JFEスチールグループの薄板建材事業の中核会社として、めっき鋼板、カラー鋼板、住宅屋根、システム鉄骨などの商品を展開するJFE鋼板。千葉と倉敷に製造所を持ち、基本的に設備は24時間365日稼働している。製造所のシステム部にとっては、システムの安定稼働が重要なミッションの1つだ。同社はどのように“止められない”生産管理システムの大規模移行プロジェクトを成功させたのだろうか。

24時間365日稼働のJFE鋼板、生産管理システムに求めた可用性

JFE鋼板は、千葉市の東日本製造所と、倉敷市の倉敷製造所の東西の製造所をベースに、高度な技術と最適なプロセスで高品質な鋼板製品を提供している。商品や製造所の特徴について、JFE鋼板 システム部 主任部員(部長補) 広瀬俊貞氏はこう説明する。

「当社は生活に密着した建材用の薄板亜鉛めっき鋼板やカラー鋼板などを製造販売しております。製造所は千葉と倉敷にあり、連続溶融亜鉛めっき設備や連続カラー塗装設備、リコイリング設備などを有しています。各ラインは24時間365日稼働を基本としており、各ラインの生産を司るのが生産管理システムです。システムの故障によるライン停止は事業へ直接的に影響しますので、システムの安定稼働が私たちシステム部の最も重要なミッションの1つとなります」(広瀬氏)

  • (写真)広瀬俊貞氏

    JFE鋼板株式会社 システム部 主任部員(部長補) 広瀬俊貞氏

JFE鋼板倉敷製造所では、めっき鋼板を最大月21,000トン、カラー鋼板を最大月9,000トン生産している。もしラインが1日でも停止すれば数千万円単位の損失が発生する。そのため、計画停止日以外は「システムを絶対に止めない運用」が求められる。このように事業運営と一体化したJFE鋼板の生産管理システムだが、システムの冗長性や可用性には課題があったという。

「2020年に、それまでホストコンピュータで稼働していた生産管理システムをJFEシステムズに開発を依頼して、オープン化を完了させました。UNIX(Solaris)、Oracle Database、VB.NETを使った新システムとして再構築したのですが、当時は、システムの冗長構成が十分ではなく、バックアップやBCP/DRなどを高い次元で実現できておりませんでした」(広瀬氏)

そこで取り組んだのが、Oracle DatabaseでRACを構成し可用性を高めつつ、倉敷と千葉の製造所間でデータの相互バックアップと障害発生時のDRを実現するプロジェクトだ。

新生産管理システムが稼働するも、冗長構成や災害対策に課題が残る

JFE鋼板の生産管理システムが抱えていた課題について、広瀬氏はこう説明する。

「オープン化に取り組む際に、DBMS(データベース管理システム)は信頼性や安定性の高さからOracle Databaseを選定し、COBOLネットワークデータベースから正規化・移行して稼働させました。Oracle DatabaseはStandard Editionのシングル構成で、本番機1台と、スタンバイ機1台を別建屋に配置し、1時間ごとにデータを同期して保護するという仕組みでした。バックアップは取っているものの、万一本番機に障害が発生した場合には、復旧に8時間ほどかかることが想定されていました。当初オープン化するにあたっては、倉敷と千葉に同様の構成のシステムを設置し、東西で相互バックアップする構想もあったのですが、脱ホストの取り組みが想定以上に手間がかかったこともあり、災害対策まで手が回りませんでした」(広瀬氏)

Oracle Databaseを採用した新生産管理システムは、カットオーバー後の修正や改善対応などを行い、6ヵ月ほどで安定性や信頼性を確保することができた。しかし、可用性やDRの仕組みが不十分であるという課題は、システム稼働後も残ってしまっていたという。

「数年前、生産管理システムではなく、周辺系サーバーで障害が発生し、生産ラインを長時間停止させてしまうトラブルが起こりました。そこで改めて生産管理システム本体についても、冗長構成やDRソリューションの導入を検討し始めました。ただ、DRソリューションの1つであるStandby Expressの販売も終了していた等、当社にとっての最適解は何なのかを探る日々が続きました」(広瀬氏)

Webサイトから問い合わせたベンダー会社で、Oracle Database SE RAC導入を決める

システムの冗長構成やDRを実現するための解決策を探すなか、広瀬氏は、システムサポートが運営する、データベースのお役立ち情報案内サイト「DBひとりでできるもん」に行きついた。

「サイト名のユニークさもありますが、書いてある内容の分かりやすさ、技術レベルの高さが印象的でした。その中でStandby Expressに代わるDRソリューションとしてのDbvisit Standbyや、Oracle RACの構成方法などがポイントを押さえながらわかりやすく解説されていました。実務の困りごとに寄り添った内容でとても信頼できる内容でしたので、すぐに連絡を取り、当社の抱える課題を正直に相談させていただくことにしました」(広瀬氏)

他ベンダーとの比較検討も重ねていくなかで、システムサポートでのOracle Database SE RAC導入を決めた時のことを振り返る。

「決め手になったのは、システムサポートがOracleに対して豊富な知識と経験を有していたことです。最初に相談に乗っていただいたとき、当社の課題を口頭で説明すると、すぐに内容を理解して、ストライクゾーンの解決策を提案してくれました。レスポンスのスピードも速く、私たちの規模や予算感に寄り添った提案でした。課題を的確に整理する知識やそれを技術で実現していこうとする姿勢に大変感謝しております」(広瀬氏)

担当したのは、テクニカルエヴァンジェリスト 江川健太氏だ。江川氏は、Solaris、Oracle SE、VB.NETというシステム構成とバックアップの体制からコストや移行プランを解説し、Dbvisit StandbyなどのDRソリューションを導入するのではなく、サーバーOSやデータベースのバージョンも勘案し「JFE鋼板に最適なSE RAC」プランを提案した。江川氏はこう振り返る。

「広瀬さんは、エンジニアらしく自社システムの強みや弱みを適切に把握したうえで、システムのゴールや将来構想も明確にお持ちでした。そのため、私たちができること、将来的なシステムの移行でできることなどを真摯に伝えるようにしました。それが結果として信頼につながったと考えています」(江川氏)

また、江川氏をはじめエンジニアの多くが最上位のOracle認定資格を保有していることもベンダー選定にあたっての決め手になったと、広瀬氏はシステムサポートの人材の豊富さを評価する。

最も苦労したのはデータ移行、トラブルを避けるため、課題の洗い出しを徹底

国際情勢を受けて半導体やハードウェア供給の不足もあり、実際のプロジェクトは2022年からのスタートとなった。プロジェクトは千葉と倉敷の両拠点で常時稼働するシステムをほぼ同じタイミングでSE RAC構成に移行するという、システムサポートにとってもこれまでほぼ例のないものとなった。プロジェクトで最も苦労したのは「止められない」システムのデータ移行を、いかに業務影響を与えることなく実施するかであった。

「千葉のシステムは、オープンシステムに移行する直前だったこともあり、システムの新規構築と同時にSE RAC構成を組むことができました。データが新規に作成されるということを踏まえ、まず千葉でSE RACを実現し、その手順を倉敷に当てはめていくことでトラブルを少なくすることを目指しました。もっとも、想定外のトラブルでシステムが停止すれば、その分の損失が発生します。計画どおりにデータ移行を進めるために、綿密にリハーサルを行うことに力を注ぎました」(江川氏)

  • (写真)江川健太氏

    株式会社システムサポート インフラソリューション事業部 SI推進部
    第1課 課長 テクニカルエヴァンジェリスト 江川健太氏

江川氏によると、システム切り替え時に障害が発生しやすいのは、リハーサルでは確認しきれないネットワーク経路からのアクセスがあるような場合だという。
「そのため、想定される経路や想定される問題を関係者と会話のなかで洗い出し、机上で仮説を立てて、再度会話で裏取りをしながらひとつずつ潰していくことが重要です。我々の目線だけでなく、ユーザーさま側の目線も加え、リハーサルでは全メンバー一丸となって見落としが無いか徹底的にチェックしました」(江川氏)

移行日の2ヵ月前からリハーサルを実施し、A3で2ページ、300件を超えるチェック項目について検証した。また、リハーサルできない机上での仮説検証も徹底して行ったという。データ移行は、計画停止日だった2023年9月30日から10月1日の2日間で実施した。徹底したリハーサルと会話を通した関係者間での仮説検証により、トラブルは全くなく移行が完了したという。

東西製造所間での相互バックアップと即時復旧の仕組み構築を実現、今後の展望は

広瀬氏は、SE RACを構築した最も大きな効果として、サーバーの高可用性が確保できたことと東西の製造所間での相互バックアップにより早期復旧の仕組みを構築できたことを挙げる。

「従来は、本番機もシングル構成、スタンバイ機もシングル構成で、万一本番機に障害が発生すると8時間ほどの停止が想定されていましたが、今回SE RACでサーバーの冗長構成を実現したことで、ほぼダウンタイムゼロで事業を継続することが可能となりました。また、倉敷と千葉両製造所をデータをセキュアに且つ相互にバックアップすることで、万一自然災害が発生し、システムが停止したとしても、他方の製造所にバックアップしているデータを使って早期にシステムを復旧することができる様になりました。24時間365日稼働するシステムに適した高可用性とDR対策をようやく実現することができた、と考えております」(広瀬氏)

今後の展開としては、SE RAC構成で導入したサーバーの6年後のリプレースに合わせて、またさまざまな選択肢から適切な解を導いていくことになる。

「今回システムサポートさんからも『Oracle SE2で実現できうる世界最高水準の高可用性を実現することができましたね』と言って頂きました。次回のシステム更改の際にもシステムサポートさんにご相談させて頂きたい、と考えております」(広瀬氏)

Webサイトへの問い合わせからスタートし、エンジニアとしての共感と信頼感のなかで新たなパートナーシップ構築につながった今回の事例は、ユーザーとベンダーの新たな関係構築のあり方を示すものとも言えそうだ。JFE鋼板とシステムサボートの今後の取り組みに注目したい。

  • (写真)江川氏と広瀬氏

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