キヤノンマーケティングジャパン(以下、キヤノンMJ)が、2015年を最終年度とする「長期経営構想フェーズII」を発表した。
2006 - 2010年まで取り組んだ「長期経営構想フェーズI」では、「キヤノン製品事業の国内圧倒的ナンバーワンの実現」「2010年に売上高1兆1,000億円、経常利益率5%以上」「ブランド価値の向上」といったテーマに取り組んできたが、2010年の連結業績は、売上高が6,741億円、経常利益率は1.4%に留まった。また、ITサービスとITプロダクトをあわせた「ITソリューション事業」で売上高3,000億円を掲げた「ITS3000計画」が、2010年度実績で1,513億円と大幅な未達。M&Aやアライアンスの推進などを積極化させたものの、収益性の低いSIサービス偏重の事業モデルから脱却できなかったほか、「経済環境の激変の影響もあり、計画は道半ばの状況で終わった」と、キヤノンMJの川崎正己社長は振り返る。
だが、この計画をあきらめたわけではない。むしろ、この事業を発展させ、全社規模での改革につなげようとしているのだ。
長期経営構想フェーズIIでは、「キヤノン製品のシェア拡大」「事業の多角化」「グループ経営革新」とともに、「サービス事業会社化」を重要なテーマのひとつに掲げながら、「サービス事業会社化は、ITS3000計画の発展系として捉え、これによってグループ全体をサービス事業会社に変革することを目指す」と語る。
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4つの重点戦略を唱えたキヤノンMJの長期経営構想フェーズII(Webサイトはこちら) |
サービス事業会社化では、ドキュメントソリューションにおける保守サービス事業の強化、クラウド・コンピューティングへの取り組みを柱としたITS事業の促進、ドキュメント・ITソリューションのアウトソーシングビジネの加速に取り組むほか、コンスーマ事業においても、デジカメやプリンタによるイメージング事業関連ポータルサイトを立ち上げ、サービス事業の拡大を図る。さらに、アジアに進出する日本の企業に対して、ITソリューションを提供することにより、現在、38%の売上げ構成比となっているサービス事業の比率を、2015年には45%以上に引き上げる計画だ。「45%の構成比に留まらず、できれば50%の構成比にまで引き上げたい」と、川崎社長は意欲をみせる。
キヤノンの「グローバル優良企業グループ構想フェーズIV」と連動したキヤノンMJ長期経営構想フェーズIIについて川崎正己社長は、「『事業創造で新しい成長の道へ』を旗印に推進する。これを表現する言葉が『Beyond CANON,Beyond JAPAN』になる」と語る。
だが、Beyond CANON,Beyond JAPANという言葉に示されるように、これまでにはなかったキヤノンMJ独自の取り組みがいくつかある。
たとえば、2006年にキヤノン販売からキヤノンMJに社名を変更した際には、ジャパンの文字に、日本での展開を強調する意味が込められていた。しかし、今回の長期経営構想フェーズIIでは、日本に留まらず、アジアでの取り組みを明確なターゲットに加えてみせた。2015年度の海外売上高および輸入商品売上高比率は10%を目標にし、さらに、グループ経営革新への取り組みとして、「グローバルサービス企業にふさわしい人材育成」を重点課題のひとつに掲げるなど、将来に向けたサービス事業の海外展開拡大にも布石を打つ。
また、サービス事業会社化では、キヤノン製品の販売、保守、サービスの強化だけでなく、キヤノンMJ独自の事業となるソリューション事業の強化を示した。ここに、Beyond CANON,Beyond JAPANの意味があるといえよう。
Beyond CANON,Beyond JAPANを具現化するひとつの取り組みが、クラウド関連事業ということになる。すでに2010年には、クラウドビジネスセンターを設立し、今年1月にクラウドテクニカルセンターを新設。100人体制のクラウド専門組織をスタートさせている。2012年秋には自社データセンターによるサービスを開始し、2013年度にはクラウド関連事業で450億円の売上高を目指すという。
同社では、2013年までの3カ年で、1,000億円の設備投資を行う計画を明らかにしているが、そのうち、データセンターに約150億円、クラウドIT基盤では100億円の投資を盛り込んでいる。クラウドビジネスやアウトソーシングビジネスによるストック型ITサービス事業の拡大は、SIサービス偏重の事業モデルからの脱却とも直結することになる。
アウトソーシング領域では、データセンターサービス、システム運用サービス、クラウドサービス、BPOサービスの4つの分野でサービスを展開する。
もちろん、SIサービス事業の改革にも挑む。プライム案件の拡大への取り組み、収益管理の徹底による収益改善は重点課題だ。キヤノンMJでは、2015年度の連結売上高は8,500億円、営業利益が425億円、営業利益率は5%を目指す。これが長期経営構想フェーズIIのゴールである。
Beyond CANON,Beyond JAPANを実現する事業の成長こそが、長期経営構想フェーズIIの達成を左右することになりそうだ。