ビジネスシーンにおけるNASの役割を踏まえると、利便性もさることながら、"質実剛健"といった堅ろう性の方が重視される。家庭なら静音性が重視されるが、会社でNASを用いるのであれば、安定動作やメンテナンスフリーをいかに実現するがポイントだ。例えばQNAPの「Turbo NAS」シリーズでも、4台以上のベイを備えるモデルには、一台めのHDDが故障すると同時に、予備のHDDが起動する「Hot Spare」機能が備わっている。自動的に残ったHDDと新たに起動した予備HDD間で、RAIDの再構築が行なわれるため、データの安全性をより強固なものにできると同時に、ディスク交換の手間を軽減できる優れた機能だ。
データの安全性を支えるRAID機能も注目ポイントの一つ。RAIDは複数のHDDを組み合わせ、一台の仮想HDDを運用する技術だが、「Turbo NAS」では、モデルによって対応するRAIDシステムが異なる。例えば個人向けモデルとなる「TS-210」は2ベイのため、RAID 0/1のみだが、今回使用する「TS-809」は8ベイを備え、RAID 0/1/5/5+Spare/6をサポート。RAIDに似た構成となるJBODもサポート済みだ。今回はこの「TS-809」を用いて、企業内のマルチサーバ構築手順を紹介する。
それでは実際に「TS-809」のセットアップから始めるが、正直なところ難しい手順は何もない。HDDをトレイにネジ付けし、そのトレイをNASのきょう体に差し込んで、鍵をかけるだけ。後はLANケーブルと電源ケーブルを所定の場所に接続すれば、もう電源スイッチを押すだけだ。
次は内部のセットアップ。同NASのセットアップには二種類の方法が用意されている。一つめはきょう体全面にあるLCDボタンを使って、HDDのフォーマットとRAID構築を行なうというもの。コンピュータを必要としないため、初期状態のままセットアップし、後述するWeb UI(ユーザーインタフェース)で設定を行なう方向けだ。もう一つが付属のQNAP Finderを用いる方法。Webブラウザ経由のクイック設定ウィザードを使用するか、同ツールの設定ダイアログからセットアップを行なう方法のいずれかを選択できる。今回は「Turbo NAS」に不慣れな方でも簡単にセットアップを実行できるウィザード手順を紹介しよう。
下記に示した画面のとおり、同ウィザードはWebブラウザに表示される項目に答えるだけで、セットアップが済んでしまう簡単設計だ。最初に設定する項目も少なめなので、社内への設置も簡単に行なえるだろう。ただし、二つほど注意すべき点がある。一つめはネットワーク設定。同ウィザードはDHCPサーバからIPアドレスを自動取得するため、そのまま使用できるが、本来サーバのIPアドレスが動的になると様々な不便が発生するため、固定IPアドレスの方が好ましい。
もちろん「TS-809」では固定IPアドレスの設定項目が用意されているが、サブネットマスクやゲートウェイなどネットワークに関する知識が必要だ。そのため、「TS-809」のネットワークデバイスに付加されているMACアドレスをネットワーク管理者に報告し、IPアドレスの固定化を申請した方が良いだろう。
もう一つはRAID構築の待ち時間。そもそもRAIDの初期化というのは時間がかかるものだが、HDD容量の肥大化も相まって、初期化に要する時間は数年前よりかかると思っていた方が良い。今回は1.5TB×2、1TB×2のHDD構成でEXT3/RAID 5を構築したが、丸一日かかってしまった。そのため、出社後にHDD初期化およびRAID構築を行ない、次の日に出社してから各種設定を行なうようなスケジュールを想定して取り組むと良いだろう。ちなみにウィザードに表示されるプログレスバーはRAID構築が完了するまで「20%」のまま止まってしまうが、本体のLED(システムステータス)が、緑/赤と交互に点滅する場合は異常ではないので、ご安心頂きたい。
付属するセットアップCD-ROMから「QNAP Finder」を導入し、同アプリケーションを実行すると、LAN内にある「TS-809」を検出できるので、同NASを選択して<接続>ボタンをクリック |
クイック設定ウィザードによるセットアップをうながされるので、<はい>ボタンをクリックする |
同ウィザードがWebブラウザを用いて実行する旨の説明がなされるので、そのまま<OK>ボタンをクリック |
ちなみに「QNAP Finder」にある<詳細>ボタンをクリックすると、現在のネットワーク状態や接続しているHDDの内容を確認できる |
標準Webブラウザが起動し、「TS-809」のセットアップページが表示されるので、そのまま<継続>ボタンをクリック |
最初はNASマシン名の設定。初期状態では「NASBExxxx」といったランダムな名称が付けられるので、LAN内のルールに従った名称に書き換えてから、<継続>ボタンをクリックする |
HDDの初期化を実行して良いか確認をうながされるので、<決定>ボタンをクリックして初期化を実行する |
これで各設定が順次「TS-809」に行なわれる。HDDの初期化は選択したRAIDタイプやディスク容量によっては、数十時間かかる場合もあるので、そのままほかの業務にいそしむと良い |
なお、前述のHDD初期化およびRAID構築が、いつまで経っても終わらない場合、HDDに物理的エラーが発生している可能性もぬぐいきれない。Turbo NASにはディスクのエラーを検知する機能が備わっているが、後述する管理画面からしか実行できないため、初期化およびRAID構築が終わらないと不安に感じる方もおられるはず。その際は先にシステムの設定を終えてから、HDDに対する操作を行なっても良い。
「QNAP Finder」で目的のTurbo NASを選択し、<設定>ボタンをクリック。管理者パスワードの入力し、<OK>ボタンをクリックする |
ウィザードと同じように各種設定をタブ単位で実行するため、個別に紹介していこう。最初の<サーバー名>タブでは、テキストボックスに新たなサーバ名を入力する |
次の<日/時>タブでは、タイムゾーンおよび日時の設定を行なう。必要な場合はNTPサーバへの自動接続設定を同時に行なっても良い |
<パスワード>タブでは、管理者パスワードの設定を行なうが、<オリジナルのパスワードを使用>にチェックを入れておけば、初期パスワードをそのまま使用できる |
「TS-809」のセットアップが完了したら、Webブラウザで設定ページにアクセスしてみよう。「Turbo NAS」シリーズがほかのNAS製品と比べ、特に優れているのがこのWeb UI。日本語にローカライズされているのは当たり前としても、Java Scriptを用いたフロービューはNAS機能と直結しないものの、ちょっとリッチな気分を味わえる。
管理画面の全体構成は、左ペインに各機能がツリー状に並び、右ペインに選択した項目の状態や設定項目が並ぶという一般的なスタイル。ホームページには主な設定項目のショートカットアイコンと、ファームウェアやツールの新着情報を示す領域が用意されている。特にファームウェアは、使用中のTurbo NASに対するバグフィックスや新機能に直結するだけに、有用な情報となるだろう。なお、同新着情報はWeb上から取得しているので、RSSクライアントを用いて購読することも可能だ。
それでは具体的なサーバ構築に取りかかろう。もっとも使用頻度の高いファイルサーバからだが、サーバ構築の前に必要なのが、ほかのコンピュータからアクセスを可能にするユーザーの存在。SOHOなど小規模な環境であれば、個別にユーザーを作成するのも簡単だが、その数が十を超えると自動化したくなるはずだ。そこでお勧めなのが「マルチユーザの作成」機能。ユーザー名の接頭辞や番号、ユーザー数を指定することで、半自動的にユーザーを作成するというもの。実に便利な機能だが、パスワードのランダム生成機能が用意されていないため、必要であれば管理者はパスワードの変更を各ユーザーに指示すべきだ。
ホームページにある<マルチユーザーの作成>ボタンをクリックすると、複数ユーザーを一括作成する同名の機能が起動する。最初に<継続>ボタンをクリック |
「ユーザー名接頭辞」はユーザー名の頭文字、「ユーザー名のスタート番号」は連番の先頭数字、「ユーザー数」は作成するユーザー数、「パスワード」「パスワードの再入力」は6文字以上の適当なパスワードをそれぞれ入力し、<継続>ボタンをクリック |
次は各ユーザー用の個人フォルダを作成するか選択をうながされるので、フォルダを作成する場合は<はい>、作成しない場合は初期状態のまま<いいえ>を選択した状態で<継続>ボタンをクリックする |
これで設定した数だけユーザーが自動的に作成される。完了後は<終了>ボタンをクリックしよう |
ユーザーの準備を終えたら、ファイルサーバの構築に取りかかろう。もっとも「TS-809」セットアップ時に「ファイルサーバー」を選択していれば、自動的に有効になっているため、後から設定を行なう必要はないが、初期状態ではワークグループになっているので、社内で使用しているワークグループ名に書き換えてから使用して欲しい。
また、社内にActive Directoryサーバを設置している場合、「TS-809」をADドメインメンバーとして、ADサーバに接続させた方がユーザー管理やセキュリティ設定を気にすることがないため、事前にネットワーク管理者の承諾を得て、接続設定を行なおう。なお蛇足だが、Turbo NASのファイルサーバはオープンソース系で定評のある「Samba」を採用している。
一方、LAN内にWindows OS以外のコンピュータがある場合、追加設定が必要となるだろう。Mac OS XマシンでAppleTalkを用いる場合は「Appleネットワーク」を有効にすれば良い。ただし、現行のMac OS X 10.6ではAppleTalkも廃止されているため、可能であれば無効にしたまま使用した方が、LAN内のトラブルも軽減できるだろう。Linuxマシンの場合は「Unix/Linux NFS」を有効にすればNFSが有効になるので、それぞれ必要に応じて設定して欲しい。
設定画面が表示されたら、必要に応じてドライブ文字を変更すると良い。通常はそのまま<完了>ボタンをクリックする |
これで各ドライブが並ぶコンピュータに「ネットワークの場所」というカテゴリが設けられ、「TS-809」の共有フォルダがネットワークドライブとして並ぶ |
ファイルサーバの構築を終えたら、重要なデータを保護するためのバックアップ設定を行なおう。「TS-809」では、USBポートに接続したデバイスに対して、内蔵デバイスのデータをバックアップする「外付けデバイス」、内蔵デバイスの内容をきょう体全面にあるUSBに接続したデバイスにコピーする「USBのワンタッチコピーバックアップ」、ほかのNASにネットワーク経由でバックアップを行なう「リモートレプリケーション」の3種類が用意されている。
これらのなかでもお勧めなのが「外付けデバイス」のバックアップ方法。「リモートレプリケーション」を用いた方が安全性も高まるものの、もう一台NASを用意しなければならないため、初めてNASを導入するシチュエーションを踏まえるとハードルも高まってしまう。その点「外付けデバイス」なら、USB外付けHDDを「TS-809」に接続するだけでバックアップ環境を構築できるため、気軽に使用できるだろう。
また、「USBのワンタッチコピーバックアップ」も似たような機能だが、あくまでも一時的バックアップとして用いるものであり、定期的なバックアップを必要とするケースでは運用しづらい。そのため「外付けデバイス」のバックアップ機能が必須となるのだ。なお、「Turbo NAS」には、内蔵デバイス間でバックアップを行なう機能は用意されていない。
もちろん手動やスクリプトを用いてバックアップ環境を構築することもできるが、RAIDで冗長化する以上、そのメリットは少ない。本来バックアップとは、物理的に異なるデバイスに対して取るのがもっとも安全なため、内蔵デバイス間のバックアップ機能が備わっていなくとも、大きな問題にはなると言えないだろう。
バックアップのスケジュール設定は、内蔵デバイスの内容を「コピー」もしくは「同期」する2種類の方法が用意されており、いずれかを週および分単位で実行できる。前者の方が冗長性も高まり、ユーザーが誤って削除してしまったファイルの復元も簡単なように思えるが、そもそも「Turbo NAS」のファイルサーバには、削除したファイルを「Network Recycle Bin」に移動する機能が備わっているため、後者の同期を用いた方がメンテナンス性も向上するだろう。
USB-HDDを「TS-809」に接続し、ツリーから<外付けデバイス>→<外部記憶装置>を選択し、一覧に現われたデバイスを選択する。「名前を付けてフォーマット」のドロップダウンリストからお好みのファイルシステムを選択して<今フォーマットする>ボタンをクリック。確認をうながすメッセージが表示されるので<OK>ボタンをクリックする |
USB-HDDのフォーマットを終えたら、ツリーから<データのバックアップ>→<外付けデバイス>を選択し、バックアップ対象となるディレクトリを矢印ボタンで選択する。「バックアップ方式」で「スケジュールバックアップ」を選択して、実行曜日および時刻を選択。「コピーオプション」で「同期」を選択してから<適用>ボタンをクリックすれば、バックアップ設定完了となる |
オフィスでの「Turbo NAS」運用を踏まえると、プリンタサーバも必要だろう。もっとも難しい操作はまったくと言って良いほど必要なく、きょう体背面にあるUSBポートにプリンタを接続すれば、共有フォルダと同じようにプリンタが現われるので、通常のプリンタと同じくデバイスドライバを組め込めば使用可能になる。
きょう体背面にあるUSBポートにプリンタを接続し、ツリーから<外付けデバイス>→<USBプリンタ>と選択すれば、自動的にプリンタに対する名称が割り当てられたことを確認できる |
後は共有フォルダ経由で「TS-809」にアクセスすれば、プリンタが現われるはずだ。Windows 7の場合、プリンタをダブルクリックすればデバイスドライバの導入を経て使用可能になる |
前回述べたiSCSIの使用も至極簡単だ。Turbo NASの管理画面からホストとなるiSCSIターゲット機能が有効になっているか確認し、新規にターゲットを作成するだけである。Windows Vista以降のWindows OSには標準でiSCSIイニシエータが用意されているが、Windows 2000/XPはMicrosoftのダウンロードセンターから、Microsoft iSCSI Software Initiatorの導入が必要となる。お使いのOSにあわせてiSCSIイニシエータの設定を終えれば設定完了だ。
確認や構成内容の確認をうながすダイアログが起動するので、必要な操作を行なってから<OK>ボタンをクリックする。これで設定完了だ |
今度は「コンピューターの管理」に並ぶ<ディスクの管理>を呼び出すと、iSCSIターゲットを新規ディスクとして検出した旨を示すダイアログが起動する。必要なパーティションスタイルを選択して<OK>ボタンをクリックしよう |
これで通常のHDDと同じ操作が可能になるので、ボリュームを右クリックし、メニューから<新しいシンプルボリューム>を選択してウィザードを起動。後は画面の指示に従って初期化を進める |
初期化完了後はローカルディスクと同じ扱いでiSCSIターゲットLUNが「コンピューター」に並ぶ |
ビジネスを側面から支援するはずのNASが、導入時に煩雑な手間を必要としてしまっては身もふたもない。その点「Turbo NAS」シリーズのNASなら、ビジネスシーンで役立つ様々な機能も簡単な操作で有効になることがおわかり頂けただろう。
確かに「Turbo NAS」は、ほかの一般的なNAS製品と比較すると高価だが、その価格差を埋めるだけの高いユーザビリティや、堅ろう性を保持している。ビジネスの効率性を向上させるには、側面的な道具が必須だが、「TS-809」ならその一翼を担えるはずだ。
コラム ~ ファイルサーバのパフォーマンスをチェック ~
NASのパフォーマンスは実作業に大きく影響を及ぼすため、「TS-809」を中心にネットワークパフォーマンスを計るベンチマークを行なってみよう。ファイル共有(Samba)のパフォーマンスは、ひよひよ氏の「CrystalDiskMark」を使用し、ネットワークドライブとして割り当てたドライブのパフォーマンスを3回測定した結果を掲載している。FTPのパフォーマンスは、各Turbo NASのFTPサーバに、Windows 7のftp.exeで接続。1GBのファイルをアップロード/ダウンロードし、3回の測定結果をまとめたものだ。なお「TS-809」「TS-219P」いずれも、RAID0で構成した7200rpmのHDDを使用。クライアントは下記囲みのコンピュータを使用している。
【Sambaテスト - 4KBおよび4KB(QD32)ランダムリード/ライト】 |
結果はご覧のとおり「TS-809」の圧倒的な結果となった。全体的な数値が伸び悩んでいるのは、筆者の環境にあるハブが個人向けの機材であり、パフォーマンス低下の一因となっていると推測する。いずれにせよ、これだけの数値が出れば、業務を阻害しない快適なスピードに十分達している。安価なNASを増やすよりも「TS-809」のようなハイパフォーマンスNASを導入した方が、コスト面でもお得と言えるだろう。
■クライアントマシンのスペック | |
CPU | Intel Core 2 Quad Q9550 |
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メモリ | 8GB |
マザーボード | GIGABYTE EP45-UD3P |
HDD | Hitachi HDT721010SLA360 |
ネットワーク | オンボード(Realtek 8111C) |
OS | Windows 7 64ビット版 |