意外な所で利用されるストレージ装置

日本においてもNetflixやAmazon Prime Videoなどストリーミングサービスが普及し、家や移動中のスマートフォンでも映画が見られるようになってきています。一方で映画館は音響技術の発達やシーンに合わせて椅子が動いたり風が発生したりと、映画館ならではの体験を重視する方向に進化してきています。

みなさんは、最近映画館で映画を鑑賞されたことはありますか? 筆者は映画館で映画を見ることが好きなので、可能な範囲で時間を作って映画館に行くようにしています。映画といえば映写機にかけられたフィルムが走行する音が印象的なイメージですが、最近ではデジタル上映が主流になってきているそうです。このため各映画館にはフィルムロールではなく、持ち運び可能なストレージ装置を用いて配信されるのだそうです。映画を見る時にもストレージが関わっているわけですね。もちろん、ストリーミングサービスを提供しているデータセンターでも大量のストレージが映画のデータを保存するために稼働しています。

ちなみに映画館向けデジタル映画データですが、5.1chの音声付き90分の映画1本で約200GB弱のサイズになるのだそうです。このサイズを大きいとみるのか小さいと見るのかは普段取り扱っているデータの大きさによるのでしょうね!(筆者は「思ったより小さいな・・・」と思いました。職業柄PB(*1)などの単位を普段から目にすることがあるので・・・)

(*1) PB:ペタバイト。GB(ギガバイト)、TB(テラバイト)の上位に位置する単位。1PBは100万GB。

ストレージ装置の種類

さて前回、この連載において取り扱う主な対象は企業内で利用される「ストレージ」です、として「企業向けストレージ環境」を構成する主な要素についてご紹介しました。要素としてSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)に繋がるストレージ装置(ストレージアレイ)を挙げましたが、企業内で利用されるストレージ装置には他にも種類があります 。 連載第2回となる今回はどんな種類のストレージ装置が存在するのかについてご紹介します。

1. 内蔵ストレージ

みなさんが普段利用されているパソコン(クライアントPC)や社内に存在するサーバーなどは大抵何らかのストレージを内蔵しています。一昔前であれば内蔵ストレージといえばハードディスク(HDD)でしたが、近年多くのパソコンではフラッシュメモリを使用したSSDが主流になっています。もちろん、サーバーでもSSDを利用するケースが増えてきていますが、SSDはHDDと比較して記憶容量当たりの単価が高価であるため、大容量のストレージが必要なサーバーではまだHDDが利用されるシーンも多いです。

2.外付けストレージ

外付けストレージのうちもっとも手軽に利用可能なのが、USBケーブルを使用して接続するタイプの製品です。USB接続の外付けストレージはご家庭でもテレビに接続して録画用として利用されていることも多いですね。必要に応じて抜き差しが自由で持ち運びにも便利ですが、その特性が情報漏洩などのセキュリティリスクにも繋がることから、企業においては内容を暗号化したり、USB接続のストレージを利用すること自体を禁止していることも珍しくありません。

また最近ではあまり見かけなくなりましたが、複数台のHDDを収容してサーバーにUSBやSAS(*2)で接続するタイプの外付けストレージも存在します。

(*2) SAS : “Serial Attached SCSI”の略。コンピューター用ストレージの規格としてポピュラーな”SCSI(Small Computer System Interface)”は、規格制定当初は並列(Parallel)転送方式を使用していた。これに対しシリアル(Serial)転送方式を使用するように改良した規格。

3.ストレージアレイ

前回、ストレージアレイは『大量のデータをユーザーの求めに応じて格納し、また必要に応じて取り出せるような意図を持って作成された機械装置です。』と説明しました。大量のデータを扱えるようにするため、“Array”という名が示すように多数の記憶メディアを搭載しています。データを扱うサーバーの外部に、通常はネットワーク経由で接続され、複数のサーバーからの利用を可能としています。

さらにこれら多数の記憶メディアやネットワーク接続を制御し、その大きな記憶領域を他のコンピューターから利用可能にするために専用のOSが稼働しています。

  • 図1:ストレージ装置の種類

「内蔵ストレージ」&「外付けストレージ」と「ストレージアレイ」の違い

上に挙げた3種類のストレージを大きく分類すると「内蔵ストレージ」&「外付けストレージ」 と「ストレージアレイ」に分けることができます。この両者は何が違うのでしょうか?

「内蔵ストレージ」と「外付けストレージ」は記憶メディアそのもの、あるいは記憶メディアにサーバーやパソコンと接続するためのインターフェースと電源を付けただけの製品です。データを読み書きするための制御は内蔵、あるいは接続されたサーバーやパソコンが行います。極言すると「タダのハコ」です。

これに対して「ストレージアレイ」はそれ自体が直接ネットワークに接続して通信する機能を持ち、ネットワーク経由で流れてくるデータを記憶メディアに書き込む、あるいは記憶メディアから読み出したデータをネットワーク経由で送り出す機能を持ちます。

実はこれ、サーバーが動く仕組みと同じなのです。例えば、メールサーバーは他のメールサーバーとの間、あるいはユーザーのクライアントPCやスマートフォンとの間でネットワークを経由して「メール」というデータをやりとりします。Webサーバーであればネットワーク経由で送られて来たリクエストを受け取って解釈し、文章や画像、動画などWebページを構成するデータを送り出します。同じですよね。

使われ方の違いもあります。「内蔵ストレージ」と「外付けストレージ」は基本的には直接接続されたコンピューターからのみ使用することを前提としています。もちろん Windows のファイル共有などを設定すれば他のコンピューターから使用することもできますが、その場合は「内蔵ストレージ」や「外付けストレージ」が接続されたコンピューターを常に稼働状態にしておく必要があります。

一方の「ストレージアレイ」は最初からネットワークに接続して複数のコンピューターから使用されることを前提としています。その代わり「ストレージアレイ」上で専用OSが動作しており、ストレージサービス提供中は常にこれが稼働状態にあります。つまり、「ストレージアレイ」は「ストレージに関するサービスに特化したサーバー」なのです。

「ストレージアレイ」の構成

ここで前回掲載した「企業向けストレージ環境」の概念図を再掲します。

  • 図2:「企業向けストレージ環境」概念図

上の図で「ストレージコントローラー」となっている部分がサーバー本体、「ディスクシェルフ」の部分がサーバー本体に接続された外付けストレージと捉えていただくと分かり易いかもしれません。

ストレージアレイは「ストレージコントローラー」の性能や構成、「ディスクシェルフ」に搭載可能な記憶メディア数の違いなどによりSOHOなどの小規模環境向けからデータセンターなどで使用される大規模向けのモデルまで様々な種類の製品が流通しています。

小規模向け~大規模向けの製品まですべての製品に共通するのは、大量のデータを安全に保管する、あるいは複数のサーバーに対して同時にストレージサービスを提供するために工夫された仕組み(ハードウェア、専用OS)を持っているということです。

まとめ

今回取り扱った内容は以下の通りです。

・「ストレージ装置」には「内蔵ストレージ」「外付けストレージ」「ストレージアレイ」がある
・「内蔵ストレージ」「外付けストレージ」はデータ入出力の制御を接続先のサーバー/クライアントPCが行う
 ・「内蔵ストレージ」「外付けストレージ」は基本的に接続先のコンピューターが使用することを前提として設計、製造されている
・「ストレージアレイ」はデータ入出力の制御を自ら行う
・「ストレージアレイ」はネットワーク経由で複数のコンピューターが使用することを前提として設計、製造されている
・「ストレージアレイ」は「ストレージに関するサービスに特化したサーバー」である

次回予告

前回と今回は、ストレージにまつわる概念的な話題について説明させていただきました。

次回は少し技術的な話題に踏み込み、ストレージサービス特有の仕組みのうち「大量の記憶メディアをどう取り扱い、データの安全性を確保するのか」に特化した技術「RAID(Redundant Arrays of Independent Disks)」について説明します。

いよいよ「ストレージ講座」らしい領域に踏み込んでいくので、お楽しみに。

それではまた次回、地味でディープなストレージの世界でお目にかかりましょう。

[ 著者紹介 ]
神谷 一郎
Dell Technologies(EMCジャパン株式会社)
ITXコンサルティング部 コンサルタント

ITベンチャー、国内大手ユーザー系SIerなどを経て2012年EMCジャパン入社。 バックアップ製品、ストレージ製品導入プロジェクトにおいて主に基本設計、一部で構築~導入およびユーザーへのスキルトランスファーを担当。その後約2年間のVMware勤務を経て2015年10月より現職。ITインフラアーキテクチャー策定やマルチクラウド環境に関するコンサルティングを主業務とする。SE、PM経験を活かしたテクノロジー系コンサルティングを得意としている。