従来、企業からの情報発信はメディアを通じて行なうのが一般的でしたが、最近は自社サイトを活用して積極的に情報発信に取り組むケースが増えています。企業によっては、社員が自社サイトを作成して広報活動に利用している例もあるでしょう。今回は、そのような職務の一環として作成したWebサイトについて、作成した社員自身が「著作権者」であると主張できるかという問題について考えていきます。

基本的には、「職務著作」制度によって従業員の主張は認められないものの、社内規定によっては認められるケースもあるようです。会社と従業員間でこのような問題が起きないようにするためにも、しっかりと理解しておきたいところです。(編集部)


【Q】自社のWebサイトを作った社員が著作権を主張、どうすれば?

当社では、Webサイトで会社の業務の広報・宣伝などの情報を発信することにしました。そこで、ある社員に命じて文章と写真からなるコンテンツを作成させたのですが、その社員が「私が作成したものだから私が著作者である」と言い出して困っています。この場合、その社員個人が著作者となるのでしょうか。また、社員ではなく派遣社員に命じてコンテンツを作成させた場合はどうでしょうか。


【A】職務上作成したものであれば、通常は会社が著作者になります。

会社のWebページのコンテンツについて、作成者が会社の従業員であって職務上作成したものであれば、会社が著作者となります。ただし、社内規則などに「職務上創作した著作物であっても従業員の著作物となる」旨の社内規定があれば、著作者はその従業員個人となります。派遣社員の場合も、職務上作成したものであれば同様に考える見解が一般的です。


「職務著作」の制度とは?

著作権法は、著作物を「創作する者」を著作者としています(同法第2条1項2号)。そうすると、現実に創作という具体的行為を行うことができるのは個人だけですので、これに従えば、ご質問のケースでは、実際に会社のWebページのコンテンツを作成した従業員個人がコンテンツの著作者ということになってしまいかねません。

しかし、コンテンツを従業員が職務上作成した場合についてまで著作者が従業員であるということになると、会社がコンテンツを公表したり複製・改変などする場合、いちいちその従業員の許諾を得ることが必要になり、これではあまりに不都合です。

そこで著作権法では、一定の要件を満たす場合には、実際に創作活動を行った個人ではなく、その個人を雇用する会社などが自動的に著作者となることを定めています。これを「職務著作」の制度といいます。

職務著作となるための5つの要件

職務著作となるためには、次の5つの要件をすべて満たすことが必要です(同法第15条1項)。

  1. 法人その他使用者(法人など)の発意に基づくものであること

  2. その法人などの業務に従事する者であること

  3. 2の者が職務上作成するものであること

  4. その法人などの著作名義で公表するものであること

  5. 契約、勤務規則、その他に別段の定めがないこと

1の「法人などの発意」とは、著作物の創作が法人などの意思に基づくものであるという意味です。

会社からその従業員に対して、その著作物の作成を命じる職務命令があった場合がこれに含まれることはもちろんです。さらに、従業員の自主的な企画を上司が承認した上でその著作物が作成された場合なども、ここにいう「法人などの発意」に含まれるものと考えられています(経理業務プログラム職務著作事件、名古屋地裁平成7年3月10日判決)。

2の「法人などの業務に従事する者」とは、典型的には、雇用契約に基づき業務に従事する従業員を指します。

もっとも、「法人などの業務に従事する者」にあたるかどうかは、法人などと著作物を作成した者との間に直接の雇用関係があるかどうかといった形式的な観点から判断されるのではなく、その者との間の指揮監督関係の有無・程度などを総合的に考慮して実質的な観点から判断されるという考えが有力です(四進レクチャー事件、東京地裁平成8年9月27日判決参照)。

3の「職務上作成する」とは、その者の職務として作成された著作物であるという意味です。

職務上作成されたものであれば、勤務時間外に作成された場合や、勤務場所以外の場所で作成された場合であっても構わないと考えられています。

4の「法人などの著作名義の下に公表するもの」とは、著作権法の条文では「公表したもの」ではなく、「公表するもの」とされていることから、まだ公表されていなくても、著作物が創作される段階で法人などの名義で公表されることが予定されていれば、この要件を満たすものと考えられます。

なお、著作物がコンピュータープログラムである場合については、その性質上必ず公表されるとは限らないことから、この要件は必要とされていません(同法第15条2項)。

5の「契約、勤務規則、その他に別段の定めがないこと」とは、著作物の作成のときに、何らかの契約や合意、就業規則や勤務規則などにおいて、著作物を作成した者を著作者とする内容の規定がある場合には、職務著作の規定の適用はなく、作成者が著作者となるということです。

相談事例について


(1)従業員に命じてコンテンツを作成させた場合

ご相談の事例についてみると、作成されたコンテンツは、会社のWebサイトで会社の業務の広報・宣伝などの情報を発信するために会社の従業員に作成を命じたものということですから、会社の発意によって作成され、会社の名義の下に公表されることが予定されているものということができます。

また、作成したのは会社の従業員であり、その業務の一環として作成されたものといえますので、会社の業務に従事する者がその職務上作成したものということができます。

したがって、ご相談の事例では、社内規則などに「職務上創作した著作物であっても従業員の著作物となる」旨の規定がない限り、作成されたWebコンテンツの著作者は、実際にコンテンツを作成した従業員ではなく、会社になると考えられます。

この場合、著作者たる会社がコンテンツに対する著作権と著作者人格権を取得することとなり、現実にそのコンテンツを創作した従業員個人がそれらの権利を取得することはありません。

(2)派遣社員に命じてコンテンツを作成させた場合

それでは、派遣社員に命じてコンテンツを作成させた場合はどうでしょうか。

この点、労働者派遣法に基づく派遣労働者は、派遣元の会社との間に雇用関係があり、派遣先の会社との間には雇用関係はありません。そこで、「法人など(ここでは派遣先の会社を意味します)の業務に従事する者」といえるかどうか問題となるのですが、派遣労働者はその実態として派遣先の指揮命令の下で派遣先の業務に従事するものですから、上記に述べたとおり実質的に判断して、通常は「法人などの業務に従事する者」にあたると考える見解が一般的です。

したがって、派遣社員に命じてコンテンツを作成させた場合についても、通常は従業員の場合と同様に考えることになるでしょう。

(木村栄作/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/