人手不足が叫ばれる中、若手社員の早期離職が社会問題として浮上している。なぜ社員がなかなか定着しないのか。その背景には、若手社員の本音を企業が的確にキャッチできず、不安や不満を解消できないことや、若手社員の自己実現を企業がしっかりサポートできていない現状がある。
この課題解決に向け、日立ソリューションズは既存の「面談支援AIサービス」に、このたび「若手人材定着支援モデル」という新プリセットモデルを追加した。本ソリューションを活用する取り組みについて、同社スマートライフソリューション事業部の熊澤 航貴氏に話を聞いた。
若手がすぐに離職してしまう3つの要因
——まずは、若手人材の定着をめぐる課題について教えてください。いま一般的な傾向として、若手社員の定着率が下がっているとのことですが、そこにはどういった原因があるのでしょうか。
大きく3つあると考えます。まずはコロナ禍でリモートワークが普及し、コミュニケーションの質が落ちてしまったこと。これまでは上司が会社で部下の顔を見て、ノンバーバル(非言語)の情報で顔色や調子などの様子を察知できたのですが、リモートワークでは対面できないことからそうした対応が難しくなりました。
2つ目は、上司が忙しく、部下と対話する回数が減ってしまい、不満を持つ社員へのケアができなくなっていること。またこの課題に対し、組織的に対策する仕組みが整っていないことも問題です。
そして3つ目が、部下が上司に本音を言えないことです。一例をあげると、上司からある仕事を任された若手社員が、「自分はそれ、あまりやりたくないんだけどな」と不満を覚えつつも本音が言えず、エンゲージメントが下がった状態が続いて突然退職してしまう、ということも実際にあるそうです。この3点が、若手人材の定着率が悪化している背景にあると考えています。
労働市場を見ると、「若手」に定義される35歳以下の離職率は、全体と比較して高い状況にあります。日本企業全体として、若手が根づかないことに悩んでいるのではないでしょうか。
定着率の低下が企業と若手人材に与える影響とは
——定着率が下がると、企業側には具体的にどういったデメリットがあるのでしょうか。
人材不足のこの時代、せっかく新入社員が入っても、数年でやめてしまうと会社として大きな損失になります。社員が入社3年以内に離職すると、1人当たり500万円から1500万円程度の損失になるといわれています。さらに、1人の離職をきっかけに社員のモチベーションが低下することで、生産性が下がるだけでなく、離職の連鎖が生まれる危険性もあります。
それ以外にも、次の3つが考えられます。まず、次期リーダーの育成が遅延してしまうこと。一定程度育成してきた人材がやめてしまうと、企業側はあらためて時間をかけ、リーダー候補を育成しなければなりません。加えて会社全体で見ると、ノウハウやスキルを持った層が縮小し、組織を発展させていく上できわめて大きな損失となり、業務ノウハウの継承という点でも課題になってきます。
2つ目が、社風の継承が困難になること。たとえば当社は上位の役職者に何でも相談しやすい雰囲気があり、風通しの良い社風になっています。各社員がそうした思いを持って他の社員と接することで、企業文化として定着するのですが、離職が増えるとこちらも業務ノウハウ同様に継承が困難になります。
そして3つ目は企業イメージの低下です。離職率が高いと、社外からは「何か問題があるのでは」という目で見られ、新たに優秀な人が集まりにくくなり、会社全体の地盤沈下につながります。その点でも離職率の高さは見過ごせない問題です。
——若手社員側にとってはどういった影響がありますか。
若手社員側としては、モチベーション低下が最大の問題です。同じチームでいつも一緒に働いていた人がやめてしまうと、「自分はこのままここにいていいのだろうか」といった不安や疑問が生まれます。モチベーションが下がると生き生きと主体性を持って動かなくなるので、自分自身のキャリアプランの実現が難しくなり、キャリアにおいてもマイナスになります。これはもったいない話ですね。
一方、やめてしまった若手社員も離職理由を深掘りしていない場合は、転職先でまた同じ壁にぶつかることになります。転職先は企業文化が異なるのですぐには馴染めませんし、結局またやめてしまうというケースもあります。企業と社員が相互に理解し合うことは、双方にとって非常に重要なことであると考えます。
ここまで、若手人材が定着しないデメリットを挙げましたが、企業に若手人材が定着すれば、得られるメリットは大きなものとなります。自社のことを理解した頼もしいリーダーが育ち根付くことで、企業側は安定して組織を拡大し事業成長を遂げられます。一方、働く側にとっても、企業と社員の相互理解が向上すると、自分が思い描くキャリアプランを実現しやすくなり、メリットとなるでしょう。
現実を把握しつつも有効に機能しない対策の問題点
——現状ではどういった対策が一般的なのでしょうか。
既存の対策としては、主にエンゲージメントサーベイや1on1(面談)があります。サーベイはアンケートのように、会社全体の従業員エンゲージメントを調査するもの。1on1は、上司が部下としっかり対話し、部下の思いを汲んだうえで仕事のアサインやフォローを行い、エンゲージメントを高めていく手法ですね。
ただ、こうした対策を行っても、なかなか離職を防げていないのが現状です。まずサーベイは、手軽に回答できる利点もあるのですが、その一方で、社員は忙しいときや本音を言いたくないときだと、当たり障りのない中間点をつけてしまう場合もあります。そうなると、サーベイ結果は決して悪くないのに離職率は高いまま……といったギャップが生まれてしまいます。また、社員が回答結果を自ら振り返り、深掘りする機会がない点も課題として挙げられます。
一方の1on1は、上司の面談スキルに依存してしまいます。上司が聞くべきことをきちんと質問できるかは面談スキル次第ですし、主観も大きく影響します。また、上司との間に信頼関係がなければ、部下も本音で話しません。もちろん重要な施策ですが、属人化しやすい点が課題だと考えています。さらにいえば、上司が忙しいと面談時間を確保できない問題もあります。
新たなソリューション「若手人材定着支援モデル」
——そこで今回、面談支援AIサービスの「若手人材定着支援モデル」をリリースされたわけですが、まずはその概要を教えてください。
最初に「面談支援AIサービス」からご紹介します。本サービスは人材評価能力という暗黙知をノーコードでAIモデル化でき、そのAIモデルを使って面談を評価するものです。本サービス上で社員がアバターと面談を行うと、AIモデルが被面談者の人材特性を予測する仕組みになっています。
今回リリースした「若手人材定着支援モデル」は、本サービスを使って実現するプリセットのAIモデルです。当社が若手の離職理由をもとに作成した面談シナリオに沿って、アバターと社員が面談を行います。そして、面談中の様子を録画したデータをAIが分析し、若手の離職理由になり得る要因に対する本音を予測します。さらには、その予測結果を使って上司や人事部門が部下にケアを行うという使い方を想定していますが、予測結果に応じたケア方法を解説する資料も用意しています。
上司が忙しく都合がつかなくても、一人で面談を実行できるのもポイントです。上司は空き時間を利用して面談結果を確認できるので、面談に関する工数を減らすことができます。
——面談ではどのようなことを聞くのでしょうか。
質問のベースとなる面談シナリオについては、実際に社員をケアする際の運用を想定して、「働きやすさに関する面談」「働きがいに関する面談」の2つを用意しました。前者は仕事の適性やワークライフバランスなど、日々の業務における社員の思いをヒアリングする面談で、上司による1on1をサポートするイメージになっています。後者は、キャリアプランや会社方針への納得度といった中長期的な視野で社員が考えていく内容をヒアリングする面談で、こちらは目標管理面談などをサポートするイメージです。
「若手人材定着支援モデル」で従業員の本音を予測する項目は、労働時間や人間関係への満足度、やりたい仕事との一致度などといった「働きやすさ」、キャリア目標の実現性、会社の将来性といった「働きがい」に関するものなど、2つのシナリオを合わせて15項目あります。これらの項目は独立行政法人労働政策研究・研修機構による33歳以下へのアンケートをはじめとする資料から、離職理由を当社独自に精査し、まとめたものです。
<参考資料>
独立法人労働政策研究・研修機構
2019年「第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」
2018年4月2日時点で20~33歳の正社員経験者5,631人への調査
https://www.jil.go.jp/institute/research/2019/191.html
精査する中で、勤続年数によって離職理由が変化することに気づきました。入社当初は人間関係や肉体的なつらさが離職理由の中心であるのに対し、2~3年目は仕事の適性やより良い条件の仕事を希望するなど自己承認欲求へ理由が変わり、5年目以降はキャリアアップやワークライフバランスといった自己実現が理由の中心になってくるのです。そうした点を踏まえ、2つのシナリオを用意しています。
——そのシナリオをもとに若手社員の本音を見つけ出すとのことですが、AIはどのような点に着目し評価・分析を行うのでしょうか。
「面談支援AIサービス」は、面談動画から人の表情、まばたきやうなずき、視線の動き、心拍数など、ノンバーバルのデータを特徴量として使い分析していきます。たとえば、「現在の仕事は、あなたのやりたい仕事と一致していますか?」という質問に対し、被面談者ははい・いいえで回答したあとにその理由を説明するのですが、説明する際の表情など動画から複数の特徴データを取ります。取得したデータから、統計的な傾向を算出し、サーベイや1on1面談では難しかった本音をAIが予測します。
AIの学習データには、当社若手社員から収集したエンゲージメントに関する本音も活用しています。エンゲージメントの高い・低いで特徴量がどのように移り変わるのか、統計的に傾向を算出し、AIモデル化して本音の予測につなげています。
アバターと面談する仕組みですので、社員は時間を選ばす手軽に面談を実施できますし、適当に答えがちなサーベイや属人性に依存する1on1よりも本音を表しやすいと考えています。このように社員の本音を手軽に、かつ的確に予測できるサービスは、比類ないものだと自負するところです。
——導入にあたり、企業はどういったフローを踏めばよいのでしょうか?
「若手人材定着支援モデル」はAIのプリセットモデルですので学習データを収集する必要がありませんし、SaaS型でサービスを提供するので、すぐに使っていただけるのもポイントです。利用実績に応じたサブスクリプション契約となっており、とりあえず1~2カ月使ってみて自社に合うかどうか確認するといった導入方法も可能です。
AIはあくまで人間がなすべき取り組みのサポート
——AIという言葉を聞くと、使用することにハードルを感じてしまう方もいるかと思いますが、この点について企業はどのように向き合い、活用していくべきでしょうか?
実際に活用するうえでは、エンゲージメントを高めていくという目的や、個人情報の取り扱いに留意しているといったことを社員に丁寧に説明し、安心感を醸成することが重要になります。そうすれば、自分たちがより良い環境で働けるようにするための取り組みなのだと理解し、納得のうえで協力してくれると思います。もちろん、個人情報の取り扱いという観点から、面談動画の閲覧権限の範囲は調整可能です。たとえば直属の上司ではなく人事部のみの閲覧にするなど、自社にあった運用を選択し、対応していくことも重要です。当社では、現在も同モデルを使った社内トライアルを続けています。そこで得られた社員のニーズを反映しながら、機能を拡充していきたいです。
——効果的な活用の仕方やコツを教えてください。
一番大切なことは、上司が1on1で部下の思いを汲むという文化を醸成することです。その“思いを汲む“ことを属人化することなくサポートできるのが「面談支援AIサービス」です。AIで面談を実施したあとに、上司がきちんと部下のケアを行うことで、面談の質が高まり、社員が面談の意義を感じやすくなります。そうすることで、「面談は自分にとって意味のあるものだ」という文化が醸成されていくと考えています。
——人とAI技術が共存し、シナジー効果を高めていくためのポイントはありますか。
最終的には人間が判断するという業務運用フローを事前に整備することがポイントになります。あくまでAIは、上司や人事部門が社員の本音をつかみ、ケアを的確に行えるようにするためのサポートをするイメージ。AIにすべてを任せるのではなく、人手の足りない部分や届きにくい部分で、人の判断をAI技術がアシストする、そういった考え方で活用していただきたいと思っています。
——最後に、今後に向けてのビジョンを教えてください。
私たちのビジョンは、「若手人材定着支援モデル」の活用を通して、AIが企業と社員双方の理解を促進し、エンゲージメントが高い状態で働ける環境を実現することです。今後は人がよりケアを行いやすいような機能を拡充したり、自己分析の質の向上させる機能を追加したりと、面談を受ける側にとってもさらにメリットの大きなサービスにしていきたいと思っています。
また「面談支援AIサービス」では、新しいAIプリセットモデルの開発や、お客様との協創も増やし、企業が直面する課題解決のご支援に力を入れていきたいです。
ぜひ、若手人材の定着にお悩みの際は、当社サービスのご活用をご検討いただければと思います。
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