2020年2月、SAPは「SAP ERP 6.0」の標準保守期間を2年延長し、2027年までとすることを発表した。S/4 HANAへの移行をサポートする人材不足問題が顕在化していた中での決定であり、これを朗報と受け止めたユーザー企業も多かったことであろう。しかし、2年間の猶予ができたからと言って、決断を先延ばしにすることはできない。
こうしたことを踏まえ、本稿では、11月17日から19日にかけて行われたオンラインイベント「Gartner IT Symposium/Xpo 2020 in Japan」の中からガートナー バイス プレジデント アナリスト 本好宏次氏が行った講演「SAPの『2027年問題』を乗り越えるには」の内容を紹介する。
SAPは自社にとってどんなパートナーか?
SAP ERP 6.0がリリースされたのは2006年にさかのぼる。標準保守期間は2027年までとなったが、20年以上同じシステムを使い続けて良いものだろうか。SAPユーザーにとって、S/4 HANAへの移行は既定路線であり、「行くべきか、行かざるべきかではなく、いつどのように行くべきかが問題である」と本好氏は訴えた。
そして、パートナーとしてのSAPの位置付けに即した以下の3つの分類を紹介し、自社がどこに分類されるかを考え、大まかな方針を決めてから詳細な検討に着手することを勧めた。
○戦略的な採用企業:すぐに移行する決断ができ、展開方式と移行方式を検討する企業。
○戦術的な採用企業:様子を見ながら慎重にS/4 HANAへの移行メリットと成熟度を判断したい企業。
○採用計画なし:2つのパターンに分かれる。1つは現在の環境を維持するが、正規保守を打ち切り、サードパーティーに任せる企業。もう1つは、SAP以外のベンダー製品を導入する企業。
方針を決める際に実施しなければならないことは大きく2つある。1つがトップダウンでのSAPの戦略分析を行い、自社にとって重要なパートナーなのかを見極めることだ。近年のSAPはさまざまな買収を手掛け、クラウドアプリケーション企業への転換を図ってきた。現在の同社は「インテリジェントエンタープライズ」というビジョンを提唱し、アナリティクスやAI、RPA、IoTのようなテクノロジーをERPに組み込もうとしている。これらの新しいテクノロジーを活用し、ビジネス価値を得ようとすると、レガシーERPはどうしても足かせになる。
「S/4 HANAへの移行は、使っていないアドオンや過剰なカスタマイズに代表されるIT負債の整理をする千載一遇のチャンスになり得る。ニチレイ、三井物産、トラスコ中山のような先行事例を参照しながら、経営層と共に移行メリットを評価することが求められる。それと同時にボトムアップでの移行メリットの評価も実施したい」(本好氏)
潜在的なメリットとして本好氏は以下に示す6つを挙げ、「経営層の意向を考慮して検証することが必要になる」と説いた。