「最新のITツールを導入しようにも、上層部に知識や理解がなくなかなか進まない」「事業部間の交流が少なく、組織が縦割りになりがち」――どの企業でも少なからず目にする光景である。

こうした課題を一気に解決する施策を打ち出し、全社的に取り組んだのが資生堂だ。同社では、若手社員が自分とは異なる事業領域の役員のメンターとなり、マンツーマンでITツールの知識や使い方を教える「リバースメンター制度」を今年1月に全社展開し、大きな成果を上げている。

だが、これまでなかった新しい制度を社内に周知・浸透させるのは決して容易なことではない。「役員にIT知識を」というのであれば、適当な教育プログラムを導入する手もあっただろう。にもかかわらず、一風変わったメンター制度を取り入れた資生堂の狙いはどこにあったのか。

同制度を企画立案した資生堂 グローバルICT部 デジタルイノベーショングループの越智佑子氏に、制度導入の経緯や成果について詳しく伺った。

リバースメンター制度で狙う「3つの目的」

――若手が役員にレクチャーするというのは、日本ではちょっと珍しい制度だと思うのですが、始まったきっかけは何だったのでしょう。

越智氏:当社では、これまで、社内で実施した細かな業務改革や良い事例を共有する社内提案制度がありました。全ての事業所から集まった何百件もの事例から、特に優秀だったものは社長にプレゼンをして最優秀賞を決めるものです。そのなかに、「IT部門が社員向けにITの教育活動をする」という事例があり、これを見た社長が「僕にも(ITの教育を)やってよ」と言ったのがきっかけでした。

資生堂 グローバルICT部 デジタルイノベーショングループの越智佑子氏

海外の企業では若手社員がエグゼクティブに付く「リバースメンター制度」という制度があり、それを取り入れたら良いのでは、という話になったんです。その場にいた役員たちが「自分もやりたい」と立候補し、最初は7人のメンティーで試験的にスタートすることになりました。

――それまで、役員の方がITについて学ぶ機会は?

越智氏:もちろん、IT部門では役員向けの教育プログラムも用意しています。ですが、日常的に継続して実施しているようなものは今回のリバースメンター制度が初めてですね。

――なぜそうした教育プログラムを強化するのではなく、若手社員によるレクチャーというかたちを選ばれたのでしょうか。

越智氏:一番の目的は役員のITスキル・意識を向上させ全社的にIT活用を促進させることなのですが、併せて社内コミュニケーションの活性化も狙いました。それには、普段接する機会がない、世代も担当する事業領域も違う若手社員と役員が話すことが重要だと考えました。

また、もう1つの目的としてあったのが、若手の育成です。通常、20代や30代で異なる事業領域の役員とやり取りする機会は、あまりありません。そうした経験が若手にとっても成長の機会になると考えました。

――まさに一石二鳥、三鳥といった制度ですね。主導したのはグローバルICT部ですか?

越智氏:はい、グローバルICT部は、ITを活用して社内のコミュニケーションを活性化するのがミッションの1つです。日本企業は特にそういう傾向が強いと思いますが、「縦」のコミュニケーションはとれても「横」ではとれていないという課題があります。リバースメンター制度の構想のなかには、これを解消したいという思いもありました。