生成AIを使って、企画書を作らせると、どうしてもアイデアが似通ってしまいがちです。キラリと個性が光る企画書を作るにはどうしたら良いでしょうか。多くの人が生成AIを利用しているので、気付いたら同僚と全く同じ提案をしていたなんてことになりかねません。そこで、AIに個性を与えるマルチロールプロンプトを試してみましょう。
生成AIに宿題を解かせるとすぐにばれる件
生徒が作文やリポートなどの宿題を生成AIに解かせて提出すると、先生にはすぐ見破れるという話を聞いたことがあるでしょうか。過剰に整った文章や一般的な結論など、その雰囲気から生成AIが出力したことが分かってしまうそうです。
簡単な実験をしてみましょう。AIチャットサービスの大手3社が提供するChatGPT、Gemini、Claudeに対して、同一の作文を依頼してみました。お題は、「夏目漱石の小説「こころ」の読書感想文を2000字以内で書いて。」というものです。
次の画面は、実際に試したものですが、ChatGPTとGeminiの出力結果は驚くほどよく似ていました。
最初に小説の概要や構成を述べた後、あらすじを要約してから小説のテーマについて述べます。その際、明治という時代背景に注目して、時代の転換点であることを述べ、近代化の波と、現代の自分に重なる点を述べるという流れになっていました。もし、この内容をそのまま提出すれば、生成AIに宿題をさせたことが丸わかりです。
もちろん、生成された文章を見ると、文法の間違いもなく、自然で上手な作文となっています。しかも小説の内容や構成、ポイントとなる点がしっかりと分かる100点満点の文章です。しかし、上記のように、いくつか文章を生成させると分かる通り、内容が酷似したり、一般的な結論となってしまいます。
そうであれば、企画書を作る場合にも同じことが言えるのではないでしょうか。その他大勢の同僚と全く同じアイデアや解決策を提出することになってしまう可能性があります。生成AIに支配されず、思考をブラッシュアップする道具として使うにはどうしたら良いでしょうか。
個性的な企画書作りのポイントはプロンプトにあり
上記のような感想文であれば、まだ少しはバリエーションがあるのですが、よりお題を単純にして「最高に可愛い猫の名前を考えて」というものにしてみましょう。
すると「きなこ」「ルナ」「もも」「くるみ」など、ほとんど同じ名前が表示されることが分かります。
これは、何度生成し直しても同じ傾向になります。これは、AIチャットサービスの核となる「大規模言語モデル(LLM)」の仕組みに関係しています。「最高に可愛い猫」という言葉から連想される単語は、大抵決まっているからです。
そもそも、大規模言語モデルは大量の文章を学習することから作成されており、「犬も歩けば」と入力すると「棒に当たる」という続きの言葉を出力します。
また、猫の名前を尋ねた場合、多くは猫の名前の人気ランキングなどを元にして答えるために、似通った名前になってしまいます。
この仕組みが分かっていれば、他人と違うプロンプトを使うことで、他人と違うアイデアが出せるということが分かるでしょう。
未来の掃除機というテーマの企画書の場合
ここでは簡単に「未来の掃除機」というテーマの企画書を提出する必要があるとしましょう。
最初は次のような単純なプロンプトを作って試すとしても、それをそのまま企画書に採用することは避けるべきであることが分かるでしょう。なぜなら、そうしたアイデアは他の人も同じようなアイデアを出してくると考えられるからです。
未来の掃除機に関する企画書を作成します。
この企画書のためのアイデアを考えてください。
各社のモデルを試したところ、次の画面のようなアイデアが表示されました。
簡単に提出されたものをまとめると、次のようなアイデアが提出されました。
- 家のレイアウトや住人の生活パターンを学習し、掃除ルート・時間・吸引力を自律的に調整
- ゴミや汚れの種類をセンサーで認識し、床材や汚れに合わせて掃除方法・吸引力・ブラシ回転を自動変更
- 掃除と同時に空気清浄、除菌、アロマ散布など、住環境全体をケア
つまり、上記のようなアイデアは「誰でも提案してくる可能性がある」ということです。もちろん、こうしたアイデアは素晴らしいものではあるのですが、そのまま企画として採用してしまうと、生成AI時代には平凡な企画書になってしまう可能性があるのです。
マルチロールプロンプトのテクニックを使ってみよう
そこで、プロンプトに手を加えて、異なる視点でアイデア出しをするようにしてみましょう。これは、プロンプトエンジニアリングの「マルチロールプロンプト」や「MAGIシステム」というテクニックを応用したプロンプトです。
### 指示:
会議室に次の優秀な3人の専門家がいます。
- A: 家電メーカーのプロダクトデザイナー
- B: 毎日勤勉に家事を行う主婦
- C: 未来の生活を描くSF作家
最初に3人が次の議題について順番にアイデアを出します。
次に、3人がそれぞれの好きな点を褒めます。
最後にAがそれをまとめて案を提示してください。
### 議題:
未来の掃除機に関する企画書を作成します。
この企画書のためのアイデアを考えてください。
このプロンプトを、ChatGPT(モデルGPT-5)に与えると、次のような応答を返します。
昔から「3人寄らば文殊の知恵」と言いますが、大規模言語モデルに対して3人の役割を持った人物を登場させて、その3人が議論するように仕向けます。そのようにすることで、普通のアイデア出しをさせたのとは違った視点で、応答するようになるのです。これは、とても簡単に実践できるテクニックです。
プロンプトをカスタマイズするアイデアとしては、登場人物のA・B・Cに異なる役割を与えることです。
ちなみに、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』には、戦略の意思決定を担うスーパーコンピューター「MAGIシステム」が登場します。このシステムは、三台一組で構成され、「科学者」「母親」「女性」という3つの人格が多数決で結論を出すものになっていました。筆者は、大規模言語モデルに対して、いろいろな役割を与えてみたところ、この三者は非常にバランスがよく、汎用的に使えるものでした。
今回の課題に対しても、科学者・母親・若い女性の三者で試してみましょう。すると、次のような応答がありました。
最後に、提出されたアイデアを画像に描画してもらいました。すると、各社のモデルで個性的な画像が出力されました。
このように、プロンプトをちょっと工夫することで、違った角度のアイデアを提出してもらうことができます。
とは言え、実際にマルチロールプロンプトの実行結果を見てみると、結局のところ凡庸でありふれたアイデアであることも少なくありません。
しかし、単にアイデア出しをしてもらったものとは、切り口が異なるため、そこから別のアイデアを思いつくということもあるでしょう。
しかも、AIチャットサービスなので、提出してもらったアイデアについて、さらに深く考えてもらったり、別のアイデアを組み合わせて、何か思いつかないか試してみることもできます。そうすることで、より現実的な企画書のアイデアを出すことができます。
まとめ
以上、今回は、最初に生成AIを使った企画書が一般的で似通ったものになってしまう理由を考えました。そして、AIに異なる役割を与えるマルチロールプロンプトを紹介しました。人数を増やしてみたり、役割を変えてみたりと、いろいろと工夫してみると、楽しいですし、より良いアイデア発想のヒントになります。試してみてください。
自由型プログラマー。くじらはんどにて、プログラミングの楽しさを伝える活動をしている。代表作に、日本語プログラミング言語「なでしこ」 、テキスト音楽「サクラ」など。2001年オンラインソフト大賞入賞、2004年度未踏ユース スーパークリエータ認定、2010年 OSS貢献者章受賞。これまで50冊以上の技術書を執筆した。直近では、「大規模言語モデルを使いこなすためのプロンプトエンジニアリングの教科書(マイナビ出版)」「Pythonでつくるデスクトップアプリ(ソシム)」「実践力を身につける Pythonの教科書 第2版」「シゴトがはかどる Python自動処理の教科書(マイナビ出版)」など。






