上越市は新潟県の南西部に位置し、平野部、山間部、海岸部に囲まれた自然の豊かな地域だ。約18万人が暮らしており、北陸自動車道、上信越自動車道、北陸新幹線といった陸路と、直江津港という重要港湾を持つ交通の要衝としても機能している。歴史的にも重要な役割を担ってきたこの市において、市政を受け持つ上越市役所はICTの利活用を行い、先進的な取り組みをしてきた。同市はこの度、Parallels RASを導入することで、さらにDXの推進を果たしたという。本稿では、担当者にこの取り込みについて伺った。

  • (写真)水澤弘光氏

    上越市 行政イノベーション課 課長 水澤 弘光 氏
    *所属と役職は取材時点

デジタル改革を市全体へ

─はじめに、ご所属の行政イノベーション課で担当されている業務について教えてください。

上越市の行政イノベーション課では、情報システムと行政改革に関する業務を担当しています。労働人口の減少が進む中であっても自治体運営を継続していくため、単に情報システムの導入だけではなく、行政サービスや内部事務の運用方法等も見直して効率化を図り、デジタル改革を市役所全体に行き渡らせることを狙って創設されました。

─上越市の自治体DXについて、具体的な取り組みを教えてください。

上越市では、ICTによる情報化基本方針と行政改革推進計画に基づいて、さまざまなデジタル化を進めています。なかでも、執務環境の見直しは、導入当時の喫緊の課題でした。そのため、今回お話しするリモートアクセス基盤などの導入には特に積極的に取り組んできました。

そのほか、仮想デスクトップ サービス、高速な無線LANの環境、さらに各個人のパソコンの入れ替え(これまでのデスクトップ パソコンから持ち運び可能なノート パソコンへ)などを通じて市役所の働き方の見直しを図っています。

  • (写真)上越市役所庁舎

    上越市役所庁舎

セキュリティと利便性向上が狙い

─Parallels RASを導入される以前はどのような課題をお持ちでしたか?

当時は新型コロナウイルス感染症の蔓延があり、それに伴って市役所の仕事の仕方も見直さなければなりませんでした。感染を避けるために、人々の暮らしが大きく変化したため、その新しい生活様式に合わせる必要があったのです。

市役所では、業務をパソコンで行うことは既に定着していました。しかし、デスクトップ パソコンが自席にあるという環境だったので、パソコンを持ち運ぶことはできず、会議や出張などの際には資料を紙に出力する必要もありました。

また、当時の市役所で職員の自席に設置していたデスクトップパソコンは、Web会議等に対応していなかったため、機会が増えていたWeb会議の際には、対応可能なパソコンを都度、借りに行くというような不自由さもありました。有線LANがメインだったので、人事異動や部署の移動の際にも敷設されていた配線をやり直す必要があり、多大な費用がかかっていたことも課題でした。

─それらの課題を解決するために、どのようなソリューションを求めていたのですか?

自治体の情報セキュリティの基本である3層分離の環境を維持しつつ、いかに利便性を上げるかというところを重視しました。具体的には、ノートパソコンを職員に配布し、画面転送によるリモートアクセスを用いて総合行政ネットワーク(以下、LGWAN)系にアクセスして、業務システムを使うという環境を整備しました。

これによって、ノート パソコンの利便性を維持しつつ、これまで通りLGWAN系の業務にも使うことができ、利便性とセキュリティを両立したシステムとなりました。まさにこれが、私たちが求めていた環境でした。

移行期にあっても柔軟に対応

─Parallels RASの導入を決定した経緯について教えてください。

令和2年度に、Parallels RASにより、情報系リモートアクセス基盤を導入し、ノート パソコンから自席のデスクトップ パソコンにアクセスするという仕組みを構築しました。

その後、システムを拡大していくにあたり、既存のPC環境と、新たに整備するリモートアクセス環境が混在するので、それぞれのセキュリティを維持しつつ、両方のシステムを並行稼働させていく必要がありました。

このような複雑な環境の中で、どのようなシステム構成が良いのか検討していた際、Parallels RASが候補のひとつとしてあがってきたのです。

─Parallels RASの導入を決定された理由をお教えください。

令和3年度からは、次代のシステムとしてVDIによる基盤整備を進めていましたが、これまでのリモートアクセス方式とVDI方式が混在するのが大きな課題でした。Parallels RASは、この混在環境の中でも、セキュリティと利便性を両立できる大変魅力的な製品だったのです。

他社製品も調べましたが、リモートアクセス方式、SBC方式、VDI方式のそれぞれが混在する中で、ひとつの製品で対応できるシステムは他にありませんでした。最終的に、この柔軟性が決定的なポイントになり、導入に至りました。

  • (写真)水澤弘光氏

─現在、Parallels RASを利用されている環境について教えてください。

令和2年度の導入開始時は、300ユーザーを対象としました。このときは、リモートアクセス方式で行っていましたが、その後VDI方式を追加で構築した環境で利用しています。

最終的には一般行政職や技術職などの正規職員全てを対象に、各自のパソコンのリースアップに合わせて順次導入を進めており、令和6年度には1,600ユーザー全てにこのシステムが行き渡ることになっています。

管理については、日常的な運用は市役所に常駐する委託SEが行っています。専門的な対応が必要な場合は、地元のベンダーである株式会社ジェーミックス様、またメーカーであるコーレルの皆様に対応していただいております。

─導入はスムーズでしたか?工夫された点などがありましたら教えてください。

段階的にシステム移行を図ってきたので、混在環境の中でどのように進めていくのかという点でいろいろと工夫を行いました。

特に私たちの環境で難しかったのは、人事異動の際にパソコンを持って移動するのではなく、席とパソコンが紐づいてしまっていた点です。例えば、これまでノート パソコンを使用していた人が、次の職場ではデスクトップ パソコンを使用することになるという可能性がありました。

一般的なVDIのシステムの場合、ユーザー単位でVDIを割り当てるので、私たちの環境でそれをやろうとしてもうまくいきません。しかし、Parallels RASは端末ごとにVDIを割り当てることができたので、システム移行は非常に円滑に進みました。

  • 図版

課題解決だけでなく人的意識の向上も実現

─Parallels RASの導入で、抱えていた課題は解決されましたか?

はい、解決したといえます。今回のシステム導入に伴って解決されたものとして、3つの側面があると考えています。ひとつは「タイムリーな情報共有・意思決定」、次に「オンラインでの業務遂行」、そして「場所を選ばない働き方の推進」です。

効果があったと実感した例として、鳥インフルエンザが市内で発生したときのことがあります。現地の対策本部を速やかに作らないといけない状況に置かれたのですが、その施設にはネットワーク環境がありませんでした。しかし、ノート パソコンとモバイル ルーター、さらにVDIやリモートアクセス基盤を使うことによって、わずか3時間でLGWAN接続系へのシステム環境を整えることができたのです。

もうひとつは、新型コロナウイルス感染症が蔓延したときの在宅勤務の推進です。濃厚接触者になっても、本人に症状がなければ勤務が可能な場合がありますが、そのような時に自宅のパソコンから安全にリモートアクセスして市役所のシステムを使うことができます。これにより、業務継続の体制を向上させることができました。

  • (写真)水澤弘光氏

─すばらしい成果ですね。他にも好影響はあったのでしょうか?

新しい環境は一見複雑そうに見えますが、職員からは「想像以上に端末の動作が速い」というような声も聞いています。

また、市議会が行われる際には、市の職員がノートパソコンを持ち込んで資料を閲覧するなど、市議会のデジタル化も進んでいます。同じように市役所のミーティングや幹部職との協議においても、職員らがノートパソコンを持ち込むようになったので、ペーパーレス化も進んでいます。

単なるシステム導入だけではなく、DX推進という点でも良い方向へ進んでいますし、市の職員のリテラシー向上といった意識の変革にもつながっていると思います。

─今後に向けた構想や計画、将来展望についてお聞かせください。

Parallels RASを中心としたシステム移行は、先ほども触れたように令和6年度にすべての移行が完了します。これまでの順調な推移をみて、新たな取り組みとして、市が運営している保育施設、保育園でも同様のシステムを導入しようという動きもあり、検討を進めているところです。

Parallels RASは、当市が進めるDXの推進に欠かせないツールとなっています。今後もコーレル様やジェーミックス様には積極的に関わっていただき、我々の後押しをしていただきたいと思っています。

─ありがとうございました。

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