下のグラフは、「都知事は誰」という日本での検索についてGoogleトレンドで調べた結果である。6月12日ぐらいから増加し始めて15日にピークに達した。6月15日というと、舛添前都知事が辞表を提出した日である。このグラフを見て、「日本人は都知事が誰かも知らないで舛添批判を繰り返していたのか」と笑われたら納得できるだろうか。間違いなく、15日時点で舛添都知事は最も国民に知られた東京都知事だったはずだ。

舛添前都知事が辞表を提出した6月15日に、日本で「都知事は誰」という検索が増加

Googleトレンドにおいてグラフが上昇しているからといって、必ずしもたくさんの人がその検索を行っているとは限らない。下のグラフは、Googleトレンドで「都知事は誰」という検索と「舛添要一」という検索を比較したものだ。15日前後の「舛添要一」という検索の伸びに比べたら、「都知事は誰」という検索の15日の急増は小さな山でしかない。実際の検索数は分からないが、「都知事は誰」という検索は「舛添要一」の1/100であり、日本人だったら15日時点で「都知事を知らない日本人がたくさんいた」と分析されたら違和感を覚えると思う。

赤いラインが「舛添要一」という検索のトレンド、ほとんど見えない青いラインが「都知事は誰」という検索

幸い日本人は「都知事が誰かも知らずに舛添批判をしていた」と笑われたわけではない。しかし、英国人は実際に笑われている。

国民投票で英国のEUからの離脱が決定したものの、その取り消しを求める署名が伸びているという報道において、EUの仕組みやEU離脱の意味を理解せずに離脱に投票した人が多数いたと指摘されている。きっかけはGooleトレンドの「Brexitの結果が正式発表されてから英国で行われたEUに関する質問トップ5」というツイートである。トップ5は以下の通りだった。

  1. What does it mean to leave the EU? (EU離脱は何を意味する?)
  2. What is the EU? (EUって何?)
  3. Which countries are in the EU? (どの国がEUに加盟している?)
  4. What will happen now we’ve left the EU? (EU離脱で何が起こる?)
  5. How many countries are in the EU? (EUに加盟国は何カ国?)

実際にGoogleトレンドで英国における「What does it mean to leave the EU」という検索を調べてみると、たしかに6月23日に急増している。

国民投票が行われた6月23日をピークに、その前後に「EU離脱は何を意味する」という検索が英国で増加

本当に多くの英国民がEU離脱の意味を知らずに離脱に投票したのだろうか? 私が知っている英国人は皆、ずっと前から国民投票の話題を繰り返していただけに、にわかには信じがたい。

そこでGoogleトレンドで「What does it mean to leave the EU」という検索と「Brexit」という検索を比較してみた。それが下のグラフだ。赤いラインが「Brexit」であり、それに比べると青いラインの「What does it mean to leave the EU」の23日の増加はほんの小さな山でしかない。

青線が「What does it mean to leave the EU」、赤線が「Brexit」

もう一つ「What does it mean to leave the EU」という検索とサッカーの「EURO 2016」という検索を比較した。国民投票の前後はEURO 2016の検索が減少し、6月23日の青いラインの上昇が少し目立つが、それでも「EURO 2016」という検索との差は圧倒的だ。つまり、そういうことなのだ。

青線が「What does it mean to leave the EU」、赤線が「EURO 2016」

EU残留/離脱の国民投票が行われた6月23日には「What does it mean to leave the EU」という検索が普段に比べると多かった。Googleトレンドのグラフは普段との比較で跳ね上がった。だからといって、数多くの人が「What does it mean to leave the EU」という検索を行っていたとは限らない。普段は数件しか行われない検索が、数十件に増えてもグラフは跳ね上がるのだ。実際の「What does it mean to leave the EU」の検索件数は分からないが、「Brexit」や「EURO 2016」のような本当にたくさんの人が検索している検索クエリと比較すると「多くの英国人が離脱の意味を知らなかった」と断言できるほど多くはないことが明らかになる。

Googleトレンドはユニークなサービスで、異なる検索キーワードを比較して流行を知るのに便利なサービスである。それ故に便利な解釈に利用されているところもある。それがEU残留/離脱の国民投票のケースのように、あいまいな解釈で投票の信ぴょう性が疑われては笑い話で済まない。スポーツアナリストのDanny Page氏は、メディアやアナリストなどによるGoogleトレンドのデータのお粗末な解釈をGTFO(Google Trends Freaking Outrage)と表現している。GTFOの一般的な意味は「失せろ」「出て行け」という意味のスラングである。