4月19日から21日にかけて東京・ビッグサイトで開催された「ヘルスケアIT 2017」のセミナーには、ITヘルスケア学会 理事で青森公立大学の准教授、木暮祐一氏が登壇。同氏は、「ITヘルスケアとIoT、AI、セキュリティ~技術トレンドとその事情を探る~」というテーマの下、ヘルスケア分野を中心に医療や介護分野にも視点を広げつつ、ICT利活用のトレンド、そして方向性について考察していった。

ヘルスケア分野のIT活用と法制度

講演の冒頭で小暮氏は、個々のユーザーの健康状態を収集する各種ウェアラブル端末やセンサー類の利活用が進みつつあり、さまざまなサービスが急増していることに触れた上で、こうしたジャンルにおける米Appleの取り組みの先進性に言及。その一方で、日本企業の取り組みについては、「残念ながらプラットフォーム化があまり進んでいないのではないか」と疑問を投げかけた。

ITヘルスケア学会 理事/青森公立大学 准教授 木暮祐一氏

氏は「ヘルスケアサービスをビジネスとして成功させるためには、法制度にフォーカスすることも重要」だと強調する。一例として挙げたのが、2014年に改正された薬事法だ。

世界ではスマートフォンを活用した医療機器が次々と認定されているのに対し、日本では長い間薬事法がネックとなり、認定には至らなかったのだ。

「(日本では)従来、アプリケーションとハードウェアはセットだと見なされていました。それが法改正により、アプリケーションのみでも医療機器として認められるようになりました。今では、スマホアプリを使ったさまざまなサービスの導入が日本の医療機関でも可能となっています。全体的にはまだまだ慎重な姿勢が見受けられますが、これから普及していくことでしょう」と小暮氏は予想する。

また、労働安全衛生法が2015年12月に改正されたことで、職場環境において従業員のストレス状況を常にモニタリングすることが重要視されるようになっている。これを受けて、ストレスチェックが可能なアプリケーションも少しずつ登場してきているようだ。

しかしながら、こうしたストレスチェックを行うヘルスケアサービスのうち、コンシューマー向けのものは、欧米に比べ日本ではいまひとつ浸透していない。そこで小暮氏は、国内での普及のカギは、コンシューマーではなく法人向けにあると見ているという。

「このようなサービスに個人がお金を出すかと言うと、日本ではまだそこまでの感覚にはなっていないようです。しかし法人向けであれば、ニーズは確実に存在するので、今後は徐々に増えていくでしょう」(小暮氏)

例えば、スマートフォンのマイクに向けて話した音声から健康状態がわかるアプリを、小暮氏の知人が開発して無料で提供しているという。

「これはいわば心の健康状態の診断が行えるアプリ。普段の通話音声から判断できるため、利用者が特に意識せずとも使えることがポイントです」と小暮氏。

もう1つ、ストレスチェックを行えるデバイスとして小暮氏が注目しているのが、各種ウェアラブルデバイスである。とりわけ心拍を計測することで、ストレスを感じているのか、もしくはリラックスしているかなどの判断が可能なデバイスを、氏は数多く検証しているという。

「心拍数を計測することとで、交感神経と副交感神経のバランスが把握できます。ウェアラブルデバイスで常時計測すれば、いつどのような場面でストレスを感じているのか、もしくはリラックスできているのかが見えてくるでしょう。日本ではなぜか、こうしたアプリがなかなか出ていないのですが、今後に期待したいところです」(小暮氏)

さらに、国内における遠隔医療推進の「壁」となってきたのが、医師法20条にある「原則的に対面でなければ診療を行ってはいけない」というルールだ。これは明治38年に定められたものだが、そのまま使われ続けているのである。同法が存在しているため、例えば、Skypeなどを用いた遠隔診断などは不可能だと言われていた。

小暮氏は「これまで厚生労働省では、遠隔診断を否定するような言動は必ずしもしていませんでした。しかし、具体的な事例を示していたため、事例以外の方法ではダメだろうという見解が医療関係者の間で定着してしまっていました」と説明する。

それが一転したのが2015年8月10日。厚生労働省から事務連絡として、遠隔医療の推進を促すような内容が示されたのである。すると案の定、続々と遠隔医療のためのアプリが登場してきたのだという。例としては、最寄りの病院を検索して選択すると、医師が直接対応するといったアプリなどが挙げられる。

「賛否はあるかもしれませんが、遠隔医療サービスは確実に進み始めています。ビジネス面で大きなチャンスがあるかもしれません」(小暮氏)