Synapse 公式Webサイト イメージ

Webコンテンツの消費形態が変わりつつある。「多くのWebコンテンツ=無料で楽しめるもの」といった定義は間違いではないが、「より質の高いコンテンツや体験を獲得するためにお金を払い、主体的に取りにいく」―― そんな層が増えている。

有名人のメルマガや購読に課金が必要なメディアなど、これまでも有料のコンテンツは存在していたが、近年注目を集めるのが「有料コミュニティ(オンラインサロン)」だ。中でも、堀江貴文氏をはじめとする著名人が、続々とサロンを開設するオンラインサロン・プラットフォーム「Synapse (シナプス)」をご存じだろうか?

サロンで主宰者が発信するコンテンツは、月額料金を払うメンバーだけが閲覧でき、その空間の中で議論が行われ、交流が深まっていく。主宰者とファン・支援者たちとの間で、ゆるいつながりが生まれる。

シナプス代表取締役社長の田村健太郎氏が、Synapseをリリースしたのはおよそ3年前のこと。今期で8年目を迎えるが、産みの苦しみを長く味わってきた。大口の取引先に逃亡され、オフィスとメンバーを泣く泣く手放し、借金をして生き延びた辛い時期もあった。

シナプス 代表取締役社長 田村健太郎氏

堀江貴文サロン登場で、一気にブレイク

田村氏 : 本当に、紆余曲折ありましたね。会社を作ったのは2007年4月で、一橋大学3年生の頃でした。取締役兼CTOだった僕と代表と2人で、携帯電話向けの受託開発をメインに、自社サービス開発(Webコミック系サービス)を3年くらい細々とやっていました。リーマンショック直後の景気の悪い時期で、スタートアップを取り巻く環境は厳しかったのを覚えています。

「堀江貴文サロン」公式Webサイト イメージ (スクリーンショット)

ビジネス系のサークルに所属していたため、先輩方から仕事を紹介していただき、助けられていました。一方で納期に追われ、自社サービスの開発が進まず、受託から抜け出せない……といったスタートアップの罠にはまり込んでいましたね。

そんななか代表が海外へ行くことになり、2010年3月から僕一人になりまして、一応会社組織ではあるのですが、実質はフリーランスみたいな働き方をしていました。その頃から徐々にスタートアップ界隈が盛り上がり始め、2011年10月にVCから資金調達し、再スタートを切りました。

この頃にはSynapseの前身となる電子書籍販売サービスの準備が進んでいて、2012年2月にリリースしました。それが上手くいかず、作り直して5月にリリースしたものが、現在のSynapseです。なかなかブレイクせず、地道に運営し続けていましたが、2014年8月に堀江貴文さんに「堀江貴文サロン」を開設いただいたのを機に、サービスが成長し始めました。ユーザー数も2014年7~8月にかけて増加率が5倍くらいになり、有料会員は約6000人になりました(2015年8月19日時点)。

――― Synapseというサービスのアイデアは、いつ思い付いたのでしょうか

少数の人にささる良質なコンテンツを流通させるにはどうすれば良いのか……と試行錯誤していた2011年頃、友人であるブロガーの玉置沙由里(MG)さんから相談を持ちかけられたのが、最初のきっかけです。

当時何度か炎上していた彼女が言うには「自分のことをあまり理解していない人から叩かれやすい。一方で、応援してくれる人はいる」と。そこで、後者の人向けに有料のブログやコミュニティを提供してみてはどうかと、個人的にお手伝いしたところ、けっこうな数の人が集まったんですよ。

玉置さんのコミュニティが盛り上がるのを間近で見ていたので、Synapseの前身となるサービスが上手くいかないとき、玉置さんのと同じ仕組みに切り替えたらサービスとしてスケールするのではないかと考え、できたのがSynapseでした。

良質なコンテンツは、有料が当たり前になる

――― 2012年5月にSynapseがリリースされたとき、同種のサービスは国内外でありましたか?

少なくとも僕がウォッチしている限り、同じようなサービスはありませんでした。コンテンツの定期購読や音楽聴き放題、有料メルマガなどはあっても、オンラインサロンという言論空間(コミュニティ)に対して課金するサービスはなかったですね。

コミュニティに課金する文化は、日本独自のものかもしれません。それでもこのやり方が根付くだろうと僕が確信したのは、少数の人が集まって課金し、対象となる人やものを応援するスタイルにおいて、日本がかなり先進的だと感じたからです。有料メルマガやファンクラブ、ソーシャルゲームなど、そのコンテンツを愛する少数のファンが課金をしていますよね。地下アイドルなんてその最たる例なのかと。

コンテンツが流通する場所に対して "居場所代" としてお金を払う ―― そういった発想自体は昔からあったのではと理解しています。また、一方で、10年以上前からネットに馴染んでいる人には「コンテンツ=無料」という考え方が浸透していると言えるかもしれません。しかし、今の若い人たちを中心にスマホでコンテンツを見るようになった人だと、少し違った感覚を持っているのかなぁと感じています。

たとえば、彼らはスマホアプリには無料版と有料版があり、有料版を選んだほうがより楽しめる、と認識しています。それにこの1~2年の間に、ネット上で何らかのコンテンツに課金した経験のある人はかなり増えています。

そういった意味で、これまでの「コンテンツ=無料」といった捉え方が、今後変わってくることは明らかです。無料のコンテンツばかり消費していると、自分の応援する人が活動を続けるのは難しくなるだろうと、皆気付き始めているんです。

また、ネット上に転がる情報は玉石混交。良質なコンテンツを読みたければ、有料やむなしといった考え方も浸透してくるのではないでしょうか。もちろん質を問わず、単に暇つぶしをしたいだけなら、いくらでも読み物はありますが。課金サービスを運営する僕たちは、暇つぶしにとどまらない上質な体験を作り、提供しなければならないと気を引き締めています。

適正価格でアンチを寄せつけない

――― 課金と一言で言っても、Synapseではサロンによって1,000円~10,000円程度とさまざまですよね。

1,000円、4,000円、8,000~9,000円(すべて月額)あたりの価格帯が多いですね。1,000円だとオンラインでのコミュニケーションがメイン、4,000円だとイベントや集まりへの参加がオプションになり、8,000~9,000円だと毎月参加できるイベントや集まりが用意されている、というふうに、それぞれまったく異なる体験が用意されています。

サロン運営で大事なのは、ユーザーに適切な負荷を与える料金設定にすることです。コンテンツの中身も当然重要ですが、ユーザーの年齢層に見合い、アンチの人が加入しないような価格帯にすることが欠かせません。料金をどれくらいにすべきか、主宰者に対しアドバイスをすることもあります。

昔と比べて全体的に単価が上がっていますが、これは、ユーザーが課金に慣れていったところも大きいのではと推測しています。堀江さんのサロンが登場したことで、相場観がアップデートされたのかもしれませんね。「堀江さんが10000円でやっているから、うちは5000円でやってみようかな」と。

ちなみに今でこそ、堀江貴文さんのほか、最初にサロンをオープンした梅木雄平さんや岡田武史さん、猪瀬直樹さん、はあちゅうさんなど、錚々たる方々にサロンを開設いただいてますが、当初は知人を通じ、関心を持ってくれそうな人に連絡を入れていました。営業をしたこともありますが、あまり成果は出ませんでしたし、そもそも営業のリソースもなかったんですよね。開設してくださった方の紹介で、新たなサロンが生まれることが多かったです。

Synapseにてサロンを開設する方々 Synapse公式Webサイトより(スクリーンショット)

メンバー増員に慎重なのは文化をきちんと作りたいから

――― サービスの運営方針についてですが、サロンメンバーを募集する際になぜ、「第二期メンバー」や「定員◯人」など参加者を制限しているのでしょうか。

オンラインサロンはコミュニティです。リアルのコミュニティを考えてみても、「同期」がいないより、いたほうが断然良いですよね。同じ時期に参加したメンバー同士で連帯感を持てますし、既存のコミュニティに入っていきやすくなりますから。また、コミュニティは、メンバーが急増するとまとまりづらくなるため、適切な定員数を決めています。経験上、30人いればコミュニティとして成立するので、それより多く集めるようにしていますね。

人数を区切るメリットは大きく2つあります。まず、主宰者の目標がクリアになること。告知をがんばって集めきろう、とモチベーションが高くなります。次に、コミュニティの文化を丁寧に作っていけること。新メンバーが100~200人規模で入ると、場の空気も変わりますし、マネジメントも難しくなります。コミュニティ独自の文化が醸成されてから、新メンバーを入れる準備をするのがポイントです。

――― 品質管理はどのようにしていますか? 数年前、ネット上で「更新が滞ってあるサロンもある」と騒がれていましたが。

あの騒動は僕たちにとってターニングポイントになりました。一般的にはコンテンツの更新がストップしてしまった場合、プラットフォーム提供側(運営側)ではなく、主宰者側に責任があると考えられがちですが、僕たち運営側としては主宰者やコンテンツに対し、良い意味で前のめりに関わりたいと思っています。

ちなみに、コンテンツの更新が滞るのには大きく2パターンあり、1つめはメンバーが集まらなくて嫌になってしまうケース。そのため、メンバーが集まりそうにない人は有名無名を問わず、原則として審査を通しません。2つめは、本業が忙しすぎて、投稿する時間が取れないこと。投稿頻度を目視でチェックするのはもちろん、サロン外の活動も含めて主宰者がどういう状況にあるかは、定期的に追いかけていますね。

開設時の審査について詳しくお話すると、基準を厳しめにしています。iPhoneアプリの審査に近いかもしれません。入口を狭くしている分、審査を通過するのは申し込み数の半分以下です。メンバーを集めるには告知がキモになるので、SNSの利用法やホームページを持っているかをはじめ、サロンを運営する準備ができているかどうかをとくによく見ています。

今後の取り組みとしては、9月に新バージョンを公開する予定です。より使い勝手が良く、自由度の高い投稿ができるプラットフォームになります。2015年8月現在、Synapseには100サロンほどありますが、年内に200~300サロンまで増やすのが目標です。