2016年も残すところあとわずか。読者の皆様にとっては、どのような一年だっただろうか。

IT業界全体で見ると、AI やVRといった革新的な技術の普及の足音が聞こえ始め、多くの企業がデジタルビジネスへの対応を開始したという調査結果が頻繁に発表された一年だった。

そうした大きな動向の中で、個別の技術分野にはどのような傾向があったのか。

今回は、ガートナー ジャパンでリサーチ部門 アプリケーション開発 リサーチ ディレクターを務める片山 治利氏に、「アプリケーション開発」分野における2016年の振り返りと、今後の展望をお願いした。

歩みの遅いデジタルトランスフォーメーション

この一年、周囲のIT環境が劇的に変化し、多くの企業が「デジタルトランスフォーメーション」への対応に追われはじめた。的確な変革を遂げて成功した企業、試行錯誤を繰り返して悩む企業など、さまざまな状況にある中で、IT部門の取り組み・存在も重要な課題の1つとなっている。

ガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーション開発 リサーチ ディレクター 片山治利氏

ガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーション開発 リサーチ ディレクターの片山治利氏は、企業のデジタルビジネスへの取り組みと、IT部門が実際に取り組んでいる内容とに、「大きなギャップを感じはじめた一年だった」と述べる。デジタルビジネスを主導するのはビジネス部門であって、IT部門が関わっていないことも少なくないというのだ。

「依然としてシステムの障害やバグに対処し、サービス品質を低下させないためのIT管理に追われています。デジタルトランスフォーメーションの時代においても、IT部門の主たる業務が、20年~30年前からずっと変わっていないのです。”IT部門が弱体化している”とも言われるほどで、危機感を持って強化に務めるべき状況にあると感じます」(片山氏)

また、デジタルビジネスの実践においては、顧客の声や状況といった外部環境の変化へ迅速に対応することが求められる。そのため、この分野のアプリケーション開発では、スピードが特に重視される。迅速な開発を行うための手法・技術として、「アジャイル」や「リーン・スタートアップ」、「超高速開発ツール」などが注目されている。

しかし片山氏によれば、こうしたツールや開発手法は、実践している企業はまだ少ないという。2016年には市場の伸びが期待されていたが、成功しているのは現状でも一部の先進企業にとどまっているという印象だ。ソフトウェア開発ベンダーにおいても、活用は社内での開発にとどめ、サービスとして展開するところまでは至っていない。

アジャイル開発やリーン・スタートアップといった手法は、2017年以降に活用が広がっていくと片山氏は見ている。一方の超高速開発ツールは、普及までには少し時間がかかるとのことだ。

アプリケーションの特性に合わせてガバナンスを適用する

従来からアプリケーション開発においては、「品質(Q)」「コスト(C)」「納期・期間(D)」のいずれを重視するかという問題があり、組織や業務・業種によって回答が分かれるのが通常であった。

ところが、ガートナーが2016年5月に行ったアンケート調査では、「アプリケーションの特性による」と応える企業が約40%に達し、最も多い回答数となった。個々のアプリケーションの機能や性質に応じて、細かに戦略を変える必要があるという判断だ。

それでは、アプリケーションの特性を誰が判断すべきだろうか。

「経営者でもなく、現場のスタッフでもなく、IT部門こそがアプリケーションの特性を的確に捉える力を持っているはずです。どのような重要度で、どのように開発していくか、”アプリケーション戦略”を提案できる強いIT部門になるべきです」と、片山氏は主張する。