今、数万円の予算があるならば、NASに投資すべきだ。新たにコンピュータを導入するよりもメリットが大きく、その費用対効果は何倍にもなるからだ。

NASがもたらすメリットとは

そもそもNASとは、Network Attached Storage(ネットワークアタッチドストレージ)の略で、HDD(ハードディスクドライブ)などのストレージデバイスと、デバイスを制御するコントローラを組み合わせたハードウェアである。独自カスタマイズを施したOSを搭載し、主にファイルサーバとして使用するのが一般的だが、種類によってはプリンタサーバやメディアサーバとして動作するNASも存在する。

一口にNASと言っても、サーバ然としたラックマウント型(写真左)から、デスク上に置けるようなミニタワー型(写真右)まで、ハードウェアの形態だけでも様々なタイプのものがある

もちろん余ったコンピュータにLinuxなど軽快なOSを導入することで、ファイルサーバを自作することも可能だが、通常のコンピュータは、サーバのように連続運用するように設計されておらず、経年劣化などハードウェア的な不安も大きい。また、OSのセキュリティホールを含めたメンテナンスも面倒だろう。その点NASなら、きょう体はコンパクトながらも前述のようなデメリットも存在しない。手軽にファイルサーバのアドバンテージを得られるのは、ほかのものに代えがたい魅力と言える。

今度はNASを使用するシーンを想定してみよう。中小企業や大企業といった法人によるNASの導入は、業務面の効率化が実に大きい。その理由として挙げられるのが「リスクの軽減」。通常であれば、社員がそれぞれ管理するコンピュータにデータを格納するが、それはデータの散乱による情報の重複と、情報の入出先が増えることでのリスクを抱えてることになる。だがNASを導入すれば、データを一括管理できるため、前述のようなリスクを軽減できるだろう。

もう一つのメリットが「コスト軽減」。どのような場面でもバックアップは重要だが、個人のクライアントコンピュータや共有サーバに対して行なうバックアップ工数は、コンピュータの数だけ増えてしまう。また、それぞれのOSライセンス費用やメンテナンス費用、Microsoft製サーバであればCAL(クライアントアクセスライセンス)費用も発生するはずだ。その点、NASをファイルサーバに仕立てる場合、バックアップを必要とするのは、そのファイルサーバだけとなるため、必然的に工数も軽減する。また、多くの場合NASのOSはLinuxもしくは*BSDをベースに独自カスタマイズを加えたものが採用されるため、OSのメンテナンスやクライアント費用は事実上皆無と言っても過言ではないだろう。

ホームユースでの利用も想定した個人向けNASの例。見た目だけでは外付けHDDと区別がつかないだろう

一方、個人ユーザーによる使用シーンを想定すると、生活の中心にコンピュータがある場合、NAS導入によるメリットはPCライフを今以上に充実させるはずだ。NASに音楽ファイルや動画ファイルを格納しておけば、いつでもどのコンピュータからでも、メディアファイルを再生できる。また、最近のNASにはDLNA(Digital Living Network Alliance)のサーバ機能を備えているため、特定のTVやPLAYSTATION 3といったDLNAプレーヤーをリビングに設置すれば、NASに格納したメディアファイルを楽しむことも可能だ。

NASをファイルサーバ化した通常のコンピュータと比べると、きょう体のコンパクトさも魅力の一つ。特にご自宅では駆動音の大きいデスクトップコンピュータをファイルサーバ化するのは、騒音や電力といった面でも厳しいものがある。その点NASなら、コンピュータと比べて消費電力も少ないため、24時間連続駆動でも安心だ。なお、一般的なNASならプリンタ共有機能を備えているため、お使いのプリンタをNASに接続すればプリントサーバとなり、NASがWebサーバ機能を備えていれば、ルーターの再設定は必要ながらも、外出先からNASに保存したデータを参照することもできる。

高品質のNASを選択すべき

さて、NASと呼ばれる製品は2000年以前から存在しており、現在のように普及した要因の一つにネットワークの普及がある。標準でTCP/IPを搭載したWindows 95により、コンシューマレベルでネットワークが普及し、当時は高価だったコントローラのチップも少しずつ安価になり始めた。そして、NASが注目を集めるようになった最大の理由が、ネットワークスピードの向上。一般的な100BASE-TXの場合、実測値として8MB/秒程度だが、1000BASE-Tでは20MB/秒という実測値が出るようになり、データをネットワーク上に置いても、さほど遅さを感じなくなっていたからだ。

このような理由で注目を集め始めたNASだが、最近のトレンドは多機能化にある。前述のとおりNASのOSは独自カスタマイズを施したLinux/*BSDだが、各OSで動作するWebサーバやメディアサーバを実装することで、様々な役割を担うことが可能になってきた。その分、ハードウェア的なポテンシャルも求められるようになり、数年前は比較的安価なARMアーキテクチャが主流だったが、最近ではIntelのAtomなどコンシューマ向けコンピュータでも使われるCPUが搭載されることも。ハードウェアの向上はパフォーマンスにも寄与し、複数ユーザーがアクセスした際の転送レート低下を未然に防いでくれる。

このようにハードウェア性能の向上や多機能性が進むNASだが、企業向けNASとしては「iSCSI」も必須機能となりつつあるだろう。そもそもiSCSI(Internet Small Computer System Interface)は、従来のコンピュータで使われていた周辺機器とデータのやり取りを行なうSCSIをTCP/IPに対応されたものだ。なじみ深いところではWindows XPも同機能をサポートしており、パッケージを導入することで、iSCSIターゲットに接続するイニシエータサービスなどが有効になる。

iSCSIの魅力はネットワークリソースをローカルディスクとして使用できる点。一般的なファイルサーバとは異なり、NAS上のiSCSIターゲットをあたかも自分のローカルディスクのように扱えるため、ディスクレス環境の構築も可能だ。サーバとして見ればネットワーク構成の変更も容易になるため、iSCSIをサポートするNASを導入すれば、安価にストレージネットワークを構築できるだろう。

このように多機能化が進むNASだが、問題はどの製品を選択するかである。筆者も個人向けNASを色々と試してきたが、価格が安い製品はそれなりに、一定の価格を超える製品はやはり機能面や堅牢性といった面で安心できるものが多かった。なかでもQNAPのNAS製品「Turbo NAS」は両者を備えており、金銭事情が許せば、すべてのNASを置き換えたいぐらいである。

同社はIT機器に強い台湾に本社を置いているが、日本に正規代理店があるため、万が一の故障時の対応も代理店経由で対応可能だ。また、ユーザーコミュニティが充実しており、英語ベースではあるが公式Wikiを参照することで、ちょっとしたトラブルやカスタマイズも楽しめる。疑問があれば各国語版を用意した公式フォーラムも役立つだろう。

強いて欠点を述べれば製品ラインナップが多く、購入対象となるモデルが判断しにくい点。型番の先頭にある「TS」はブランド名でもある「Turbo NAS」の略称で、それに続く三桁の数字が主な機能を表わしている。最初の百桁はドライブベイの数を表わし、残りの十桁と一桁がバージョンや機能を意味しているのだ。例えばRAID1を組んだファイルサーバーを構築したいのであれば、「TS-2xx」以上のモデルを選択すれば良い

主な「Turbo NAS」のポジショニング

■主な「Turbo NAS」の主要スペック
型番 SATA
ベイ
CPU 動作
周波数


L
A
N
U
S
B
e
S
A
T
A
















TS-239 Pro II 2(3.5") Atom D410 1.66GHz 1GB 2 5 2 15W 22W
TS-439 Pro II 4(3.5") Atom D410 1.66GHz 1GB 2 5 2 19W 33W
TS-259 Pro 2(3.5"/2.5") Atom D510 1.66GHz 1GB 2 5 2 16W 25W
TS-459 Pro 4(3.5"/2.5") Atom D510 1.66GHz 1GB 2 5 2 19W 35W
TS-509 Pro 5(3.5") Intel Celeron 1.6GHz 1GB 2 5 1 39W 63W
TS-559 Pro 5(3.5") Atom D510 1.66GHz 1GB 2 5 2 22W 44W
TS-659 Pro 6(3.5"/2.5") Atom D510 1.66GHz 1GB 2 5 2 22W 43W
TS-809 Pro 8(3.5") Core 2 Duo 2.8GHz 2GB 2 5 - 42W 81W
TS-859 Pro 8(3.5"/2.5") Atom D510 1.66GHz 2GB 2 5 2 30W 59W


&
S
O
H
O

TS-110 1(3.5") Marvel 6281 800MHz 256MB 1 3 1 5W 6W
TS-119 1(3.5") Marvel 6281 1.2GHz 256MB 1 3 1 5W 11W
TS-210 2(3.5") Marvel 6281 800MHz 256MB 1 3 1 11W 14W
TS-219P 2(3.5"/2.5") Marvel 6281 1.2GHz 512MB 1 3 2 5W 21W
TS-410 4(3.5"/2.5") Marvel 6281 800MHz 256MB 2 4 2 12W 20W
TS-419P 4(3.5"/2.5") Marvel 6281 1.2GHz 512MB 2 4 2 11W 26W

また選択するモデルは、QNAP製NASを使用するシチュエーションによって異なるだろう。例えばご自宅で自分だけが使うのであれば、省電力化と高機能性を組み合わせた「TS-110」、RAIDが必要であれば「TS-210」がお勧めだ。個人でお仕事をなさる場合は「TS-219P」も選択肢に含めるべきだろう。

中小企業など社内で使う場合は、NASにアクセスするユーザー規模の想定が必要となる。少人数なら「TS-509Pro」でも良いが、多人数が同時にアクセスするシチュエーションが多いのであれば、CPUとしてIntel製Atomを搭載し、搭載メモリも1GBまで拡大した「TS-259Pro」「TS-459Pro」「TS-659Pro」の導入を考慮して欲しい。また、より規模が膨らむようであれば「TS-809Pro」「TS-859Pro」も選択肢に含まれるだろう。前者はCPUをIntel Core 2 Duo 2.8GHz、DDRII 2GBのメモリを搭載するなどパフォーマンス面の安心感があり、後者はeSATA接続ポートを備えるなど最新モデルの機能を備えている。

このように高機能で使い勝手の良いQNAP製NAS「Turbo NAS」だが、本稿では短期集中連載としてNASの有効活用方法を紹介しつつ、その優位性を紐解いてみたい。