前回は、どのように仮想デスクトップが始まり、現在までの進化を遂げてきたかについて説明した。技術とともに進化してきた仮想デスクトップだが、今回は顧客の要件や利用用途、仮想デスクトップの利用環境の変化について触れたいと思う。

始まりはアプリケーション配信

初期では、「ターミナル サービス」と、これらを機能拡張する製品「MetaFrame」「Presentation Server」「XenApp」「XenDesktop」はどのような形で利用されていたのだろうか?

まず、MetaFrame / Presentation Serverの時代の利用方法は、特定のアプリケーションを中心にしたアプリケーションの配信が中心であり、配信していたアプリケーションも SAP R3 などに代表される会計アプリケーション、Notes などのグループウェア、BI ツール、各種業務パッケージなどクライアント/サーバ型の2階層アプリケーションが主体であった。

MetaFrame 1.8 for Windows 2000の画面

MetaFrame 1.8 for Windows 2000の管理画面

Citrix Program Neighborhood (MetaFrame 1.8 for Windows 2000 クライアント接続モジュール)

これは当時、企業の拠点間ネットワークの構築にかかる回線コストが非常に高かったため低帯域な回線での接続が多く、2階層型のアプリケーションを遠隔地から利用するとパフォーマンスが非常に悪かったこと、ERP などの重要なパッケージのメンテナンスへの対応などが挙げられる (当時は複数の拠点での同時アップデートやメンテナンスは大変な作業であった)。

また当時を振り返ると、マルチユーザーに対応したアプリケーションはほとんど存在せず、次のような問題が発生することも多かった。

  • 配信されたアプリケーションを複数のユーザーが同時に起動するとうまく動作しない
  • 設定がレジストリではなく、実行ファイルが置かれたディレクトリにあるパラメータファイルに保存されているため、ユーザーごとの設定ができない
  • しばらく利用しているとメモリリークが発生してアプリケーションの強制終了が発生する
  • アプリケーションを利用しているとOSでBSOD(Blue Screen of Death:ブルースクリーン) が発生してシステムが停止する

当時は、システムを安定稼働させるのに非常に苦労した方も多いと思うが、そうした問題を情報が少ない中でひとつひとつ販売店のエンジニアと共に解決しシステムの構築・運用を行っていた。

余談になるが、印刷に関してかなり苦労をした方も多いだろう。日本は独特の帳票文化を持っており、印字品位や設定に関するトラブルが多い。当時は、プリンタや複合機のトレイ情報や「余白」の値など、プリンタベンダー固有の設定情報を変更しても保存されなかった。そのため、オートクリエイトされたプリンタのコメントを削除し、作成されたプリンタをログオフ時に削除させない、次回ログオン時にまた一から設定してもらうなど、非常に苦労した時代だった。

現在は、リモートデスクトップサービスに加え、 XenApp / XenDesktop に対応したプリンタドライバが各プリンタメーカーからリリースされており、XenApp / XenDesktop では汎用プリンタドライバ (Universal Printer Driver) が利用可能となったため、印刷ができないというトラブル自体はかなり解消されている。

デスクトップ画面の配信が増加

製品の名称が「XenApp」「XenDesktop」となり、サーバOSに加えて、クライアントOSの配信も可能となった。また、情報漏洩対策やTCOの削減の流れに乗って、シンクライアント端末が普及し始めたため、利用方法も MetaFrame / Presentation Server 時代に主流だったアプリケーション単体の配信からデスクトップ画面の配信 (仮想デスクトップの利用) へと一気にシフトした。

しかし、ファットクライアントでは普通に利用できる動画再生やグラフィック系アプリケーション、USBデバイスなどが仮想デスクトップ上ではまだうまく利用できないケースもあった。そのため、仮想デスクトップの利用用途は Officeアプリケーションや業務アプリケーションを中心とした定型業務が主体であった。

こうした背景の下、もともと端末の自由度が少なかった金融機関などを中心に、全社レベルでの仮想デスクトップの利用は進んだ。一方、製造業など、端末の自由度が求められる他業種では、全社レベルで仮想デスクトップの導入が進んだものの、画一的な仮想デスクトップの配信ではなかなかうまくいかないケースもあり、利用者全員が満足できるシステムの構築は容易ではなかった。

多様化が進む利用形態、インフラ

近年では、タブレット端末を利用した内部および外部からのアクセス、仮想デスクトップ上での動画やSkype/Lyncに代表されるユニファイドコミュニケーションソフトの利用、GPUを利用する2D/3D CADやCAE の利用、分散されたロケーションで行われていた設計業務の一元化、情報漏洩対策のための重要なデータのあるセグメントとのネットワーク分離、標的型攻撃への対策から外部アクセスが可能なブラウザやメーラーの分離を目的としたインターネット分離など、利用形態は多様化している。

利用方法も、アプリケーション単体の配信から、仮想デスクトップの利用、仮想デスクトップ上で配信された画面転送型アプリケーションの利用 (ダブルホップ) まで、非常に複雑な形での利用も多くなっている。

さらに、仮想デスクトップや仮想アプリケーションの配信を取り巻く環境では、接続元端末も従来のシンクライアントやPCだけではなく、タブレット、スマートフォンなどのモバイルデバイス、プラグインを利用しないブラウザベースの HTML5に広がっている。接続先も従来のWindows Server OS、Windows Client OSに加えて、Linuxも利用可能となり、ユーザーが利用するロケーションも社内だけでなく、外出先、出張先、自宅、移動中、海外と、仮想デスクトップに求められる対応環境が多様化している。

インフラ面においても、従来のサーバとストレージの構成に加え、Nutanix に代表されるハイパーコンバージド・インフラストラクチャ、HPE Moonshot システムを利用したHosted Desktop Infrastructureなどの仮想デスクトップ構成インフラ、プライベートクラウドやAmazon Web Services、IBM SoftLayer、Microsoft Azureなどのパブリッククラウドの利用および従来のオンプレミスとのハイブリッドでの利用、Desktop as a Service の利用など、仮想デスクトップを利用するインフラ、ネットワーク、クラウド環境は多様化している。

上記のような仮想デスクトップの周辺環境の変化に加え、業種および業態に特化した仮想デスクトップ利用のニーズ、ワークライフバランスやワークスタイル変革に伴う場所にとらわれない働き方の実現など、昨今の仮想デスクトップの利用形態は黎明期とは比べ物にならないほど広がりを見せている。それに伴い、システムの実装については考慮すべき点が増えている。

このような多様化された環境の中で、どのように仮想デスクトップのシステムを実装していけばよいのか。次回以降は、システムの実装について解説を行っていく。

伊集院 晋
シトリックス・システムズ・ジャパン(株)
セールスエンジニアリング本部エンタープライズSE部
プリンシパルシステムズエンジニア
1999年のMetaFrame 1.0 / 1.8リリース当初は販売店のプリセールスエンジニアとしてデスクトップ・アプリケーション仮想化を担当、のちにシトリックス・システムズ・ジャパンに入社。現在は主に大規模顧客のデスクトップ・アプリケーション仮想化のプリセールスに従事している。