予言通りに原発が止まった
昨年、短期集中連載した「災害リスクに備えた企業コミュニケーションを考える」での指摘が、現実のものとなりつつあります。北海道電力の泊原発3号機が定期検査のために停止し、大阪万博に届けられた「原子の灯」から数えて42年ぶりに日本から原発の電気がなくなりました。そして、今夏の全国的な「電力不足」が懸念されています。
最も深刻とされるのは「関西電力管内」です。原発が止まっても「電力不足は起こらない」と主張する声もありますが、震災前の2010年度に全発電の48%を原発に依存していたのが関西電力です。この数値から見て、節電努力だけで回避できるとは考えにくいものです。
そしてゴールデンウィーク中、枝野経産大臣は「計画停電」の可能性を示唆しました。彼は2011年の「関東計画停電」時の官房長官です。人は困難な局面に立たされた時、体験したことを選択する性質があります。ただ、この夏の安易な「計画停電」は「死人」が出る可能性があります。というわけで、0.2特別編として、今回は「今夏の計画停電」についてお送りしましょう。
「関東計画停電2011」の実態
昨年の「関東計画停電」は寒さも緩んだ3月中旬以降でしたが、「関西計画停電」が実施されるとすれば、電力需要が高まる「猛暑」のピーク時です。そこで電気が止まれば「熱中症」が懸念されます。
消防庁に確認したところ、「電気があろうがなかろうが、命を守るために万全の体制で臨んでいる(筆者要約)」と心強い回答がありました。昨年、計画停電対象エリアでは、隣接する対象外の病院、非常用電源を用意している施設などと連携をとっていたと言います。しかし、小さな病院では計画停電対象時間に「休診」する医院があったのも事実で、ともすれば命に直結する課題です。
電気が止まると信号も止まります。エアコンの効く自動車はともかく、酷暑の中を歩く人、自転車、バイクに、俗に関西人の特徴とされる「せっかち」が重なれば、信号の止まった交差点のリスクは高まります。ちなみに、「関東計画停電」では幹線道路でさえ、止まった信号に警官がいないことがありました。
さらに、これは警鐘を鳴らす意味で添えるのですが、電気が止まると「防犯カメラ」も止まります。コンビニのレジにはバッテリー内蔵のタイプがあり、「関東計画停電」でも「バッテリーが切れるまで営業中」と貼り紙して営業を続けているコンビニがありました。「関東計画停電」は約2週間だけのことでしたが、「関西計画停電」が実施されれば残暑が続く限り終わりが見えません。暑さと停電のダブルパンチのストレスが心を弱らせ、人を粗暴にすることは容易に想像できます。
電気の安定供給は「待った」以前の話
経産省に取材すると「計画停電」を回避するために、あらゆる手段を講じていると言います。ならば、「原発再稼働」も1つの選択肢でしょう。ところが地元の理解を得て、再稼働へと向かっていた九州電力玄海原発は、昨年7月の菅直人前首相の突然の「ストレステスト」で頓挫し今に至ります。
もちろん、前首相が宣言した「脱原発」も1つの方法です。その実現には火力発電への依存を高めなければなりません。すると、地球温暖化ガス25%削減という国際公約の実現を困難にします。あるいは、自国で削減できない分を「排出権の購入」で補うとすれば、年間数千億円規模での支出が我が国の「財政」を悪化させるのは自明です。そして、野田首相は「財政再建」を旗印に「消費税増税」へ政治生命を懸けています。
財政再建は「まったなし」ですが、「消費税増税」による財政再建シナリオにとって、経済の「現状維持」は最低条件です。しかし、電気が止まれば製造業は止まり、商業も停滞し、経済は悪化し、財政再建は遠のきます。つまり、「電気の安定供給」は「待った」をする以前の話です。
「無計画」を白紙のキャンバスとするなら、他人の進言を受け入れる余白がそこにはあることでしょう。しかし、今の政権は首相や大臣の「やりたいこと」という下書きを強引になぞる「計画0.2」に見えて仕方がありません。枝野経産大臣が「計画停電」を匂わせたのも、官房長官時代に菅直人前首相とともに描いた「脱原発」という「やりたいこと」のためではないかと穿ってしまいます。
13ヵ月で定期検査に入ることになっていた原発
そもそも、「計画停電」も「0.2」だったのではないでしょうか。それは供給力が需要を上回っていたという結果論によるものではありません。昨年の関東計画停電では東京23区のうち、足立区の3分の1と荒川区の一部が対象となり、それ以外の地域では煌々と明かりが灯っていました。すると、停電の境界ではあちらとこちらで「未開のジャングルと文明社会」のような「地域格差」が生まれます。商売において「停電する店と停電しない店」ならどちらが有利かは明白です。
停電エリアの設定、その区分についての「妥当性」の検証を経産省に訊ねると「やっていない」と回答します。つまり、「当てずっぽう」の「計画停電0.2」ではないかという批判をいまだに否定しきれずにいるのです。そして、こうした「不公平」を甘受するほど関西人は甘くありません。蒸し暑い夏の夜の闇、終わりの見えない「計画停電」のストレスのなか、道頓堀に飛び込む人が続出しないかと危惧しています。
原子力発電所が13ヵ月で定期検査に入ることは震災直後からわかっていたことで、結果、原発が止まりました。代替エネルギーの目処もついていません。つまり、1年以上エネルギー政策を放置してきた「計画0.2」でもあります。あるいは昨年、事実上の政府の命令でありながら、「計画停電」への不平や不満が「東京電力」に向けられたように、「関西電力」に批判を集めて政府の無策から目を逸らせる「計画」なのかもしれません。
エンタープライズ1.0への箴言
「やりたいことしかやらない政治は無計画よりタチが悪い」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。