは生成AIに抵抗感がなく、すんなりと受け入れられた。ただし、管理部門のように定型業務でやり方が固まっている組織はなかなか使用率が上がらない傾向があるとのことだ。

また、企業として気になるセキュリティ面については、「教育と運用の両面を強化することが大事」(松本氏)という。これに同意するのが進藤氏。ディップでは社内と社外で使うツールの入り口をしっかりと分けており、生成AIについても機密性の高い情報を扱う場合は別環境を使うなどの対策をとっているとのことだ。

最後にビジネスにおける生成AI活用に不安を持っている企業に向けて、成田氏からは「オーナーシップを持ってくれる協力者と一緒に、小さくてもいいので成功事例を作ることが必要」、進藤氏からは「まずはChatGPTを法人契約し、触ってみることが大事」、松本氏からは「トップからの強いメッセージとサポートが重要。習うより慣れろで使ってみてほしい」とのアドバイスがあった。

イノベーションを起こし、他社との競争に打ち勝つには生成AIの活用は急務。導入に不安を持っている企業は、今回の講演をぜひ参考にしてほしい。

関連リンク

株式会社ラキール
https://www.lakeel.com/

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