調達体制構築のポイント適任なプロジェクトメンバーを選出する

RFPによるIT調達は、システム開発のようにプロジェクトチームを編成して行う方が効果的である。つまり、組織横断的に必要な知識と技術を持った人間を集めて調達に関わるプロセスを実行するというわけだ。というのも、RFPによる調達とシステム開発は次の点においてよく似ているからである。

・期間と予算が決められている
・各部署が有する専門性が求められる
・ユーザー部門との連携が求められる
・要求・要件に応じた成果・成果物が納品される

また、調達においては検収が「契約の成立」ということになり、「契約締結(調達)が検収(開発成果の納品確認)」となる点で、両者は似ている。

IT調達に必要とされる知識の範囲は広く、ITに関わるものだけではない。また、組織横断的に推進するのだから、関係するメンバーやプロセスをうまく取りまとめるためのプロジェクト管理技術を有する人間が必須である。加えて、契約や法令などに関する知識を持つ人間も求められる。適切な人材をうまく集めることがIT調達の成否を握ると言っても過言ではなかろう。実はこの点もシステム開発によく似ている。

IT以外のスキルを有するメンバー

表1に、IT調達において求められるIT以外のスキルを挙げた。これまでITに関わる調達は、その専門性から他部署には判断できないなどの理由で、最終段階までIT部門関係者だけで進められ、最後に確認の意味で総務などの他部署が関わるといった形式論が通用していた企業もあるだろう。

表1 IT調達においてIT以外に求められるスキル

スキル

概要

プロジェクト管理

スケジュール・進捗管理、品質管理、プロセスの決定など

契約

契約交渉、契約書に必要な条項のチェック、社内ルール・法令順守の観点での精査など

労務

サービスを調達する際の順守すべき労務事項の管理など

購買

過去に実績を持つ取引先の評価、新規取引先の経営概況の把握など

しかし、公正な調達が求められている今日、IT以外の要素がノックアウト・ファクター(阻害要因)となることもあるのだ。調達に求められるIT以外の要素について、以下の例から考えてみたい。

あるサービスを調達するにあたって、A社・B社・C社から提案をもらった。B社の提案は最も優れており、価格もこちらの想定範囲に収まっている。ただし、B社は契約条項の瑕疵担保責任に上限を定めており、これが当方の社内基準を満たしていない。

このようなケースに遭遇した場合、どうしたらよいだろうか。悩ましいところである。例えば、B社が過去に何回か取引をしているベンダーだった場合、「非常に優れた提案であり、B社とは知らない仲じゃない。B社もこちらの悩みを知っているからこういう提案ができたんだろう。まあ、失敗に終わっても責任問題になる可能性はないだろうから、B社を選ぼうか」なんて結論に至るかもしれない。

しかし万が一、事故などが発生したら、誰かが責任を取れば済むというレベルの話ではなく、企業全体に被害が及ぶ大きな話になる。説明責任を果たせない契約を結ぶということはそういうことなのだ。どんなに優れた提案だとしても、譲れないところが1点でもあれば、その契約を断念すべき場合があることを覚えておいていただきたい。

こうした判断をIT部門だけで下してしまうと、後に禍根を残すケースがあるため、IT以外の専門性を有するメンバーの実質的な参画が不可欠なのである。ただし、彼らがプロジェクトに常駐する必要はないので、プロセスの進捗に応じて参画すればよい。

執筆者プロフィール

石森敦子(Atsuko Ishimori)
株式会社プライド システム・コンサルタント

『出典:システム開発ジャーナル Vol.2(2008年1月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。