短期集中連載の最後は個人ユーザーやSOHOユーザーを中心とし、QNAPの「Turbo NAS」シリーズ「TS-809」を用いて、実際の活用方法などを解説する。

「TS-809 Pro Turbo NAS」

個人/SOHOユーザーによるNASの役割を踏まえると、一台のNASにどれだけの機能を持たせられるかという点に尽きる。もちろんファイルサーバ機能は備えていて当たり前。最近ならブログをはじめとする個人意見を発信するためのWebサーバ機能も欲しいところだ。また、iTunesやDLNAなどのマルチメディアサーバもあればコンピュータ生活も充実するだろう。通常なら複数のコンピュータを常時起動し、各機能を実現するのだが、設置スペースにも限りがあるだろう。そのため、一台のきょう体にどれだけの機能を兼ね備えられるかが、NASを選択する上で大きなポイントとなるのだ。

個人および、先の諸条件が含まれるSOHOユーザーが選択すべきNASは、ストレスのたまらない高パフォーマンスを打ち出す製品を選びたい。ネットワークとパフォーマンスや各機能のレスポンスは、CPU性能とメモリ容量が大きく影響を及ぼし、安価なNASは最小限のスペックで構成されることが多いため、必然的にネットワークスピードも振るわず、様々なサーバ機能を組み込むとパフォーマンス的な問題が発生してしまうからだ。

その点「Turbo NAS」シリーズは個人/SOHO向けモデルでも、高いレベルのパフォーマンスと多機能性を実現している。もちろん価格は簡易な製品と比べ安くないものの、安易に低価格NASを選んでしまうと「安物買いの銭失い」になってしまうのだ。個人ユーザー向けとしてはややオーバースペックだが、前回に引き続き「TS-809」を用いて、マルチサーバ構築手順を紹介する。

それではWebサーバの構築から行なおう。「Turbo NAS」シリーズに共通して言えるのだが、サーバ機能の有効・無効化は実に簡単。Webブラウザでアクセス管理ページから<Webサーバを有効にする>をチェックオンするだけだ。この際、設定項目と用意されている「register_globals」はそのままにしておこう。同項目はクライアントから送信されたデータをPHPプログラムに変数として受け渡すときの展開方法を指定するものだが、多くのPHPアプリケーションは同項目を必要としないため、初期状態のまま使って欲しい。なお、ファームウェア3.1.2の場合、PHPのバージョンは5.2.9となる。

もう一つの項目<php.iniを編集する>は文字どおり、PHPの設定ファイルの編集を行なうというもの。同項目にチェックを入れると、ローカル上で作成したphp.iniをアップロードする「アップロードする」、テキストボックスで直接編集する「編集する」、内容を初期状態に戻す「修復する」の三種類が選択可能。ほとんどは初期状態で使用できるが、必要な場合はPHPが使用するメモリを設定する「memory_limit」あたりを編集するといいだろう(初期状態は64MB)。

Webサーバを有効にするには、ツリーから<ネットワークサービス>→<Webサーバ>を選択し、<Webサーバーを有効にする>をチェックしてから<適用>ボタンをクリックする

Webブラウザで、「TurboNAS」のマシン名もしくはIPアドレスにアクセスするとWebサーバが有効になったことを確認できる

コンテンツファイルのアップロードやFTPなどが使用できる。「TurboNAS」の「Qweb」ディレクトリにアクセスし、ファイルをアップロードすれば良い

なお、Webサーバのメインディレクトリは「Qweb」フォルダだが、FTPサーバによるアップロードだけでなく、同フォルダをネットワークドライブとして割り当てることも推奨している。Windows OSユーザーにはこちら方が簡単だが、Webコンテンツの公開にはパーミッションへ気を配らなければならないため、FTPクライアントの併用をお勧めしたい。なお、「TurboNAS」ではWebサーバとしてApache2を採用。同ファームウェアではバージョン2.2.6が用いられていた。

もう一つは「Qweb」フォルダをネットワークドライブとして割り当てる方法。「Qweb」フォルダを右クリックし、メニューから<ネットワークドライブの割り当て>をクリックする

設定画面が表示されたら、必要に応じてドライブ文字を変更すると良い。通常はそのまま<完了>ボタンをクリック。なおユーザーおよびパスワードの入力をうながされた場合、「TurboNAS」上に作成した情報を入力する

これで各ドライブが並ぶコンピュータに「ネットワークの場所」というカテゴリが設けられ、「Web」フォルダがネットワークドライブとして並ぶ

これだけの手順でWebサーバ+PHP実行環境が構築できたが、前述したブログ環境にはまだ手が届かない。多くのブログアプリケーションはデータベースサーバを必要するため、事前にデータベースサーバを導入しなければならないからだ。「TurboNAS」にはデータベースサーバとして、MySQLが用意されているものの、今回試用したファームウェアは、そのままでは有効にできなかった。そもそも「TurboNAS」シリーズは比較的コンスタントにファームウェアを更新し、既存バグの修正や新機能の追加が行なわれている。「TurboNAS」シリーズを活用するのであれば、ファームウェアの更新作業は欠かせないので、簡単に手順を紹介しておこう。

ツリーから<アプリケーション>→<MySQLサーバ>を選択すると、ファームウェアの更新をうながされる

管理ページにあるRSSフィードから、最新のファームウェア情報をクリックする

ファームウェアのダウンロードページが開くので、最新版をダウンロードする

ダウンロードしたファームウェアはZIP形式で圧縮されているので、事前に展開してから、<システム管理>→<ファームウェアの更新>をクリックして開き、<参照>ボタンでファームウェアファイルを選択。<システムのアップデート>ボタンをクリックすると確認をうながされるので<OK>ボタンをクリックする

ファームウェアのアップロードと更新を終えると、「TS-809」の再起動をうながされる。<OK>ボタンをクリックして再起動を実行しよう

「TS-809」が再起動し、管理画面に正しくアクセスできればファームウェアの更新は完了だ。画面下部ファームウェアバージョンが表記されているので確認して欲しい

ファームウェアの更新を終えたら、MySQLを有効にする。この際<TCP/IPネットワークを有効にします>という項目があるが、これは外部からMySQLサーバにアクセスする際に用いられる。ただし、多くのアプリケーションがMySQLサーバにアクセスする際も、ポート3306を用いるため、あらかじめ有効にした方が確実だ。MySQLサーバを有効にしたら、phpMyAdminも一緒に導入しよう。phpMyAdminとは、PHPベースで作成されたMySQLを管理するアプリケーションだ。

そもそも「TurboNAS」シリーズでは、独自のパッケージ管理システムとして「QPKG」を用意している。QNAP社が用意したパッケージを入手すれば、数ステップの操作で導入から有効化まで行なえるというものだ。Linuxディストリビューションの長所としてパッケージ管理システムが挙げられるが、それと似たロジックを「TurboNAS」シリーズも備えている。

なお、下記の画面では選択できるパッケージが少なく見えるが、パッケージ「Optware IPKG」を導入することで、組み込みデバイス向けに設計されたパッケージシステム「IPKG」が使用可能になる。これらはsshで接続したコンソールから導入するため、コマンドライン操作に不慣れな方にはハードルの高い作業となるが、「TurboNAS」シリーズを活用する上では覚えておきたい機能だ。

再度ツリーから<アプリケーション>→<MySQLサーバ>を選択し、<MySQLサーバを有効にします>と<TCP/IPネットワークを有効にします>をチェックして<適用>ボタンをクリック

先の画面にあるリンクをクリックすると、QPKGプラグインのページが開くので、<QPKGの取得>ボタンをクリックする

別ウィンドウでパッケージリストが表示されるので、一覧から「phpMyAdmin」をクリックし、「ダウンロード」にあるリンクをクリックする

ダウンロードしたパッケージはZIP形式で圧縮されているので、あらかじめ展開し、<インストール>タブにある<参照>ボタンをクリックして選択したら、<インストール>ボタンをクリック

確認をうながすメッセージが表示されたら<OK>ボタンをクリック。パッケージの導入は数十秒で終わり、完了を示すメッセージが表示されるので<OK>ボタンをクリック

これで<QPKGインストール済み>タブには、導入済みのパッケージが並ぶ

パッケージアイコンをクリックすれば、パッケージのバージョンや導入先、アクセス先などが表示される

同様の手順でWordPressのパッケージをダウンロードし、「TS-809」に導入する

これでデータベースサーバとなるMySQL、ブログアプリケーションのWordPressの導入が完了した

MySQLとWordPressのパッケージを導入し、各種初期設定を終えれば、もうブログ環境の完成となる。唯一のおしい点はQNAP社が配信するWordPressのパッケージが英語版という点。WordPress日本語ローカルサイトで日本語版を配布していることからもわかるように、WordPressを日本語化するにはちょっとした操作が必要となる。そのため日本語環境で使用したい場合は、QNAPのパッケージを導入せず、日本語版WordPressをあらかじめ用意した方がスマートだろう。

「http://{TS-809のマシン名もしくはIPアドレス}/phpMyAdmin/」にアクセスし、ユーザー名は「root」、パスワードは初期状態なら「admin」を入力して管理画面にアクセスする

phpMyAdminにアクセスしたら<特権>タブでデータベースの操作を行なうユーザーを一つ作成しておこう

「http://{TS-809のマシン名もしくはIPアドレス}/wordpress/」にアクセスし、各種設定を行なう

これでWordPressが使用可能になる。残念ながらパッケージの内容は英語なので、日本語で使用する場合は、WordPress日本語ローカルサイトから日本語版をダウンロードし、手動で導入しよう

次はiTunesサーバの構築を行なう。「TurboNAS」では「Qmultimedia」フォルダに格納した音楽ファイル(MP3/M4A/M4P/AIF/WAVE形式)をiTunesの共有機能で参照できる。こちらはあらかじめ組み込まれているfirefly(mt-daapd)を有効にするだけの設定だ。iTunesサーバが有効になると、同じサブネット内にあるクライアント(iTunes)から、「TS-809」の「Qmultimedia」フォルダに格納した音楽ファイルが再生可能になる。

iTunesサーバを有効にするには、ツリーから<アプリケーション>→<iTunesサービス>を選択し、<iTunesサービスを有効にする>をチェックしてから<適用>ボタンをクリックする

後はクライアントとしてiTunesを起動すれば、「共有」に「TS-809」のマシン名が表示されるので、通常のライブラリと同じく音楽ファイルを再生すれば良い

最後はUPnPメディアサーバの構築を行なう。同機能自体は目新しいものではなく、様々なプロトコルや実装を用いたアプローチが行なわれてきたが、ここで言うUPnPメディアサーバとは、家庭内などのメディア配信に用いられるDLNAサーバのこと。「TurboNAS」シリーズではDLNAサーバとして、TwonkyMediaを実装し、音楽ファイルや動画ファイル、画像ファイルのネットワーク配信を実現している。

ほかのサーバ機能と同じく、ユーザーが操作する箇所は最小限に限られているため、DLNAに関する知識を持たない方でも、Windows Media Player 11以降やPlayStation3などDLNAクライアントを用いれば、「TS-809」の「Qmultimedia」フォルダに格納したメディアファイルをリビングなど離れた場所で楽しめる。なお、TwonkyMedia自体の設定はWebページから操作可能だ。

UPnPメディアサーバを有効にするには、ツリーから<アプリケーション>→<UPnPメディアサーバ>を選択し、<UPnPメディアサーバを使用>と<この機能を有効にしてから~>をチェックしてから<適用>ボタンをクリックする

Windows OSからWindows Media Playerを起動すれば、「その他のライブラリ」に「TS-809」のマシン名が表示される。後は通常のライブラリと同じく音楽ファイルや動画ファイルを再生すれば良い

「http://{TS-809のマシン名もしくはIPアドレス}:9000/」にアクセスすると、UPnPメディアサーバとなるTwonkyMediaの設定が可能になる

以上で三回にわたった「TurboNAS」のレビューを終えるが、用途や使用人数などシチュエーションに沿ったモデルを正しく選択すれば、有用なNASとして運用できることをご理解頂けたはずだ。企業ならともかく個人向けNASとして「TS-809」はオーバースペックなため、個人ユーザーの場合は2ベイから4ベイクラスの「TurboNAS」製品を選択すれば、コンピュータの設置場所を探すこともなく、多機能なNAS環境を享受できる。SOHOユーザーならば複数のコンピュータを常時起動する必要もなくなり、ランニングコスト面でも有利になるだろう。

繰り返しになるが、よくある安価なNASは購入してから機能面やパフォーマンス面で不満が残り、結果的に買い換えることになってしまう。それなら定評があると同時に、機能性でも優れている「TurboNAS」を選べば、決して損することはないだろう。

コラム1 ~ 気になる消費電力は?

家庭やSOHO環境で機材を運用するときに、ちょっとだけ気になるのが消費電力である。QNAP社の公式サイトには各モデルの比較スペックが掲載されているが、実測値として計った結果も紹介しよう。各数値は「TS-809」各動作状態をワットチェッカで計ったものだ。結果はご覧のとおりリンク先にある数値とほぼ大差なく、個人で使用する場合は負荷もかかりにくいため、最大値はさほど高くない。

アイドル時およびディスクチェック時の平均値となる「53.5W」を24時間30日、kWh単価を19円で計算した場合、731.88円となる。これならコンピュータを一台使い続けた場合とさほど変わらないだろう。電気代が気になる方は、必要時だけ「TurboNAS」の電源を投入するWake on LANを用いると良い。TS-239Pro以上のモデルなら同機能をサポートしているため、必要時のみNASを運用するスタイルでも十分活用できるだろう。

「TS-809」の主な消費電力(HDD×4台搭載の環境)

コラム2 ~ 本格運用ならラックマウント型もお勧め

一定規模以上の企業なら専用ラックに設置するためのラックマウントモデルもお勧めだ。コンピュータ機材は一カ所で運用した方が効率も良いため、スイッチングハブや既存サーバを専用ラックで運用している企業も少なくない。また、最近のiDC(インターネットデータセンター)では、ラックマウント型サーバの方がトータル的に安く設置できる場合もある。

2Uラックマウントの「TS-809U-RP」

「TurboNAS」シリーズにも、ラックマウントモデルが用意されており、SOHOレベルのTS-419から、最上位モデルのTS-809U-RPまで種類も豊富。設置もTS-4xxシリーズは1U(ユニット)のため、スペースを取ることはない(TS-809U-RPは2U)。「TurboNAS」の優位性を理解した企業が、既存のサーバと入れ替えることを想定するのであれば、ラックマウントモデルも対象視野に含めるべきだろう。